地球温暖化で人喰いザメが増える?サメの事故の最新事情を解説!

世間に根付いた「サメは凶暴な人喰いモンスター」という偏見を払拭すべく、普段からサメの魅力、面白さ、保全の重要性などを僕はお伝えしていますが、サメによる事故が起こってしまっていることも、また事実です。

最近日本でも報じられたもので言えば、今年2023年2月4日オーストラリアでイルカと泳ぐために水に飛び込んだ16歳の少女がサメに襲われて死亡するという事故が発生しました。サメの種は断定されていませんが、オオメジロザメによるものと推測されています。

また、日本のメディアが最近「温暖化の影響でサメの被害が増えている」という内容を発信するようになりました。

では、実際にサメの被害は世界でどれくらい起きているのか?襲撃の件数は増加しているのか?そして温暖化と関係はあるのでしょうか?

今回は、昨年2022年に起きたシャークアタックの件数や、その傾向について解説していきます。

目次

解説動画:地球温暖化で人喰いザメが増える?シャークアタックの最新事情を解説!

このブログの内容は以下の動画でも解説しています!

※動画公開日は2023年3月11日です。

世界のサメ襲撃件数はどれくらいか?

まず、世界でサメによる人間への攻撃がどれくらいあるのかを見ていきましょう。

「サメによって亡くなる人数は世間で思われているより少ない」という話はどこかで耳にしたことがあると思いますが、「サメによる死者」ではなく、「サメに噛まれた人数」は知らない人も多いです。

世界中のシャークアタックを記録しているInternational Shark Attack Files(ISAF)によれば、2022年に起きたシャークアタックの件数は89件です。

ただし、「サメに噛まれた」という事例を考える時は、人間側に原因があるかどうかという点が重要です。

例えば、サメを追いかけたり、捕まえたり、エサを巻いたりしてサメに噛まれた場合、これは人間側に原因があります。こうした事故を「provoked attack」誘発された攻撃と呼びます。

一方で、人間側がサメに刺激や危害を加えていないのに噛まれてしまうこともあります。こうした事故を「unprovoked attack」非誘発性の攻撃と呼びます。

ISAFは「provoked attack」と「unprovoked attack」というのを分けて集計しており、2022年の内訳は「provoked attack」が32件、「unprovoked attack」が57件という結果でした。

つまり、一般の人が怖がる必要がある、何かしら対策を考えないといけない襲撃というのは、約60件ほどだったということです。

国別の件数や詳細

次に、57件の国ごと内訳、および死者数を紹介します。

1位がアメリカで41件と圧倒的です。中でも多いのがフロリダ州で、41件のうち16件(米国全体の39%)はフロリダで発生しています。

フロリダにはイタチザメやオオメジロザメ、カマストガリザメなどの大型サメ類が多く生息しており、かつ沢山の人が海水浴やマリンスポーツをする場所であるため、どうしても件数が増えてしまうのだと思われます。

また、これは僕の憶測ですが、フロリダでは大型サメ類に餌付けをするダイビングツアーがあるので、人を怖がっていないサメが多くて事故が起きやすい可能性もあります。

なお、アメリカの死亡事故1件のはハワイで起きています。

近海にホホジロザメが多く生息するオーストラリアでの9件がそれに続き、同じくホホジロザメが多い南アフリカが3位。さらに、同率3位でエジプトもランクインしています。

「エジプトとサメ」というとイメージが湧かないかもしれませんが、2022年7月、ルーマニアからの観光客と現地在住のオーストラリア出身の女性が、紅海の海岸を泳いでいたところをサメに襲われ、二人とも死亡しています(各種メディアによれば、襲ったのはアオザメとされています)。

そして残りはブラジル、ニュージーランド、タイで1件ずつです。

サメの襲撃は増えていない

ここまで確認した通り、2022年のシャークアタックは「unprovoked attack」57件、そのうち死亡事故は5件という結果でした。

では、この数は多いのか?または増加しているのか?

ここ最近のトレンドと比較してみると、2017~2021年までの5年間に起きた「unprovoked attack」の平均は年間70件、そのうちの死亡事故の平均が年間6件です。

つまり、サメによる死亡者数は特別増えておらず、襲撃件数全体を見ると、むしろ減少傾向にあるとすら言えます。

温暖化でサメの被害は増えるのか?

ここ最近、一部のメディアが「温暖化の影響でサメの襲撃が増える」と発信することがあります。

端的に言えば、「海水温が上昇したことによってサメが北上して生息域を拡大し、より多くの人を襲うようになる」というシナリオです。

確かに、2014年から2020年にかけて、アメリカ西海岸でホホジロザメの幼魚が北上していることを示す研究があり、これ以外にも、温暖化で動物の行動パターンが変わることは確認されています。

こうした理由から、「温暖化でシャークアタックが増える」と言われることがあります。

しかし、先程も述べた通り、今のところ件数は増えていません。

米国のロングアイランドでやや増加したという地域別の変動は確かにありましたが、全体の襲撃数に大きな増加は見られませんでした。

そもそも、現在議論されている気候変動は海水温の上昇だけでなく、それによる海流や酸素濃度の変化、CO2排出による海の酸性化など、様々な影響をもたらします。

海流の変化でサメが元いた海域からいなくなってしまう、沿岸生態系の崩壊によって仔ザメの生育場所が奪われる、酸素濃度の低下や海洋酸性化でサメの発育が疎外されるなど、サメを減らす変化が起きる可能性もあるので、「水温が上がるからサメが増える」という単純な予測は難しいと思います。

人が増えると事故も増える?

仮に温暖化が進むにつれてシャークアタックが増えるとしても、サメではなく人間側に原因があるかもしれません。

温暖化によって気温が上昇したことにより、海水浴やマリンスポーツが人気になる(つまり海に入る人口が増加する)ことで、サメと人が遭遇する回数が増え、結果的に事故の件数が増えることがあります。

誤解のないように付け加えると、サメは人間を見たら必ず襲ってくるわけではありません。

島根や鳥取より東京や大阪の方が交通事故が多いのと似た理屈で、サメと人が出会う回数が多いと、不幸な偶然が重なって起きる事故も、どうしても一定数増えてしまうわけです。

実際、コロナ禍による自粛やロックダウンが広く実施された2020年のunprovoked attackの件数は52件(前年から12件減少)だったのが、2021年には73件に増加しました。

断定はできませんが、コロナ禍による人間の行動変化という、サメには直接関係ない要因が、シャークアタックの件数に影響した可能性があります。

無論、「暑いから人が海に行く」は一応温暖化の影響なので、「温暖化の影響でシャークアタックが増える」と言えるのかもしれません。

しかし、自分たちで地球を温め、暑いからって陸上動物の分際で海に押し寄せて、それで噛まれて「サメは怖い!凶暴!」というのは、問題の捉え方や責任の所在を間違えているように感じます。

まして、「危険なサメを駆除しなければならない」などと言い出したら、もう滅茶苦茶です。

個々の被害者の方々を軽んじるつもり一切ありませんが、行政の対策や社会の向き合い方という大きな視点で見れば、「温暖化で人喰いザメ増加」のような思考は、不適切な問題意識ではないでしょうか。

マスメディアの歪んだ報道

これに関連してツッコミを入れたいのが、日本における報道の仕方です。

『遊戯王』の作者が亡くなった事故の解説でも触れたのですが、マスメディアは人の不安や恐怖を煽るために、元からサメがいた場所の話なのに「サメ出没!異例の事態!ジョーズが増加!」というように、歪んだ報道をやりがちです。

例えば、今年の1月にテレビ朝日が「“迷い鯨”が注目集める中…日本の海に異変?「北上する大型サメ」温暖化による歪みか」という見出しでサメのことを取り上げ、2022年5月に瀬戸内海で漁獲されたホホジロザメを紹介していました。

この内容自体が、温暖化の影響でサメの被害が増加することを匂わせるものだったのですが、ホホジロザメは温暖化が話題になるよりも前から北海道でも捕獲事例があり、約30年前にも瀬戸内海でシャークアタックが確認されています(詳しくはコチラ)。

ホホジロザメに次ぐ危険ザメとして有名なイタチザメも、数は少ないですが、青森県近海や相模湾で捕獲された記録があります。

「サメは暖かい海にいる」というイメージがあると、そうではない海域でサメが出た時に温暖化と結びつけたくなりますが、世間一般で話題になっていないだけで、大型サメ類は当たり前のように日本近海を泳いでいるんです。

「温暖化でサメ増加!」などのニュースを見た時は、そのサメの生態や過去の事例と調べ、長期的なトレンドを確認することも重要だと思います。

参考文献&関連書籍

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