かの名作『ディープ・ブルー』とは全く関係のないB級映画ですが、アサイラムの作品にしては真面目で楽しめます。
邦題 | ディープブルー・ライジング |
原題 | Ice Sharks |
公開年 | 2016年 |
監督 | エミール・エドウィン・スミス |
出演 | エドワード・デルイター/ジーナ・パーカー/カイウィ・ライマン |
制作国 | アメリカ |
ランク | B級(トンデモ設定や雑なCGなどのツッコミどころを楽しむ作品。) |
ストーリー | ★★★☆☆ |
演出や絵作り | ★★☆☆☆ |
サメの造形 | ★★☆☆☆ |
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あらすじ
北極海の氷上に建てられた研究所「オアシス」で調査活動をしていた研究チームは、現地住民が相次いで失踪しているという連絡を受ける。
捜索に向かったデイヴィッドとトレイシーは、非常に攻撃的なサメたちによる襲撃に遭ってしまう。
温暖化の影響で氷が解けたことにより、外海から隔離されて独自の進化を遂げたニシオンデンザメが、獲物を求めて泳ぎ回っていたのだ。
なんとか基地まで逃げ帰ることができたデイヴィッドたちだったが、氷をも砕くパワーを持つサメたちによって基地は損傷し、海底まで沈められてしまう。
浸水を免れた室内に閉じ込められたデイヴィッドたちは脱出を試みるが・・・?
これ以降の記載は映画の重要部分についてのネタバレを含みます。鑑賞前にネタバレを知ってしまったことに対する責任は一切負いかねますので、予めご了承ください。
見どころ・ツッコミどころ
アサイラムにしては真面目な作品
『ダブルヘッド・ジョーズ』や『シャークネード』でお馴染みのアサイラムが製作したサメ映画です。邦題は『ディープ・ブルー』のパクリっぽいですが全く関係のない作品であり、原題も『Ice Sharks』となっています。
「ヤバいサメ映画と言えばアサイラム」と言われるほど悪名高い製作会社の作品でありながら、多少の荒唐無稽さを無視すればそこそこ楽しめるクオリティだと思います。
というのも、本作にはB級サメ映画にありがちな、明らかに尺稼ぎだと分かる無駄なシーンがありません。
序盤でサメが登場し、捕食シーンを挟みつつサバイバル劇がちゃんと進行していくので、B級サメ映画にしてはかなりテンポがいいです。
「どうやって生き残るか?」「救難信号を発信する方法は?」「果たして脱出できるのか?」という緊迫した状況の中、サメの襲撃を受けつつも試行錯誤する様は普通に見応えがあります。
また、氷の世界でサメが襲い来るというモンスター・パニック展開と、酸素の残量が少ない密閉空間から如何に脱出するかというスリラー展開が綺麗に分かれており、明瞭なストーリーの中で色々な場面を楽しめるのも魅力です。
もちろん、かの有名なアサイラムの作品なので、映像のチープさと荒唐無稽な展開については受け入れるしかありません。
ドキュメンタリー映像の切り抜きと思われる急に画質の変わる映像が混じる中、背景と合っていないのっぺりしたCGのサメが背ビレを使って氷床を切り裂いていくシーンは、良くも悪くもアサイラムらしさが出ていると思います。
「安っぽいけどオリジナリティのあるディープ・ブルーっぽい作品」程度の期待感であれば、十分に満足できるサメ映画だと言えるでしょう。
サメを爆破しないサメ映画
サメ映画として珍しいなと感じたのは、サメを爆発させず、それどころか殺しもしないという点です。
原点にして頂点である『ジョーズ』から始まり、ラストシーンでサメを爆発させるのはサメ映画の伝統です。そうではない映画でも、凶暴な人喰いザメを仕留めて終わるのが一般的な終わり方です。
しかし、本作は人喰いザメを仕留めることなく、デイヴィッドたちが生還することで幕を下ろします。
最後にサメを仕留めない映画はこれまでにもありましたが、直接的に人間とサメが戦っているにも関わらず一尾も殺さずに終わる作品は珍しく、特筆すべき点だと言えます。
その他見どころや豆知識
- ソリを引いていたワンちゃんたちが食われるシーン。明らかにワンちゃんたちが自ら水の方に歩いています。
- 氷を下から突き破り、背ビレで氷床を砕きながら泳ぐサメ。強すぎる。
- 何故か警告を無視し続けてスノーモービルから動かなったエディ。悲劇的なテイストで描かれていますが、純粋にアホです。
- 冒頭で水に置いたデイヴィッドが低体温症になるシーンがありますが、その後同じくらい冷たいであろう海水に浸かったマイケルとアレックスは平然としています。何でや。
- ハッチを閉める直前にサメが勢いよく横切るシーンは『ディープ・ブルー』のオマージュ?
- アガマスクじゃないのに水中で普通に会話しています。
- ラストシーンでサメに対して「Son of a bitch!」。
サメに関する解説
サメの造形
本作のサメは「特殊な進化を遂げたニシオンデンザメ」という設定でしたが、その姿はどう見てもニシオンデンザメではなく、干からびて貧相になったホホジロザメのようでした。
トレイシーは「ニシオンデンザメに見えたし歯も似ている」と発言していますが、何をどう血迷ったらあれをニシオンデンザメと勘違いできるのか謎でしかありません(一瞬映った歯の形状も、ニシオンデンザメのものと全く異なっていました)。
背鰭や尾鰭が妙な鎌形になっていた理由もよく分かりません。ニシオンデンザメでもホホジロザメでもない他のサメをモデルにしたのでしょうか。
あるいは「変な特徴にしておけば特殊な進化をしたサメっぽい雰囲気出るだろう」という、極めて雑な考えのもとに作られたのかもしれません。
強いてニシオンデンザメとの共通点を挙げるとすれば、本作に登場するサメはニシオンデンザメ同様に臀鰭を欠いていました。
また、ニシオンデンザメのほとんどが眼球を寄生虫に侵されており、恐らく目が見えていないとされているのですが、本作のサメはそれを意識したのか、失明したような真っ白な眼をしていました。
サメの行動
本作のサメは非常に素早く泳ぎ回り、陸上に勢いよく飛び出してまで人間を襲うというどう猛さ、活発さを見せていましたが、これは北極海の水温を考えると非常に考えづらいことです。
動物が素早く泳ぐには筋肉を大きく速く動かす必要があり、体温が低い状態では筋肉を動かすための化学反応も鈍くなり、動きが遅くなりがちです。
このような低温環境で生き残る生存戦略として、ペンギンのように体温を高く保つか、いっそのこと代謝をぐんと下げて低水温に適応してしまう(つまり速く泳ぐことを諦める)かのどちらかが考えられます。
そして、ニシオンデンザメは後者の生存戦略を採用しており、平均遊泳速度は時速800m、尾鰭を左右に振るのに8秒という、巨体にしてはあまりにも遅いスピードで泳ぎます。
もちろん、本作に登場するサメは「独自の進化を遂げた」という設定なので、実在のニシオンデンザメとは異なり、ペンギンのように体温を高く保っている可能性もあります。
しかし、体温を高く保つにはエサを沢山食べる必要が出てきます(極地に棲むペンギンは体重に対する食事量が極めて高いことで知られています)。
本作のサメは「地球温暖化の影響で氷が解けるまで閉じ込められていた」という設定だったので、果たしてそんな閉鎖的な環境で必要なエネルギーを入手できたのか・・・。
あくまで想像の範疇ですが、本作のように隔てられた環境で長い間独自の進化を遂げたサメがいたとしたら、少ないエサでも生きていけるよう、代謝を抑えた、体が小さく動きの鈍い動物になっていたと思います。
その他サメの解説
- サメが胸鰭を羽ばたかせるように泳いでいるシーンがありますが、実際にはあんな泳ぎ方はしません。
- 「進化したからシャチのように行動している」とも読み取れる発言が作中でありますが、進化とは哺乳類に近づくことを意味しません。進化したから人間や、その他知能が高いとされる動物の行動に近くなるという発想自体が実に哺乳類至上主義的です。
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参考文献&関連書籍
- 渡辺佑基『進化の法則は北極のサメが知っていた』2019年
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