先日、危険なサメ類やサメが関与したかもしれない死亡事故について解説してきましたが、実は海にはサメよりも怖い危険な生物が数多く生息しています。
今回はそうした生き物の中から、日本近海で出会うかもしれない生物を4種ピックアップしてご紹介します。
海水浴や磯遊びの前に、注意すべき生き物たちを学んでおきましょう!
解説動画:サメよりも怖い!?海水浴に行く前に知っておきたい海の危険生物4選【猛毒】【ゴマモンガラ】
このブログの内容は以下の動画でも解説しています!
※動画公開日は2022年7月26日です。
サメより危ない魚:ゴマモンガラ
ゴマモンガラはフグ目モンガラカワハギ科に分類される魚です。
熱帯や亜熱帯に生息しており、日本だと沖縄や奄美大島近海などでごく普通に見ることができます。
ゴマモンガラの見た目は「ちょっと厳ついカワハギ」という感じなので、あまり怖いと思う人はいないかもしれませんが、時にサメよりも恐ろしい魚に変貌します。
毎年6~8月あたりでゴマモンガラは繁殖期を迎え、この時期に巣を守っているゴマモンガラは非常に警戒心が高く攻撃的です。
ゴマモンガラは最大で70㎝くらいになりますが、それでも彼らにとって人間は自分の何倍もある巨大生物のはずです。しかし、彼らはそんなこと関係ないと言わんばかりに、巣に近寄る者に容赦なく噛みついてきます。
ゴマモンガラは固い貝を噛み砕ける強力な歯と顎をもっており、ウェットスーツすら引き裂き、指を砕かれて大怪我を負う危険もあります。
ちなみに僕もダイビングをしている時にゴマモンガラに会ったことがあります。
その時は僕が気付く前にガイドさんがすごく遠くにいる黒い影を指差し、水中で使えるホワイトボードに「あれ、サメよりも怖いゴマモンガラ 近づかないで」と書いたのを見て、ちょっとゾクッてしたのを覚えています。
あくまで卵を守るための防衛行動ですし、繁殖期以外はそこまで攻撃的ではないものの、不要に近づかない方が良いでしょう。
猛毒海餃子:カツオノエボシ
カツオノエボシは、ヒドロ虫綱に分類される生物で、平たく言えばクラゲの仲間です。
カツオノエボシは、この烏帽子(もしくは餃子)に見える独特の袋を浮きにして海を漂い、長い触手を使って魚や他のプランクトンなどを捕まえます。
カツオノエボシが持つこの長い触手には刺胞という毒針の入ったカプセルのような細胞が並んでいます。これは触手に触れると圧力が解放されて毒針が発射される仕組みです。
この刺胞自体は他のクラゲやイソギンチャクなども持っており、全てが致死的なわけではありません。毒性が弱いものや、刺胞の棘が人間の皮膚を通らないものも多いです。
しかし、カツオノエボシに刺されると、電撃を受けたような痛み、頭痛、吐き気、呼吸困難などの症状が起こり、最悪の場合は死に至ります。
毒だけで死んでしまう事例はそこまで多くないですが、刺されて動けなくなることによる溺死、アナフィラキシーショックのリスクもあるため、非常に危険です。
また、カツオノエボシは、うっかり触ってしまうリスクがあるという点でも要注意です。
カツオノエボシの触手は非常に長く青い体が海の色に馴染むため、気が付かないうちに触手に刺される恐れがあります。
さらに、カツオノエボシは浜辺に打ちあがっていることも多く、ビニールごみなどと見間違う危険性もあります。
実際、今年も湘南の海岸に大量のカツオノエボシが打ちあがっているのが確認されています。
面白がって触る人もいますが、カツオノエボシの刺胞は死んでいるように見える状態でも毒針が発射されるので非常に危険です。
ちなみに、万が一カツオノエボシに刺された場合、真水や酢で洗い流すのは逆効果です。
肌についている刺胞が刺激された発射される恐れがあるので、海水で洗い流し、速やかに医療機関で手当てを受けましょう。
岩にしか見えない毒針生物:オニダルマオコゼ
オニダルマオコゼは体長30~40㎝程度の魚で、先ほどのゴマモンガラ同様に沖縄や奄美大島などの暖かい海域に浅瀬に暮らしています。
この魚は、完璧なまでに岩に擬態する能力と、強力な毒針の二つを併せ持っているという点で非常に厄介な危険生物です。
オニダルマオコゼの見た目は形・質感まで岩にそっくりで、ほとんど動くこともありません。
さらに、体色も黒っぽい、グレー、カラフルなど個体差が激しく、驚くほど周囲の環境に溶け込みます。
「オニダルマオコゼがいる」とあらかじめ分かっている水槽を前にしても「あれ岩だよね?え、魚?え?」という反応の人が多いので、自然の岩礁などに溶け込んだオニダルマオコゼを素人が見付けるのは不可能だと思います。
そんなオニダルマオコゼを気付かずに踏んでしまうと大変です。
魚のヒレには鰭条という骨組みのようなトゲがあるのですが、オニダルマオコゼはこの鰭条が毒腺につながっており、刺されると毒が注入される仕組みになっています。
オニオコゼの仲間は大体毒を持っていますが、その中でも本種の毒は非常に強力です。過去には死亡事故も起きており、刺された部分の壊死が進行した場合、切断する羽目になります。
しかもトゲは非常に鋭く、長靴程度なら簡単に貫通してしまいます。
オニダルマオコゼに刺されて死亡することは少ないですが、それでも耐え難い激痛に長時間苦しむことになりますし、状況によっては溺れてしまう恐れもあります。
海を歩く際、岩場に手をつく際、本当にそれが岩なのか確かめた方が良いかもしれません・・・。
静かなる暗殺者:イモガイ
サメよりも怖い貝と聞いて「そんなんいるわけww」と思った人もいるかもしれませんが、そんな人も20分あれば地獄に送れる最強生物がイモガイの仲間です。
イモガイという名前は、貝殻の形状が円錐形で里芋みたいに見えることに由来しています。
琉球列島や紀伊半島に分布するイモガイたちは一見するとただの綺麗な巻貝のように思えますが、彼らは毒針を打ち込んで魚を仕留めて捕食するという、一般的な貝のイメージからかけ離れた生き方をしています。
イモガイは獲物となる小魚に忍び寄り、ある程度の距離まで近づいた後、獲物に向かってゆっくりと管を伸ばします。
この管の中には歯舌と呼ばれる銛のようなものが入っており、獲物に刺さると猛毒が注入される仕組みになっています。
イモガイに刺された魚はやがて動くこともできなくなり、なす術もないままイモガイに飲み込まれ、ゆっくりと消化されていきます。
ナショナルジオグラフィックが公開している捕食映像があるので是非ご覧ください。
このように、イモガイの毒針は基本的にハンティングに使うものですが、不用意に触ってきた人間に対して使用されることもあります。
イモガイの毒は様々な化合物が用いられた複雑な神経毒であり、血清も存在しません。
刺されても痛みはほとんどありませんが、眩暈、倦怠感などの症状を引き起こし、動けなくなって溺死するか、呼吸筋が動かなくなって死に至ります。
中枢神経や心筋に影響を与えないため人工呼吸などで呼吸を確保すれば助かる見込みがあるそうですが、迅速な応急処置ができない状況の場合、まず命はありません。
イモガイの毒はそれほど強力で、生物界最強の呼び声も高い猛毒です。
実際、沖縄ではサメなんかよりはるかに多い死者数を出しており、原因不明の水難事故の中にも、本種による被害が含まれている可能性は大いにあります。
綺麗な貝を見つけて触りたくなることもあるかもしれませんが、もし芋みたいな形をしていた場合、手を触れずにそっとしておくことを強くお勧めします。
あとがきにかえて
以上が、サメよりも怖い、猛毒生物たちの紹介でした。
最後に補足しておくと、危険生物とされる生物も人間に悪意を持って攻撃しているわけではありません。
また、今回紹介した毒生物が持っている化合物は、人間は人間がまだ克服していない病気の効果的な治療研究に使われることもあります。
危険生物もまた生物多様性の重要な要素ですから、気を付けつつも上手に共存して行けたら良いなって僕は思います。
また、今回4種だけでしたが、他にも危険かつ面白い生物は沢山いるので、機会があればまた紹介していきます!
参考文献
- Abema times『海水浴客の“目前”まで迫る猛毒「カツオノエボシ」大量漂着の理由に専門家「強い南風が影響」』2022年(2022年8月5日閲覧 現在はリンク切れ)
- DIVER『凶暴ゴマモンガラにかまれて右足を負傷 安全なダイビングのために Vol.43』2016年(2022年8月5日閲覧)
- PADI『【海の最強猛毒生物】オニダルマオコゼ』(2022年8月5日閲覧)
- クリスティー ウィルコックス『毒々生物の奇妙な進化』2017年(2022年8月5日閲覧)
- 新城安哲, 大嶺稔, 吉葉繁雄『アンボイナ刺症の1症例とイモガイ刺症の問題点』1996年(2022年8月5日閲覧 現在はリンク切れ)
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