サメと言えば、生態系の頂点に君臨するハンター、強い動物というイメージがあると思います。
実際に一般向けのサメ図鑑の中には「海の王者」や「美しき捕食者」など、そうしたイメージを反映した名称が付くことが多いです。
しかし、厳しい自然界の中では、サメが襲われる側になってしまうこともあります。
今回はサメを捕食する動物の中から、有名どころやニュース等で話題になったものを中心に紹介していきます。
解説動画:海のハンターが壮絶バトル?サメを襲って食べる動物7選
このブログの内容は以下の動画でも解説しています!
※動画公開日は2024年8月25日です。
ワニ
サメと同じく水中の危険生物として恐れられるワニが、サメを食べることがあります。
これを聞いて,
え、ワニは川の生き物では?
と思うかもしれませんが、海に現れるワニも、川に現れるサメもいます。
例えば、オオメジロザメは塩類濃度の低い環境への適応能力が高く、海水や汽水だけでなく淡水域にまで現れ、特に幼魚が川を遡上することがあります。
そうやって川を泳いでいたオオメジロザメがイリエワニなどに襲われてしまうことがあり、複数の目撃談や証拠写真が存在します。
他にもミシシッピワニが、コモリザメ、ウチワシュモクザメ、ニシレモンザメなどを捕食した事例があります。
ミシシッピワニはイリエワニなどに比べると海水への耐性は低いはずですが、これらのサメはかなり浅瀬に現れることもあるので、塩類濃度がそこまで高くない場所でミシシッピワニに遭遇して襲われたのでしょう。
ただし、逆にワニが大型のサメに食べられてしまうこともあるようで、実際にイタチザメの胃からイリエワニが丸ごと出てきた記録があります。
あまり知られていないだけで、サメとワニは意外に関わり合って生きているのかもしれません。
シャチ
サメを襲う捕食者としてシャチも挙げられます。
シャチはエコタイプと呼ばれる食性や行動が異なる複数のグループに分かれており、このうち一部のエコタイプがサメ類を襲っています。
例えば北東太平洋海域に生息するシャチのうち、オフショアと呼ばれる沖合や外洋に棲むグループはサメ類をよく襲っていることが分かっています。サメ肌によって摩耗するためか、彼らの歯はかなりすり減っています。
また、近年南アフリカに現れたポートとスターボードと呼ばれる二頭のシャチがホホジロザメやエビスザメなどを次々に襲っており、腹を切り裂かれて肝臓や心臓を失ったサメが打ち上がることがあります。
さらに、この捕食行動が他のシャチに広まっている可能性があり、サメ類の個体数や行動パターンへの影響が懸念されています。
この二頭のシャチがどこから来たのか?ホホジロザメのように狩るのに苦労と危険を伴うであろう獲物を何故襲うようになったのか?詳細は明らかになっていません。
実際にシャチがホホジロザメを襲う映像がコチラ↓
ちなみに、一部のブログやYouTube動画では、
ホホジロザメが最強とか言われているけど知能と肋骨を持つシャチの方が強い!サメは雑魚!
人を襲わないシャチは賢い!シャチしか勝たん!
などという、低レベルな幼稚園児が作ったようなコンテンツが乱立しています。
シャチはグループによって食性に偏りがあるので、どのシャチもサメを襲っているというわけではなく、捕食される側であることは生物として劣っていることも、魅力や価値に欠けることも意味しません。
動物好きを自称しながらそんなことも理解できないとは、どうもシャチ好きを自称する方の中には独特の感性をお持ちの方がいるようです(もちろんシャチ愛好家には素晴らしい方も多いですし、僕もシャチは好きです)。
イタチザメがウミガメを食べるシーンを見て「ウミガメは雑魚w」などというサメ愛好家を僕は見たことないため、実に不思議だなと感じます。
知能が高いと言ってその動物を推すなら、自分自身も賢い存在でありたいですね。
他のサメ類
サメを襲う捕食者には、他のサメも含まれます。
他種のサメに襲われるケースもあれば、、自分より大きな同種のサメに食べられることもあります。
世界には550種程のサメがいるとされており、その中にはジンベエザメやホホジロザメのように大きな種もいれば、人間とそこまで変わらないサイズのサメや、片手で持てるほど小さなサメまで様々な仲間がいます。
サメの仲間は多様で種によってサイズも形態も大きく異なるので、大きなサメが小さなサメを食べるという事態も当然起こります。
例えば、ホホジロザメの幼魚からはドチザメ科のサメやヤジブカの子供が見つかっており、成魚になってからも他のサメを襲っていることが確認されています。
また、オオメジロザメは同種も含めた他のサメを襲うことがあります。美ら海水族館で飼育されていたオオメジロザメが、同じ水槽にいたアカシュモクザメやヨゴレを噛み殺してしまった話は有名です。
シュモクザメの仲間を襲うイタチザメの映像はコチラ↓
サメを襲うサメは上記二種のような大型種に限定されません。
最大全長1mほどのナヌカザメは、最大全長50cmほどのトラザメを食べることがあります。
僕自身、オオワニザメの解剖に立ち会った際、消化されたトラザメのものと思しき脊椎骨を観察したことがあります。
ある程度大型のサメの食性に関する論文を読んでいると、「軟骨魚類〇%」という数字をよく見かけるので、サメがサメを食べることは珍しくなく、ありふれた現象だと思います。
ミズダコ
「サメVSタコ」と聞くと、サメ映画中毒の人が喜びそうなネタに聞こえますが、現実世界での話です。
タコの中でも最大種ミズダコは、時にサメを襲うとされています。
もっとも有名な事例はシアトルの水族館内で撮影された映像です。
Spiny dogfish(当時は日本近海のアブラツノザメと同種だと思われていたが現在別種とされるサメ)を、同じ水槽内のミズダコが捕まえる様子が公開され、かなり話題になりました。
日本でも『謎を解け!まさかのミステリー』などのテレビ番組で紹介されていたので、覚えている方もいるかもしれません。
またナショナルジオグラフィックが、野生のミズダコが同じくSpiny dogfishと思われるサメを襲っている映像を公開しています。
ミズダコをサメを襲う動画はコチラ↓
ただし、ミズダコがどのくらい頻繁にサメを襲っているのかは定かではありません。
有名な水族館の映像について、「水族館内でタコがサメを食べたのは事実だが、この映像には仕込みがあった」という話が地元紙に掲載されていました。
また、かつて函館湾でミズダコの食性を調査した研究によれば、ミズダコは海底で暮らす硬骨魚や貝類、甲殻類を主に食べていることが分かっています。
ミズダコは全長3mを超えることもあるので、小型のサメなら十分襲えると思いますが、それがありふれた現象なのかは疑問です。
イタヤラ(ゴリアテ・グルーパー)
イタヤラはハタの仲間で、ゴリアテ・グルーパーとも呼ばれます。
「ゴリアテ」の名前から想像できる通り、全長2mを優に超えるかなり大きな魚です。
2014年、小さなサメを釣り上げようとしていた男性の目の前で、ゴリアテ・グルーパーが大口を開けてサメに食らいつく動画がネットに投稿されました。
この動画によりイタヤラは「サメを食うとんでもないハタ」として有名になり、日本近海に棲む似た見た目のタマカイも、何故か「サメを食うハタ」などと紹介されることになってしまいました。
実際にイタヤラがサメを襲う動画はコチラ↓
しかし、イタヤラは頻繁にサメを食べているわけではないと思われます。
ゴリアテ・グルーパーの歯は小さく内側を向いた形状で、大きな獲物を引き裂くのではなく、一口で食べられるような獲物を捕まえて逃がさないようになっています。
実際に彼らは、イセエビ類などの甲殻類やサメより小さな魚を主に食べています。
このイタヤラがサメに食らいついたケースについて、サンディエゴ大学の海洋生物学者マシュー・クレイグ博士は以下のようにコメントしています。
既存のデータを見る限り、イタヤラはサメを食べない。しかし概して日和見性捕食者のため、自分の口に収まりそうな“手軽な”獲物がいたら、それを狙う。
水族館で獲物の大きさを見誤り、それでもかまわず飲み込んでしまったイタヤラを見たことがある。その結果、魚の尾が口からはみ出てしまい、頭のほうが消化されて飲み込めるようになるまでそのままだった。
『巨大魚イタヤラ、サメをひと飲みに』より引用
恐らく撮影されたサメの捕食も、自分が食べられるサイズを見誤った例だと考えられます。
ハタ類がサメを襲った事例は確かにありますが、常日頃サメを食べているわけではないでしょう。
ミナミアフリカオットセイ
オットセイと言えば、どちらかというとドキュメント番組でホホジロザメに食べられる役回りの方が多い印象があります。
しかし、逆にオットセイがサメを襲った事例が存在します。
2012年、南アフリカ・ケープタウン沖にて、海洋写真家のクリス・ファローズ氏が、ヨシキリザメに噛みつくミナミアフリカオットセイの様子を撮影しました。
ファローズ氏によれば、オットセイは一尾のヨシキリザメに腹を噛み切って内臓を食べた後、次から次へとその場にいたサメを襲いだし、10尾いたサメのうち5尾を仕留めたそうです。
オットセイなどの鰭脚類がサメを食べる事例自体は他にも多くありますが、自分と同じくらい大きなサメを襲っている様子が記録された事例は非常に珍しいです。
この件は3年後の2015年に論文にまとめられ、『African Journal of Marine Sciences』に掲載されました。
このような行動がどれくらいの頻度で起こっているのか不明ですが、写真を撮影したファローズ氏は「2004年にも同じ様に、オットセイがヨシキリザメを襲っている様子を見たことがある」と証言しています。
もしかすると、オットセイは案外サメを襲っているのかもしれません。
ヒト
サメを食べる生物、最後にご紹介するのが僕たち、人間です。
道具を作ることに長けたこの直立二足歩行のサルは、陸上動物のくせに海の生き物を大量に捕まえており、その中にはサメ類も多く含まれています。
2024年1月にScienceに発表された論文によれば、2017年に漁業が原因で死亡したサメの数は少なくとも8000万尾と推定されます。未報告の分も含めればもっと数は多くなるでしょう。
サメを食べると聞いた時に、フカヒレを食べている中国人を真っ先に思い浮かべる方もいるかもしれませんが、サメ肉に関して言えば、スペインなどのヨーロッパ諸国も輸出入を行っています。
また、サメ自体を食べていなくても、マグロなどを対象にした延縄漁でサメが混獲されることがあります。そうしたサメは食用に出回ることもあれば、他の魚と一緒に飼料や肥料、健康食品などの原料として、間接的に僕たちの食に利用されます。
断っておくと、僕はサメの命を奪うことそのものを責めるつもりはありません。僕自身も釣り人や漁師さんが捕まえたサメを購入して発信活動に使っていますし、サメを食べることもあります。
ただ、サメ類は子供を産む数が少なく成長にも時間がかかるので、数が減れば回復には時間がかかります。
「サメを食うな」とは言いませんが、このままの漁獲量・消費量で良いのかという点は考えるべきだと思います。
まとめ
以上がサメを襲って食べる動物の紹介でした。
今回は有名どころやニュースなどで話題になったものを中心に取り上げてきましたが、この他にも沢山の動物がサメを食べています。
トラザメの仲間をはじめサイズが小さいサメや幼魚まで話を広げれば、サメはもっと様々な動物に捕食されており、恐らく全てを紹介するのは無理でしょう。
そのようにサメが食べたり食べられたりする複雑な生物のかかわりが生態系を構成し、その恩恵を僕たちが受けているというのは忘れないようにしたいですね。
参考文献
- Chris Fallows, Hugues P. Benoît, Neil Hammerschlag『Intraguild predation and partial consumption of blue sharks Prionace glauca by Cape fur seals Arctocephalus pusillus pusillus』2015年
- Florida Museum of Natural History『Epinephelus itajara』
- Jose I. Castro 『The Sharks of North America』 2011年
- National Geographic(Jason Bittel)『Alligators Attack and Eat Sharks, Study Confirms』2017年
- The Seattle Times(Erik Lacitis)『Eight arms not enough: Octopus had help snagging shark』2010年
- Smithsonian Magazine(Rachel Nuwer)『Fur Seals Caught Preying on Sharks Off South Africa』2015年
- ナショナルジオグラフィック日本版『巨大魚イタヤラ、サメをひと飲みに』2014年
- ナショナルジオグラフィック日本版『漁で死ぬサメは年間約8000万匹、フカヒレ漁規制するも増加、研究』2024年
- 福田雄介 『もしも人食いワニに噛まれたら!』 2021年
- 丸山 恵敬, 田村 正『凾館湾産ミズダコOctopus dofleiniの食性』1959年
- 村山司 『シャチ学』2021年
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