『ダブルヘッド・ジョーズ』というサメ映画をご存知でしょうか?
二つの頭を持つ巨大ザメが次々に人を襲うというB級サメ映画で、シリーズを経るごとに頭がどんどん増えていくトンデモ作品です。
しかし、現実の世界にも頭が二つあるサメや、さらに奇妙な見た目をしたサメの奇形が存在します。
今回は、過去に確認されたサメの奇形事例を紹介し、実際に骨に異常があると思しきサメの骨格がどうなっているのかを解説していきます。
解説動画:突然変異?二つ頭や一つ目など衝撃的な奇形のサメたちを解説!
このブログの内容は以下の動画でも解説しています!
※動画公開日は2023年6月20日です。
サメの奇形の事例
まず、これまで確認された有名活衝撃的なサメの奇形を紹介していきます。
双頭のサメ
文字通り、頭が二つあるサメです。胸ビレかエラのあたりで頭が二股に分かれ、それぞれ独立した頭部を持っています。
二つ頭のサメの多くがヨシキリザメですが、2013年にはオオメジロザメ、2016年にはヤモリザメの仲間でも確認されています。
映画『ダブルヘッド・ジョーズ』では二つ頭を活かして同時に二人襲ったりと大暴れしていましたが、実際には水の抵抗を受け流せずに上手く泳げず、すぐ死んでしまうと思われます。
実際、先に紹介したサメたちも母胎内や卵殻内で発見された赤ちゃんばかりで、自然界で元気に泳ぐ二つ頭のサメが見つかったことはありません。
ただし、陸上動物なら長く生きることもあるようで、二つ頭のヘビやカメがペットとして育てられたことはあります。
一つ目のサメ
2011年、カリフォルニア湾のセラルボ島付近で捕まったドタブカの妊娠個体を切り開いたところ、9匹の正常な個体に混じって、頭の先に大きな目が一つだけついたアルビノの胎児が見つかりました。
一部では「サイクロプスシャーク」などと呼ばれています。
あまりに衝撃的な姿なのでフェイクにも思えますが、これは単眼症という非常に珍しい先天性の病気であることが分かっています。
単眼症は文字通り目が一つになってしまう病気で、サメ以外でも硬骨魚、ヤギ、猫、人間などで確認されています。
単眼症の個体は基本的にはすぐ死んでしまうか、自然流産して生まれてこないことが多いようです(単眼症のヤギが一定期間生きた記録はあります)。
人面ザメ
インドネシアの東ヌサ・トゥンガラ州の近海で網にかかった妊娠個体のサメの中から、鼻の部分に巨大な目が二つあるような、奇妙な姿の赤ちゃんが発見されました。
このニュースを取り上げた記事にサメの種類は書かれていなかったのですが、身体の色や模様、発見された生息域から判断してツマグロだと思います。
なお、3尾発見されたうちの1尾で、他の2尾は普通のサメだったそうです。
先程の単眼症のサメは学術論文が発表されているのに対し、このサメは科学的に検証されていないので確証はありませんが、もしフェイクだとしたら結構うまく作られているなと感じます(模様の変わり目が自然に見えます)。
なぜ奇形のサメは生まれるのか?
こうした奇形が生まれる理由として、汚染物質や感染症、海水温上昇など様々な説が考えられます。
また、「個体数が減ったことで遺伝子多様性が失われ、奇形のサメが増加しているのではないか?」という意見もあります。
しかし、何が原因なのか?奇形は増加しているのか?これらの疑問に対するハッキリとした答えは現在分かっていません。
こうした重大な奇形を持つサメは母胎から産まれてこないか、出産されてもすぐ他のサメなどに食べられてしまうなどの理由で、普段人目につきづらいと考えられます。
あくまで推測ですが、恐らく元から一定数が自然界で生まれていて、「最近になって注目されたり情報が拡散されるようになっただけ」というのが真相に近い気がします。
雌雄同体のサメは奇形なのか?
明かに奇形と思しきサメたちとは別に、生殖器官の状態がオスなのかメスなのかどっちつかずのサメ、いわゆる雌雄同体のサメがいくつか確認されています。
オスとメス両方の特徴を持つサメたち
例えば、駿河湾でニセカラスザメ調べた研究では、採集された70尾のうち16尾(約23%)の個体が、オスにしかないはずの交尾器を持つメスなどの雌雄同体だと確認されています。
また、テングヘラザメというサメを調べた研究では、日本、オーストラリア、ニューカレドニアなど複数の海域から採集された標本の中から、オスの交尾器を持つのに発達した卵巣が体内にあるサメや、精巣と輸卵管の両方を持つサメが数多く見つかりました。
なお、テングヘラザメが新種記載された際にホロタイプとされた標本も、小さな交尾器があったためオスとされていましたが、後にメスであることが判明しています。
このテングヘラザメを実際に調べた北海道大学の仲谷一宏博士によれば、オスとメス両方ともに交尾器がついているものの、オスは全長40cmを超えるあたりで交尾器が急に長くなり、メスは同じ大きさになっても交尾器が小さいままで、一応性別により発達の違いはあるようです。
雌雄同体は環境ホルモンの影響なのか?
公害問題に関心がある方なら、こうした雌雄同体が環境ホルモンにより引き起こされたと思うかもしれません。
オスとメスとして異なる見た目や生殖器官を発達させるのに、性ホルモンという物質が重要な役割を果たしています。
しかし、人間が環境に排出する化学物質の中には、男性ホルモンあるいは女性ホルモンのように作用してしまうものがあります。
そうした物質が自然界に大量に流れ出ると、オスの精巣が精子を作れなくなったり、メスなのにオスのような交尾器が中途半端に形成されるなど、異常な個体が生まれやすくなってしまいます。
ニセカラスザメやテングヘラザメも、このような環境ホルモンの影響で雌雄同体になった可能性はあります。
ただし、ニセカラスザメはそうだとしても、テングヘラザメの雌雄同体は日本近海だけでなく、幅広い海域から採集された個体で確認されており、同じ海域に生息するヘラザメ類でこのような現象は確認されていません。
したがって、テングヘラザメの事例は奇形ではないとされています。
サメ類の脊椎異常について
二つ頭や単眼症のサメが見つかることは珍しいものの、脊椎に異常があると思しき奇形のサメ類は割とよく見かけます。
脊椎異常のサメ・エイ類の事例
これまで僕が実際に確認した脊椎異常個体を写真と共に紹介していきます。
こちらは、千葉県の館山で捕獲されたナヌカザメです。
ご覧の通り背中が異様な方向に盛り上がり、歪みがあることが分かります。
明らかに泳ぎにくそうな体型ですが、全長や模様からして幼魚ではありません。
これだけ歪んでいても野生環境で生き残れているようです。
こちらは葛西臨海水族園のフトツノザメです。
こちらも身体の後ろ側が不自然に曲がっています。
泳ぎ方がきごちなく不安になりますが、このサメも幼魚というサイズではなく、この状態で問題なく生きられるようです。
こちらは、マクセルアクアパーク品川に展示されていたジャイアントシャベルノーズというエイの仲間です。
尾ビレ付近が明らかに歪んでいるのが分かります。
このエイはもう展示終了してしまっていますが、飼育員さんにお聞きしたところ、この歪みが原因ではなく、搬入された当時からこの状態だったそうです(2023年6月現在、脊椎に異常のないジャイアントシャベルノーズは引き続き展示されています)。
こちらはヨシキリザメの胎仔です。漁獲されたメスの子宮内に10尾以上の赤ちゃんが入っていました。
尾ビレの近くを見てみると、程度の差はあるものの、どの胎仔も体に歪みがあります。
子宮内の兄弟姉妹全てが奇形だったという、大変興味深い事例です。
脊椎異常の骨格を観察
では、脊椎異常のサメの内部はどうなっているのでしょうか。
実際にヨシキリザメの胎仔を切り開き、内部を確認してみました。
実際に周りの肉や内臓を取り除いて脊椎だけにすると、骨格が歪んでいることが分かります。
奇妙や歪みや膨らみが体にある場合、骨ではなくて肉付きに問題がある可能性も考えられますが、これを観る限り、サメ類の歪みは脊椎そのものの歪みから来ているようです。
脊椎異常でも生き残れる条件
脊椎に異常があっても長く生きるサメ・エイ類は存在しますが、これは泳ぎ続けなくても呼吸ができるサメ・エイ類に限定されると思います。
今回紹介した脊椎異常でも長生きしているサメやエイたち(ナヌカザメ、フトツノザメ、ジャイアントシャベルノーズ)は、どれも泳がなくても呼吸ができる仲間たちです。
つまり、体が歪んでいることでスムーズに遊泳できなくても、エラに酸素を送ることが出来ます。
一方、最後に紹介したヨシキリザメはラム換水と呼ばれる呼吸をするサメで、泳ぎ続けることで口からエラに水を通して酸素を取り込みます。
ヨシキリザメのようなサメでは、脊椎異常で遊泳速度が遅くなった場合の悪影響が大きいため、恐らく産まれていたとしてもナヌカザメたちのように成長することは無理だったでしょう。
あとがき
以上が、サメの奇形にまつわる解説でした。
先程紹介した通り奇形のサメはすぐに死んでしまうことも多いと思われるので、僕たちが気付かないうちに、もっと興味深い奇形のサメが海のどこかで誕生しているのかもしれません。
また、奇形のサメがたまたま生存に有利な特徴を獲得した場合、それが新しい種になっていくかもしれないと考えるとワクワクしますね。
また興味深いサメ・エイ関連のトピックがあれば紹介していきますので、引き続きよろしくお願いいたします。
参考文献
- Pete Thomas Outdoors『Bizarre-looking shark caught in Sea of Cortez baffles scientists』2011年(2023年7月4日閲覧 現在リンク不具合)
- Sho Tanaka, Yano Kazunari『Hermaphroditism in the lantern shark Etmopterus unicolor (Squalidae, chondrichthyes)』1989年
- 環境省『魚類の繁殖におよぼす内分泌かく乱化学物質の影響』2013年(2023年7月4日閲覧)
- 仲谷一宏 『サメ ー海の王者たちー 改訂版』2016年
- ナショナルジオグラフィック日本版『頭が2つあるサメの報告が世界で増加、原因不明』2016年(2023年7月4日閲覧)
- ナショナルジオグラフィック日本版『珍しいアルビノ、メキシコで単眼のサメ』2011年(2023年7月4日閲覧)
- ナゾロジー『お化けのような「人面ザメ」がインドネシア沖で捕獲される、地元漁師も困惑』2021年(2023年7月4日閲覧)
- 日刊ゲンダイ『人間顔のサメを捕獲! インドネシアで液浸標本として保存』2021年(2023年7月4日閲覧)
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