世界中で起きているサメ事故(シャークアタック)について調査や統計データの蓄積を行っているInternational Shark Attack File(ISAF)が、2024に発生したサメ事故の統計を公開しました。
それによれば、2024年は前年と比べてサメ事故が大きく減少していたとされています。
- 一体なぜ減少したのか?
- 起こってしまった事故の詳細は?
- 今後も減らすためにはどうすればいいのか?
今回はISAFが公開したデータをもとに、シャークアタックのトレンドやサメから身を守る方法について解説していきます。
解説動画:2024年はサメ事故が減少?しかし連続被害や有名サーファーの被害も?シャークアタックの最新事情やサメ対策を解説!
このブログの内容は以下の動画でも解説しています!
※動画公開日は2025年2月26日です。
2024年に発生したサメ事故の件数
早速、ISAFが公開したサメ関連事故の件数を紹介します。
結論から言えば、2024年のシャークアタック件数は昨年よりも減少していました。
具体的な数値は今から説明しますが、数値を理解するうえで重要な用語を以下にまとめたので、初心者の方は確認しておくことをオススメします。
- International Shark Attack File(ISAF)
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日本語では「国際サメ被害目録」。米国のフロリダ州立自然史博物館が管理しているサメ事故のデータベースで、世界中で発生したサメ関連事故を調査したり統計データをまとめたりしています。
- shark-human interaction
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人間がサメに危害を加えて噛まれた事故や、サメがボートを噛んだだけの事故なども含んだ、とにかくサメ関連と思われる事故の件数です。
- Unprovoked Bites
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Provoke(誘発する・引き起こす・挑発するなどを意)されていない状況でサメに噛まれた事例。つまり人間側がエサや攻撃でサメを刺激していないのに噛まれてしまったケースを指します。
- Provoked Bites
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ダイバーがサメを追いかけたり捕まえようとして噛まれた事故、スピアフィッシングや餌付けなどサメを刺激するような活動中に噛まれた事故などを指します。ただし、「Provoked Bites」=被害者の自業自得というわけでは決してないので、その点は誤解のないようお願いいたします。
- Others
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「Unprovoked Bites」でも「Provoked Bites」でもないカテゴリー。サメがボートを噛んだ事例、水族館での事故、サメが人の死体を食べただけ、そもそもサメによる被害か分からないものなど。ISAFは内訳を公開していますが、本記事ではひとまとめてにしています。
2024年はサメ事故が激減?
2024年に調査された88件の「shark-human interaction」の内訳を見てみると、
- 「Unprovoked Bites」・・・47件
- 「Provoked Bites」・・・24件
- 「その他」・・・17件
という結果でした。

これだけ観てもどう判断すればいいか分からない人もいると思うので去年の数字と比較してみると、2023年の「shark-human interaction」は120件。そのうち「Unprovoked Bites」69件、「Provoked Bites」22件、「その他」29件でした(2023年のデータについてはコチラ)。
そのため2023年と比較すると、2024年はトータルの事故件数がかなり少なくなっています。

この後少し触れる通り痛ましいシャークアタックの事例は確かにありましたが、あくまで統計データで言えば、2024年はかなり平和な年だったと言えそうです。
Unprovoked Bitesの地域別内訳や死亡事故
発生した88件の「shark-human interaction」の中で注視すべき事故は「Unprovoked Bites」です。
自然環境の中で、人間側が刺激をしていない(少なくともそう思われる)のにサメに噛まれた事例がどこで、どのように発生したのか?襲ったサメの種は何か?
こうしたデータの蓄積が、不幸な事故を減らす手掛かりになる可能性があります。
例年通りアメリカでの事故が最多
そこで、ISAFが公開している「Unprovoked Bites」の詳細を見ていきましょう。
まず国別の件数ですが、例年通り米国が最多で28件、ついでオーストラリアが9件、残りはエジプトやモルディブなどの国が1件ずつという結果でした。

次はこれらの「Unprovoked Bites」のうちの死亡件数です。
2024年にISAFが確認した死亡事故は米国1件、エジプト1件、モルディブ1件、西サハラ1件、合計4件でした。こちらも去年の10件に比べると半分以下に減少しています。

『パイレーツ・オブ・カリビアン』出演のサーファーが死亡
死亡事故の中で特に注目を集めたのが2024年6月、米国ハワイ州オアフ島東部のゴートアイランドで発生した事故です。
この時サーフィン中にサメに襲われて死亡したのはタマヨ・ペリーというプロサーファーの方でした。
ペリー氏は俳優業もしており、『パイレーツ・オブ・カリビアン/生命の泉』にも脇役の海賊として出演していたことで、この事故は多くのメディアに報じられました。
襲ったサメの種は不明でしたが、発見されたペリーさんの遺体には複数の噛み跡が残されており、脚や腕が失われていたそうです。
エジプトで再び死亡事故
また、以前にロシア人男性がイタチザメに食べられる様子が撮影されたエジプトでも、2024年12月に死亡事故が発生しています。
どのように特定されたのか詳細は不明でしたが、ISAFのマップデータではこの事故もイタチザメによるものとされていました。
この事故では紅海に面したリゾート地マルサ・アラムで発生し、現地当局によれば、事故が起きた場所は岸からそう離れていないものの、指定された遊泳区域の外だったそうです。
以前の記事に解説した通り、紅海は急に水深が深くなる地形をしているため、外洋性にいるような大型種と遭遇しやすい場所になっています。
また、乱獲や生息地の破壊などの人為的要因でサメの行動が変化した可能性を指摘する専門家もいるようで、エジプトのサメ事情には今後も注目する必要がありそうです。
インドの川にオオメジロザメ
死亡事故ではありませんが、個人的に気になったのがインドの事例です。
2024年2月、インドのマハーラーシュトラ州を流れるヴァイトーナ川にて、漁師の男性がオオメジロザメに噛まれ、左足ふくらはぎの筋肉をほとんど噛み千切られるという事故がありました。
オオメジロザメは最も危険なサメの一種とされ、同時に淡水域にも現れる珍しいサメでもあります。
川で見られるのは基本的に未成熟の子供という印象で、実際に僕が沖縄の川で観察した時も子ザメばかりでした。


しかし、現地の新聞が報じた情報によれば漁師を噛んだサメは2mほどあったそうです。
また同記事によれば、事故の後死んでいる状態で確保されたサメを解剖したところ、15尾の子供を身籠っていたことが判明しています。
妊娠個体だったことだったことと人を噛んだことに関連があるのか、詳しいことは不明ですが、一部の専門家は「この地域の海は食料が少ないので、エサを求めて遡上したのではないか」という推測を述べています。
以前に宮崎県に関する記事で解説した通り、オオメジロザメのメスは自身が生まれ育った河口域周辺で出産することが過去の研究で示されています。
恐らくオオメジロザメは前からこの川を生育場所にしていたのでしょう。にもかかわらず去年インドでこの1件しか事故が報告されていないのは、むしろサメの事故が起きにくいことを示しているように感じます。
今回の事故は、元からいたサメと人間が不幸な出会いをしてしまった稀な事故と考えて良いと思います。
テキサス州で連続サメ事故発生?
もう一つ注目すべき事例が、アメリカのテキサス州で起こった事故です。
ISAFは米国内の「Unprovoked Bites」については州別のデータも公開しています。
その中で例年の事故件数トップはフロリダですが、テキサス州では去年、同じ日に連続してシャークアタックが発生しました。
独立記念日を襲った悲劇
事故が起きたのは2024年7月4日、テキサス州のサウス・パドレ・アイランドです。
余談ですが、この7月4日は米国の独立記念日で、各地でイベントが催される大事な祝日です(映画『ジョーズ』で市長が執拗に海開きをしたがっていたのもこの7月4日でした)。
そんなおめでたいムードの海水浴客で賑わっていたサウス・パドレ・アイランドで、合計4人がサメによるものと思しき怪我をする事態が起きました。
CNNなどのメディアが報じた情報によれば、二人がサメに噛まれて病院に運ばれ、もう一人は噛まれた人を助けようとしている時になんらかの軽い怪我をし、もう一人はサメにぶつかられたと証言しています。
噛まれていない人の怪我については詳細不明ですが、恐らくサメの皮膚(歯のように硬い楯鱗と呼ばれるウロコで覆われている)で擦り傷を負ったものと思われます。
サメの種については、事故後に撮影されたシルエットや背鰭の形状からして、オオメジロザメのように見えます。
実際の映像はコチラ↓
一尾のサメが連続して人を襲ったのか?
この事故が起きた時に「一尾のサメが連続して人を襲ったのではないか?」という憶測が流れました。
これが事実なら、人間を狙って襲うようなサメがいた可能性が浮上してきます。
しかし、ISAFは「実際に単一のサメによるものだった」と示す証拠はないとして、この考えに否定的です。
ISAFの管理者の一人ジョー・ミゲス氏は以下のようにコメントしています。
In the case of the Padre Island incidents, it is much more plausible that multiple sharks were present in the area, responding to the same environmental cues.
(このサウス・パドレ・アイランドの事例では、同じ環境要因によって引き寄せられた複数のサメがいたとする方が遥かに現実的である)
『Unprovoked shark bites plummeted in 2024』より引用。訳は筆者。
『ジョーズ』のツッコミどころの解説でもお伝えした通り、人間を狙うように連続して襲う一尾のサメ、俗にローグ・シャークと呼ばれる事例は非常に稀であり、そうしサメがいたと示す実例はほとんど存在しません。
この手のセンセーショナルな言説がメディアから飛び出した際は、慎重に判断した方が良さそうです。
なぜサメ事故は減り、どうすれば今後も減らせるのか?
以上、確かに痛ましい事故や気になることはありましたが、件数で見れば2024年はサメの事故が少ない年でした。
直近5年間の「Unprovoked Bites」の平均件数が64件なので、過去の平均と比較しても、2024年の47件という数字は非常に少ないと言えるでしょう。
サメ事故減少の原因は不明
事故が減少した原因について、ISAFはハッキリとした理由は示していません。
先程も出てきたジョー・ミゲス氏は、今回の発表について以下のようにコメントしています。
a multitude of factors likely influenced the decrease in attacks in 2024. Those factors include changes in oceanic currents, fluctuations in the number of people in the water in certain areas, and even shifts in the popularity of water activities like surfing and snorkeling.
When looking at long-term data, we often observe an oscillating trend
(2024年のシャークアタック減少には、海流の変化、ある地域において海に入る人数の変動、サーフィンやシュノーケリングなどの活動の人気推移など、複数の要因が影響したと思われる)
(長期的に見れば、増加または減少に触れることはよくあることだ)
『Shark attacks declined sharply in 2024. It’s not clear why』より引用。訳は筆者。
「複数の要因」という言葉はメディア受けしない回答な気がしますが、実際そうだと思います。
人々の意識と行動でサメ時は防げる?
サメ事故の減少を一つの分かりやすい要因に帰することはできませんが、本件についてCNNから取材を受けたグレゴリー・スコマル氏は人々の行動でサメの事故を減らすことができると示唆するようなコメントをしています。
グレゴリー・スコマル氏は米国マサチューセッツ州でホホジロザメの研究をしており、ホホジロザメが数多く生息するケープコッドでサメの調査や啓発活動を行っています。
そんなスコマル氏のコメントは以下の通りです。
By raising awareness of areas where white sharks are likely hunting seals in the shallows off Cape Cod, I believe people have changed their behavior by not going out into deep water, swimming alone.
This might not apply in all areas, but I think scientists and other groups have made a more concerted effort to share our findings with the public so they can make informed decisions about where and when to swim,
(ホホジロザメがケープコッドにある浅瀬のどこでアシカを食べているのか知ってもらうことで、深みに行かないとか一人で泳がないなど、人々の行動が変わってきたと信じている)
(全ての地域に当てはまるわけではないが、科学者やその他のグループが私たちの発見を社会と共有する努力をもっとしていくことで、人々がどこでいつ泳ぐべきかについての十分な情報をもとに判断できるようになると思う)
『Shark attacks declined sharply in 2024. It’s not clear why』より引用。訳は筆者。
少なくともケープコッドでは、ホホジロザメの調査や啓発活動の甲斐があってか、2018年以降は事故が起きていないそうです。
ダイビング、海水浴、サーフィン、漁業、なんにしてもサメと人が出会うのは、人間が本来の生息場所を離れて、サメ達の世界にお邪魔する時です。
サメと人との不幸な接触を減らすには、サメ側をどうにかするのではなく、スコマル氏の言うように、人間側が意識や行動を変えていくべきだと思います。
あとがきにかえて:サメに噛まれない対策
今回は2024年に発生したシャークアタックについて解説をしてきました。
最後に、ISAFが公開しているサメに噛まれないための注意点を紹介して結びにします。
- 1.誰かと一緒に泳ぐ
-
一人でいる時の方が事故が起こりやすいです。これはサメに関係なく水に入る時は大事だと思います。
- 2.夜明けや夕暮れに泳がない
-
絶対ではありませんが、大型種が活発になる時間帯とされています。
- 3.魚の群れや釣りをしている人の近くで泳がない
-
お腹を空かせたサメが来るような場所に、わざわざ身を置くべきではありません。
- 4.泳ぐ時に宝石を身に着けない
-
魚のウロコが光を反射しているように見える可能性があります。
- 5.過度な水しぶきをたてない
-
無闇に暴れる音は「ここに弱った動物がいます」と宣伝するようなものなので控えましょう。
そもそもサメに出会って噛まれる確率が低いので過度な心配は不要ですが、どうしても不安な方は今お伝えしたようなことを意識してみてください。
参考文献
- CBS News『Shark kills tourist and injures another in attack off Egypt’s Red Sea coast』2024年
- CNN(Jillian Sykes)『At least 4 people were bitten in shark attacks in Texas and Florida since the Fourth of July』2024年
- CNN(Katie Hunt)『Shark attacks declined sharply in 2024. It’s not clear why』2025年
- International Shark Attack File『Yearly Worldwide Shark Attack Summary』
- Florida Museum of Natural History『Unprovoked shark bites plummeted in 2024』2025年
- Hindustan times(Pankaj Raut)『Bull shark that attacked fisherman was first sighting in Vaitarna river』2024年
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