【人喰いザメ?】イタチザメの特徴、名前の由来、危険性、繁殖の不思議を徹底解説!

2022年12月某日、サメの展示種数日本一であるアクアワールド茨城県大洗水族館にて、イタチザメを観察してきました。

『ジョーズ』でお馴染みホホジロザメに次ぐ危険ザメNo.2であり、テレビなどで取り上げられることも多い有名種だと思いますが、名前の由来や生態についてよく知らない方も多いはずです。

そこで今回は、

  • イタチザメの特徴
  • なぜイタチザメという名前なのか?
  • 何を食べていて、人間も襲うのか?

などを紹介したうえで、水族館飼育で解明された興味深い生態について解説していきます。

目次

解説動画:危険ザメNo.2!イタチザメの特徴、名前の由来、繁殖の不思議を徹底解説!【Tiger shark】【人喰いザメ】【アクアワールド茨城県大洗水族館】

このブログの内容は以下の動画でも解説しています!

※動画公開日は2023年1月29日です。

イタチザメの大きさや特徴

イタチザメはメジロザメ目イタチザメ科イタチザメ属に分類されるサメです。

これまで「メジロザメ科」の仲間とされてきましたが、最近になってイタチザメ科という別のグループだとする分類が支持されているようです。

大きさは全長約2.2~3.5m、大きいものでは5.5mにも達します。また、学術的に信頼していいのか疑問ですが、7.4mという記録も存在しています。

イタチザメは一科一属一種で、イタチザメの仲間は現在イタチザメだけです。そのためか、見た目も他のサメ類とは明らかに違うため、サメの中ではかなり見分けやすいです。

ここでは、見分けのポイントとして、体つき、模様、歯の3つを紹介しておきます。

イタチザメの体つき

イタチザメは吻が短く丸みを帯びており、 全体的にがっしりしていますしています。

大きくて三角形の背びれもあり、サメらしいフォルムがカッコイイのですが、流線形というより少し頭でっかちな、ごつい印象があります。

ただし、成魚がほぼ真っ黒な眼をしているのに対し、幼いイタチザメは目が大きくてクリクリしており、なんとなく小動物っぽさがあります。

イタチザメの模様

イタチザメは体の背中側や側面のほぼ全体に広がる、独特の縞模様があります。

「この縞模様がトラを思わせることから英語ではタイガーシャークと呼ばれる」と一般に紹介されますが、幼魚の頃は縞というより、細長い斑点が集まったような模様をしています(写真は大洗で撮影した、全長90㎝ほどの幼魚です)。

この模様が、成長するごとに繋がるようにして縞模様っぽくなっていき(もしくは体が大きくなって模様が縦に伸びている?)、それにつれて模様自体が薄くなっていきます。

ちなみに、幼魚の頃の模様がサバに似ていることから、イタチザメは別名サバブカとも呼ばれます。

イタチザメの歯

イタチザメの歯

イタチザメの歯を見てみると、逆ハートまたはトサカを思わせる独特の形をしています。一般的にイメージされるサメの歯とはだいぶ違っています。

歯だけでサメを見分けるのは非常に難しいことも多いですが、イタチザメであれば、歯だけでも区別は容易だと思います。

何故イタチザメという名前なのか?

英語名の「タイガーシャーク」については今紹介した縞模様で説明が出来ますが、何故和名が「イタチザメ」なのでしょうか。

イタチやその仲間を見た時に、イタチザメとの共通点が見えませんし、日本の図鑑で和名の由来までは教えてくれるものは僕が知る限りありません。

これについては諸説あり真相は不明なのですが、信頼できるソースから得られる情報を元に仮説を立てるなら、「イタチザメ」という名前の由来は学名だと思われます。

イタチザメの学名はGaleocerdo cuvierといいます(ギリシャ語なので正確な発音は分かりませんが、とりあえずカタカナ読みとして「ガレオサード・キュヴィエ」と呼んでおきます)。

※学名とは何か?についてはコチラの記事も参照

この学名のうち、種小名は博物学者ジョルジュ・キュヴィエが由来ですが、属名の「Galeocerdo」はサメを意味するギリシャ語「galeos」と、「kerdo」という単語を組み合わせたものです。

そして、この「kerdo」には、「狡猾な」や「ずるい」という意味があるのと同時に、キツネ類を指す言葉でもあります。

ここからは僕の推測ですが、「悪食」や「人食いザメ」というタイガーシャークの悪いイメージからこの学名がつけられ、学名から標準和名を決める際に、キツネザメのような異なるニュアンスに変換され、最終的にキツネと同じ獣であるイタチの名前がついたという可能性はあると思います。

これについてはあくまで僕の仮説なので、真相を知っているいう方や、他の説を提唱したいという方は、コメント欄に書いてみてください。

イタチザメの食性や危険性

ここまで、イタチザメの英名・和名の由来について紹介しましたが、イタチザメにはもう一つ「海のごみ箱」という、やや不名誉なあだ名がついています。

これはイタチザメの食性に由来しています。

イタチザメの歯は先程も見た通りノコギリのようにギザギザしていて、独特の曲がり方をした幅が広い形をしています。

この歯の形状は、硬い甲羅を持つウミガメを噛み砕いたり、大型哺乳類の肉を噛み千切ったりするのに適しており、実際イタチザメはそうした獲物もたくさん食べています。

しかし、イタチザメのの胃の中からは、ウミガメや哺乳類以外にも様々なものが見つかっています。

例を挙げると、色々な硬骨魚、サメやエイ、カニ類、巻貝、エイの卵、ウミヘビ、海鳥や渡鳥などなど・・・。タイヤやドラム缶の一部、プラスチック片などのゴミが出てくることもあります。

海鳥に向かって大口を開けるイタチザメ。

また、イタチザメは肉の腐敗具合等に関係なくとにかく何でも食べるためか、水害や海難事故などで流されたであろう犬、猫、豚、羊、牛、馬などの家畜が発見された事例もあります。

さらに、イタチザメの胃の中からは、時に人間が見つかることもあります。

実際にイタチザメは世界で二番目に多くの人を襲っているサメでもあり、襲われた場合の死亡率はホホジロザメを上回る、危険なサメでもあります。

イタチザメは人を狙って襲うのか?

一応補足しておくと、イタチザメと出会ったからといって、必ず襲われるわけではありません。

僕の知人にはイタチザメと檻なしで泳いで五体満足に帰ってきている人が沢山いますし、サメ以外の生物と比べてしまえば襲撃件数は非常に少ないです。

万が一襲われるとしても、サーファーのシルエットを彼らの好物であるウミガメと間違えているか、ただ単に腹を空かせたときに動きの鈍そうなデカい動物がいるからとりあえず噛んでいるだけで、人間を好んで襲っているわけではないと思います。

さらに言えば、イタチザメは死体や腐肉も多く食べるので、生きている人間を襲ったわけではなく、水死体を食べているだけというケースも多いようです。

以前も去年に『遊☆戯☆王』の原作者がサメに襲われたかもしれないとニュースになりましたが、結局あの事例も死んだ後の傷だと判明しました。

※遊戯王の作者である高橋和希さんの死とサメの関連性についてはコチラ

イタチザメの繁殖様式:胚栄養型

イタチザメは胎生のサメであり、赤ちゃんが母親のお腹の中で、親とほぼ同じ姿のミニチュアサイズまで育って生まれてきます(親と模様や顔つきが異なるのは先述の通り)。

イタチザメが分類されるメジロザメ目というグループのサメには、赤ちゃんと母胎が臍の緒でつながる、いわゆる胎盤形成型のサメも多いのですが、イタチザメは胎盤を使いません(この辺りも「イタチザメ科」という分類の根拠のようです)。

イタチザメの胚は子宮内で薄い卵殻(膜のようなもの)に入っており、複数の胚が個室に入ったような状態で隔てられています。そして、この卵殻の中に流れる液体が豊富な栄養を含んでいて、それを吸収して赤ちゃんは成長します。

アクアワールド大洗に展示されている幼魚。成魚より模様が濃いのが分かります。

この液体は胎仔にとって非常に重要な栄養源のようで、卵黄の栄養だけを使った想定より1000%以上も成長していることが分かっています。

しかも、イタチザメは大型サメ類の中では多産な方で、平均して20~30尾前後、多い場合は364cmの雌の体内から、70尾以上の赤ちゃんが見つかったこともあります。

なお、イタチザメのこうした独特な繁殖様式は胚栄養型(embryotrophy)と名付けられました。

イタチザメの赤ちゃんは泳がない

そんなイタチザメの繁殖について、出産後の赤ちゃんの興味深い行動が水族館で記録されました。

それに関連するのですが、「サメは泳ぎ続けないと呼吸できない」という話を聞いたことありますでしょうか?

理屈としては、サメは泳ぐことによって口に水を入れてエラに通しているので、泳ぐことをやめるとエラに酸素を供給できなくなってしまうというものです。

これは半分嘘であり、実は泳ぎ続けなくても呼吸できるサメも沢山います。そうしたサメの多くは、口を動かすことによってエラに水を送り込み酸素を取り込んでいます(こうした呼吸法は口腔ポンプ換水と呼ばれます)。

水底でじっとしているネムリブカ。口をパクパクさせてエラに水を送り込んでいます。

ただし実際に泳ぎ続ける必要があるサメもいて、イタチザメもその一種だとされています。

ところが、その常識に反しているとも言えそうな事例が水族館で確認されました。

2017年3月23日、沖縄美ら海水族館の水槽内にて、飼育していたイタチザメが出産を始め、3時間にも及ぶ分娩の末、27尾の赤ちゃんが生まれました。

当時飼育されていた水槽にはオオメジロザメなど他の大型サメ類もいたので、飼育員さんたちは急いで赤ちゃんたちを回収し、安全なプールに移動させました。

すると、プールに入った仔ザメ達は、泳ぎ続けるのではなく、しばらく泳いだ後に底の方で休むようにじっとしていたそうです。

泳ぎ続けることで呼吸(ラム換水)するサメでも、弱ってしまい動かなくなることはありますが、産まれた子供たちはしばらくすると元気に泳ぎだし、また底の方で休むというのを繰り返しました。

さらに、じっとしているイタチザメは、口を小刻みに動かしている様子が観察されました。

これらの行動や出産前に超音波エコーで撮影された胎仔の様子などから、美ら海の研究者の方々は「イタチザメは出産前は口腔ポンプ換水で呼吸し、出産後は口腔ポンプ換水とラム換水を使い分け、遊泳能力の上昇と共にラム換水に切り替えていく」という説を提唱しました。

平たく言えば、成長段階によって呼吸法を使い分けているということです。

飼育が難しいイタチザメを飼う意義

こうした研究を知ると、サメの不思議や生命の神秘を感じると共に、水族館飼育という取り組みの意義について考えざるを得ません。

どれだけ綺麗ごとを並べても、水族館は野生動物を人間の都合で閉じ込めています。

そのため、「そこまでする価値はあるのか?」や「飼育を正統化できるのか?」という倫理的な問題を常に抱えています。

また、今回取り上げたイタチザメは長期飼育が難しいサメであり、こうした生物の展示について賛否が分かれることもあります。

しかし、一個体を長期的に観察し、今紹介したような貴重な瞬間を記録・研究するのは野生個体では難しく、サメのような大型水棲動物の場合、それができる場所は水族館しかありません。

先程紹介した事例について言えば、野生のイタチザメの出産をたまたま目撃し、そのまま幼魚を観察するなんてことはまず不可能ですから、まさに水族館ならではの成果と言えます。

そして、水族館で行われたこうした研究が、僕らの知的好奇心を刺激し、自然への興味や保全意識につながることもあります。

「日本の水族館のすべてが素晴らしい」と言うつもりはありませんが、アクアワールド大洗や美ら海のような水族館の取り組みについては、意義のあるものとして今後も応援していくべきではないでしょうか。少なくとも僕はそう考えています。

参考文献&関連書籍

  • David A. Ebert, Marc Dando, and Sarah Fowler 『Sharks of the World a Complete Guide』2021年
  • Jose I. Castro 『The Sharks of North America』 2011年
  • José I. Castro, Keiichi Sato, Ashby B. Bodine『A novel mode of embryonic nutrition in the tiger shark, Galeocerdo cuvier』2016年
  • Taketeru Tomita, Hideyuki Touma, Kiyomi Murakumo, Makio Yanagisawa, Nagisa Yano, Shin-ichiro Oka, Kei Miyamoto, Nozomi Hanahara, Keiichi Sato『Captive Birth of Tiger Shark (Galeocerdo cuvier) Reveals a Shift in Respiratory Mode during Parturition』2018年
  • 佐藤圭一, 冨田武照『寝てもサメても 深層サメ学』2021年
  • 佐藤圭一, 冨田武照, 松本瑠偉『沖縄美ら海水族館はなぜ役に立たない研究をするのか? サメ博士たちの好奇心まみれな毎日』2022年
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