ホホジロザメは体色を変えてカモフラージュできる?巨大ジョーズに関する新発見について解説!

おはヨシキリザメ!サメ社会学者Rickyです!

先日、「ホホジロザメが自分の体色を変えられるかもしれない」というニュースが報じられました。

ホホジロザメと言えば『ジョーズ』のモデルになった危険ザメの代表種であり、全長5m以上、体重2トン、肉を切り裂く大きな歯を持った最強の捕食者として有名なサメです。

そんなサメが体色を変化させる能力を持っているかもしれないという研究が発表され、「獲物を襲うためのカモフラージュか?」と話題になっています。

では、

  • 本当に色を変えるのか?
  • どうやって変化を検証したのか?
  • その理由はカモフラージュのためなのか?

今回は、ホホジロザメの体色変化に関する研究を僕なりにかみ砕いてご紹介していきますので、よろしくお願いいたします!

目次

解説動画:ホホジロザメは体色を変えてカモフラージュできる?巨大ジョーズに関する新発見について解説!

このブログの内容は以下の動画でも解説しています!

※動画公開日は2022年8月4日です。

色を変えるサメたち

サメが色を変えるかどうか?という疑問を持ったこと自体ほとんどの人はないと思いますが、実は体色を変化させるサメ自体は割といます。

有名な例がイヌザメです。

イヌザメの幼魚は白黒の縞模様がハッキリしており、成長すると淡くなっていき、やがてほとんど縞模様が見えなくなります。

イヌザメの幼魚

また、色だけでなく模様まで完全に変わるサメもいます。

イヌザメと同じくテンジクザメ目に分類されるトラフザメは、トラという名前のわりにヒョウに似ている斑点模様をしています。

しかし、生まれたての幼魚の頃は成魚とは全く異なる白黒縞模様になります。

他にも、タイガーシャークの縞模様が成長するにつれて目立たなくなってきたり、白い模様が名前の由来になっているヨゴレも生まれた当初は違った模様をしていたりと、成長につれて徐々に体の色や模様が変化するサメの事例は意外に多いです。

しかし、今回紹介するホホジロザメのケースはこうした成長に伴うゆっくりとしたものではなく、1日のうちに起こる体色変化です。

目視による色の変化を観察

では、ホホジロザメの体色変化をどのように検証したのでしょうか?

研究チームの一員であるライアン・ジョンソン氏はホホジロザメの色が短期間で変わっていると前から気付いていたそうですが、証明の方法が問題だったと言います。

ある日、ホホジロザメを調べていたジョンソン氏は、朝に明るい体色のサメ、午後には暗めの色をしたサメを見かけました。

これだけなら「ホホジロザメにも色の個体差がある」で話は終わりですし、ライアン氏もその時はそれぞれ別の個体だろうと思っていたそうです。

しかし、調べ終わってから写真を見直していると、色が違って見えていたサメが背ビレに共通の特徴を持っており、同一の個体だったと気づきました。

しかし、これだけでは科学的な証拠とは言えません。

色の見え方というのは光の量や天候によっても大きく変わりますし、写真や映像ならカメラの設定やスペックにも左右されます。

しかも、ホホジロザメは当然海の中を泳いでいるわけですが、海の明るさや光の見え方は水深が少し深くなるだけでも大きく変わります。

小さな生き物であれば、白背景の水槽に入れて、明るさとカメラ設定などを統一した状態で色の変化が起きるかを観察すればいいかもしれませんが、飼育困難かつ巨大なホホジロザメではそうはいきません。

科学的に体色変化を検証する

ジョンソン氏と共同研究者であるギブス・クグル氏は、科学的にホホジロザメの体色変化を検証すべく、以下のような実験を行いました。

STEP
色の基準となるカラーボードを用意

まず、ホホジロザメが多く集まる南アフリカのシール島の海で、船の近くに黒、グレー、白をグラデーションで並べたカラーボードを浮かべます。これは、写真撮影でいうグレーカードと同じで、後に写真を補正する際の基準となります。

STEP
ホホジロザメをおびき寄せる

次に、オットセイに似せた模型をおとりにし、ホホジロザメをカラーボードの近くまでおびき寄せます。

STEP
飛び出したホホジロザメを撮影

そして、カラーボードまで近づいたところで、ホホジロザメを水面から飛び出させ、その様子をを撮影します(水中から飛び出させることで、水深・水質による影響を受けないようにします)。

STEP
撮影した写真を補正して色を比較

そして、光量・天候・カメラ設定などの変動要因をカラーボードを基準にしてコンピューターで補正し、各写真に映るホホジロザメの色を比較しました。

実験風景のイメージ

簡単に説明しましたが、野生のホホジロザメを相手にする以上、かなり大変だったはずです。

あくまで僕の想像ですが、そもそもサメが来ない、模型を襲ってこない、カラーボードの前で飛び上がらない、写真撮影に失敗するなど、恐らく色んなトラブルがあった中で悪戦苦闘しながら実験したのだと思います・・・。

そんな大変だったであろう調査の結果はどうだったのか?

ホホジロザメは体の傷などで個体識別が可能ですが、光量などの変動要因を補正した写真においても、同一個体の色が確かに違って見えたそうです。

特に、顎の部分に膿が溜まっていたある個体は、時間帯によって体色が明るい色や暗い色に変わっていたことが確認されました。

これにより、目視の体験談でしかなかったホホジロザメの体色変化という仮説に、より客観的な証拠が加わることになりました。

ホルモンによって皮膚の色が変わる?

ホホジロザメの体色が変わることを野外で観察するだけでなく、研究チームはそのメカニズムにも踏み込みました。

ジョンソン氏とクグル氏は「体色の変化はホルモンによるものだ」と当たりを付け、ホホジロザメの皮膚組織を使った実験を行いました。

彼らはホホジロザメに害が及ばない方法で生きている個体から皮膚を採取し、複数種類のホルモンでその組織を処理しました。

その結果、アドレナリンを加えた場合はメラノサイト、つまりメラニンを作る細胞が収縮して色が明るくなり、MSHという別のホルモンを与えた際は、メラノサイトが分散して色が濃くなりました。

これにより、与えるホルモンによってホホジロザメの皮膚組織の色が変わることが確認されました。

本当にカモフラージュのためなのか?

以上の結果から、ホホジロザメが体の色を変化させるという仮説の説得力が増している、というのが今回の結論です。

何故ぼかした言い方をするのかと言えば、今回の実験で使われたサンプルが非常に少ないからです。

調査を行った研究者たちも「実験は成功したが、ホホジロザメの体色変化能力はまだ実証されていない」という旨のコメントをしています。

ナショナルジオグラフィックで紹介されたとはいえ、査読論文の発表などはまだのようなので、今後に期待しつつ結論を出すには慎重になった方がいいと思います。

また、体色の変化が事実だとしても、それが獲物を襲うためのカモフラージュとは限りません。

今回の研究を紹介している記事を複数参照しましたが、体色変化とハンティングを結びつけられそうな根拠は以下の3つ以外には見つかりませんでした。

  • 観測されたのが獲物を襲う瞬間であったこと
  • ホホジロザメが頂点捕食者であること
  • ホホジロザメは忍び寄ることに長けていること

もともとホホジロザメの体色はカウンターシェイディング(背中側を黒く・お腹側を白くすることで上からも下からも敵または獲物から見えにくくする)の効果があるとされてきたので、本当にカモフラージュするために体の色を変えている可能性も十分にあるとは思います。

ただ、通説が定着する前に色々推論を述べるのも一つの楽しみだと思うので、最後にカモフラージュ以外の仮説も一応紹介しておきます。

仮説1:日焼け説

サメの体色が日焼けによって変わることを示す研究が存在します。

1996年、国際的な科学ジャーナルである『Nature』に、アカシュモクザメの日焼けに関する研究が掲載されました。

ハワイのカネオヘ湾で暮らすアカシュモクザメの幼魚は、湾の深い場所で過ごすうちは色が明るいのですが、浅瀬に出ると徐々に茶色や黒に近い体色になることが知られていました。

そこで研究者がアカシュモクザメの胸鰭に、光を遮断するフィルターを取り付け、紫外線の影響を調べました。

すると、紫外線をカットするフィルターを付けた個体ではほとんど変化が起きなかったのに対し、何もつけなかった個体群ではメラニンの著しい増加がみられました。

アカシュモクザメ。日焼けではないかもしれませんが、個体によっては体が黒っぽいこともよくあります。

もっともこれは20日以上、200日以上という長期スパンで観測した研究結果なので、1日のうちに起きたホホジロザメの体色変化が同じ理由によるものかは疑問です。

ただ、サンプル数が少ない現状では、日焼け説も捨てきれないと思います。

仮説2:コミュニケーション説

ここからは僕の思い付きなので話半分で聞いてほしいのですが、感情や意思を外に伝えるコミュニケーションとして体の色を変えている可能性もあるかもしれません。

体の色を変える生物として有名なのがカメレオンですが、実は彼らもコミュニケーションのために色を変えます。

カメレオンは環境に合わせて瞬時に色を変えるカモフラージュの達人だと思っている人が多いですが、実はこれは完全な誤解です。

実際のカメレオンはそこまで幅広い体色変化はできないですし、イカやタコに比べると色の変化にも時間がかかります。

また、彼らが色を変えるのは周囲の環境に溶け込むためではなく、オス同士の争いや、交尾を受け入れるかどうかの意思表示、体温調整などに使われるというのが現在の定説です(ネットではカメレオンがものに触れるたびに青やピンクに次々色を変えていく動画をたまに見かけますが、あれは思いっきり加工したガセ動画です)。

カメレオンの体色変化はカモフラージュのためではありません。

サメに話を戻しますが、ホホジロザメの体色変化も、他の個体に対する意思表示や、気持ちが高ぶったときに起こる副産物的な現象かもしれない・・・。というより、「そうした側面があったら面白な!」という僕の感想です。

世間では「魚は下等、イルカは知的」と決めつける哺乳類至上主義が根強いので、ホホジロザメについて「感情や意思」、「コミュニケーション」という言葉を使うことに違和感を覚える人も多いかもしれません。

しかし、ホホジロザメは特定のグループと行動を共にしたり、ある種のディスプレーのような動きを見せるなど、社会的な動物であることが近年の研究で示唆されています。

ほとんど妄想に近い仮説ですが、体色変化がサメの意思を示すものであれば、様々な研究に生かせる重要な発見になると思います。

あとがきにかえて

以上が、ホホジロザメの体色変化に関する紹介でした!

先ほども述べた通り、今回の研究は査読論文として認められたわけではなく、定説と呼ぶにはもう少しサンプルの収集やメカニズムの分析が必要だと思います。

獲物を襲うためのカモフラージュかどうかも分かりませんが、今後の研究で詳細が明らかになっていくのが楽しみですね。

参考文献

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