生きた化石シーラカンスを解説!恐竜並みに珍しい深海魚の秘密とは?

おはヨシキリザメ!サメ社会学者Rickyです!

今回のテーマはサメではありませんが、ラブカやミツクリザメなどの深海ザメと並ぶ、あるいはそれ以上に大人気の魚を取り上げます。

その魚とはシーラカンスです!

名前自体はほとんどの人が知っていますが、どんな生物なのかはよく分からないという方も多いと思います。

また、「魚」と言いましたが、実はシーラカンスを「魚」と呼ぶのは不適切かもしれません・・・。

  • 神秘的で謎多きシーラカンスは何がそんなにすごいのか?
  • シーラカンスは果たして本当に魚なのか?

これらの疑問に僕なりにお答えしていきます!

目次

解説動画:生きた化石シーラカンスを解説!恐竜並みに珍しい深海魚の秘密とは?

このブログの内容は以下の動画でも解説しています!

※動画公開日は2020年11月11日です。

シーラカンス発見物語

シーラカンスの何がすごいかと言えば、その仲間が全て絶滅したと思われていたのに、20世紀になって突如生きている姿が発見されたということです。

最初にシーラカンスが発見されたのは1938年の南アフリカでした。

マージョリー・コートニー=ラティマーさんという博物館のスタッフは、以前から漁港に足を運んで珍しい魚が獲れていないか、標本にすべき魚はいないかを確認していたそうです。

そして1938年の12月22日、ある漁船の船長が捕獲した大きな魚が彼女の目に留まりました。

大きさは約1.5m、鮮やかな青色をした大きな鱗に覆われた魚で、他の魚とは明らかに違う特徴がありました。

ラティマーさんはこの魚を詳しく調べるべく、なんとタクシーに乗せて博物館まで持ち帰りました(1m以上あるよく分からない魚を乗せてくれるタクシー運転手がいたことにも驚きです)。

当時の博物館には保存用の薬品や冷凍庫などの設備が整っていなかったらしく、ラティマーさんは内臓などを取り除いてその魚を標本にし、魚類の生態や分類に詳しいJ・L・ B・スミス教授にスケッチを送りました。

ラティマーさんのスケッチ。可愛いですね。

スケッチを受け取ったスミス教授は後に実物の標本を確認し、この魚がシーラカンスの仲間であると確信します。

それから14年たった1952年、最初の発見場所から北に3000㎞離れたコモロ諸島で、ラティマーさんが発見したのとそっくりな魚が再び発見されます。

この魚が詳細に調べられた結果、間違いなくシーラカンスの仲間だと確認されました。

このシーラカンスはLatimeria chalumnaeという学名がつけられました。属名のLatimaeriaは発見者のラティマーさん、種小名のchalumnae(カルムナ/チャルムナ)は発見された場所にそれぞれ由来しています。

Latimeria chalumnaeの液浸標本

これは歴史的なニュースとなって世界に報じられ、シーラカンスは「生きた化石」として有名になりました。

恐竜発見並みの衝撃

「生きた化石」と聞くとロマンがありますが、実はそういう生物自体は割と沢山います。

そもそも「生きた化石」とは、大昔の祖先と外見があまり変わらないような生物を指して使われますが、この定義に沿えば、ゴキブリやトンボなども生きた化石です。

しかし、シーラカンスはLatimeria chalumnaeが発見されるまで、白亜紀末に恐竜などと共に絶滅したと考えられていたという点で、その発見は衝撃的でした。

シーラカンスの仲間は約4億年前に現れたとされ、大きさや形も様々な種類の化石が発掘されていましたが、白亜紀末のK-T大絶滅、つまり恐竜を滅ぼしたとされるあの大量絶滅の後の地層から全く発見されませんでした。

シーラカンス類の化石

そのため、シーラカンスは恐竜などと一緒に絶滅したというのがそれまでの通説でした。

そんな魚が20世紀になって突然発見されたというのは、控えめに言ってどえらいことです。

今でこそ僕らはシーラカンスが生きているのを当たり前に感じていますが、今日アマゾンの奥地でヴェロキラプトルの生き残りが見つかるのと同じレベルの超大発見だったんです。

実は2種いるシーラカンス

「シーラカンス」という言葉で一種だけを指すと思っている方も多いですが、実はシーラカンスは100種以上の化石が見つかっており、現生種も2種確認されています。

大きさや形も様々な種類の化石が確認されており、その多くが浅い海や淡水に住んでいましたと考えられています。

そして、その生き残りであるLatimeria chalumnaeが発見されてから約20年後、もう一種の現生シーラカンスが発見されます。

1997年、シーラカンスが最初に発見されたアフリカから遠く離れたインドネシアにて。新婚旅行を楽しんでいた生物学者のエルドマン博士が、魚市場で売っている魚の中にシーラカンスを見つけました。

当たり前のように書きましたが、「鶏肉屋行ったらティラノサウルスの頭が置いてあった」と同じレベルでとんでもない光景です。

この魚を詳細に調べることはできなかったそうですが、翌年の1998年、さらにもう一匹のシーラカンスが発見され、DNAなどが詳細に調べられました。

その結果、ラティマーさんが発見したものとは別種のシーラカンスであることが確認され、Latimeria menadoensisという学名が付けられました。

インドネシア近海に生息しているシーラカンスLatimeria menadoensis

シーラカンスはサメも食べる?

こうして現在まで2種確認されているシーラカンスですが、一体どこで何を食べて過ごしているのでしょうか?

世間一般のイメージの通り水深数百メートルという深海にもいますが、胃の中から浅い海に住む魚や頭足類の仲間が見つかっており、水深50m程度の浅い海にあがってくることもあるようです。

そのエサの食べ方ですが、シーラカンスは頭を下に向け、逆さになった姿勢で獲物を探します。

シーラカンスは口を開くと、上顎に折りたたまれていた膜が広がって筒状になり、この筒状の口で海水ごと獲物を吸い込んでいると思われます。現に、シーラカンスの胃の中には30~40cmくらいのキンメダイや小型のサメ類が丸々入っていることもあります。

口を広げたシーラカンス。
よく見ると鋭い歯を持っています。

交尾と繁殖の謎

シーラカンスは卵ではなく、直接赤ちゃんを産みます。

このことは、モザンビーク海峡で捕獲されたメスのシーラカンスの胎内から30~40cmほどの赤ちゃんが26尾見つかったことで判明しました。

しかし、そうなると気になるのは「どうやって交尾をしているのか?」という点です。

以前の魚の生殖の動画でも少し話しましたが、胎内で赤ちゃんを育てるのであれば、メスの胎内にある卵に精子を送り込む体内受精をするはずです。現に、サメの仲間はクラスパーと呼ばれる交尾器をメスに挿入して交尾します。

胎内で赤ちゃんを育てるのであれば、メスの胎内にある卵に精子を送り込む体内受精をすると考えられます。現に、サメやエイの仲間はクラスパーと呼ばれる交尾器をメスに挿入して交尾します。

エイの腹ビレ。左右それぞれに突起状の交尾器があります。

しかし、シーラカンスの体には交尾器らしきものがまだ確認されていないようです。

シーラカンスの生殖というのは、彼らが何故絶滅を免れたのかという壮大なテーマにつながるものですから、この辺も明らかにして欲しいですね。

シーラカンスは人間に近い仲間?

シーラカンスは「古代魚」や「深海魚」と紹介されることが多いですが、実は世間で思われているよりも僕たちに近い存在です。

シーラカンスのヒレを観察してみましょう。

シーラカンスのヒレは、腕が伸びた途中からヒレに変形しているような見た目をしています。翼や団扇のような形をした硬骨魚類やサメ類の胸ビレとはだいぶ違っていますね。

このように肉付きのいいヒレを持っているため、シーラカンスは肉鰭類というグループに分類されます。

肉鰭類の仲間はほとんどが大昔に絶滅しており、現在も生きているのはシーラカンスと肺魚と呼ばれる動物だけです。

肺魚の仲間も普通の魚たちとは異なるヒレを持ち、名前の通り肺呼吸を行います。そして、化石で見つかるシーラカンスの仲間にも、薄い骨の板で覆われた肺が確認されています。

オーストラリアハイギョ。肺魚類の中でも原始的な仲間で、シーラカンスにヒレ

「腕のようなヒレと肺を持つ魚」と聞けばピンとくるかもしれませんが、シーラカンスは水中に住む魚から僕たち陸生脊椎動物への架け橋になった生物の仲間なんです。

魚がなぜ陸に上がったのか。その理由については諸説ありますが、僕たちを含む陸上の脊椎動物が魚から進化したことは間違いないです。

ここで注意をしておきたいのが、進化の歴史は下等な生物から高等な生物への階段を上るものではなく、枝分かれのプロセスだということです。

そして、魚と僕たち四肢動物の進化の枝分かれを大雑把に図解するとこのようになります。

真骨類と呼ばれるのが、僕たちが「普通の魚」と呼ぶタイやマグロなどの仲間です。

肉鰭類の仲間は、そうした魚たちとは異なる進化を辿り、そのうちの一部はシーラカンスに、一部は肺魚に、そして一部は最初に陸に上がった脊椎動物(やがて僕たちにつながる枝)になったのです。

実際に、魚と陸上動物の中間の身体構造をもつ生物の化石が発見されています。

例えば、ユーステノプテロンという3億8500万年前の肉鰭類は、姿こそ魚ですが、胸鰭の骨が僕たちの腕に近い構造をしています。

さらに有名で決定的なのがティクターリクという生物です。ティクターリクはヒレを持っていますが、以下のような魚らしからぬ特徴を持っていました。

  • ワニのように頭が平たく、目が頭の上にある
  • 頭と肩の骨が離れており、いわゆる「首」をもっている
  • 胸ビレに肘や手首を持ち、腕立て伏せのような動きができた

現生のシーラカンスも、肉質のヒレなどの特徴がこうした肉鰭類と共通しています。肺の構造などに多少の変化はあるものの、化石で見つかっている仲間たちとほとんどん変わらない姿で生き残ってきました。

シーラカンスは僕たちの祖先というわけではないですが、タイやマグロなどの魚よりも僕たちに近い仲間ということになります。

そう考えると、未知の深海魚であるシーラカンスが、少し身近な存在に感じられるのではないでしょうか?

参考文献

  • アクアマリンふくしま『シーラカンスとは』(2022年6月4日閲覧)
  • 大石道夫『シーラカンスは語る 化石とDNAから探る生命の進化』2015年
  • 沼津港深海水族館シーラカンスミュージアム『Coelacanth – シーラカンスの謎』(2022年6月4日閲覧)

※本記事は2022年3月までにWebサイト『The World of Sharks』に掲載された記事を加筆修正したものです。

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