ホホジロザメは97%人間を襲わない?ビーチに現れる人喰いザメの真実

サメが人を襲う映画が量産されたり、人間がサメに噛まれる事故が報道されることで、「海でサメに出会ったら襲われる」というイメージが世間に刷り込まれていると思います。

しかし、この記事を読んでいただければそのイメージが覆るかもしれません。

今年2023年6月、カリフォルニアのビーチでホホジロザメの若い個体を2年間調べた研究チームは「ホホジロザメは人間を攻撃できるほど近くを泳いでいたものの、全く襲うことはなかった」という結果を発表しました。

ホホジロザメは映画『ジョーズ』に登場するサメのモデルであり、サメの中では最も多く人を襲っている危険な種です。

では、何故そんなサメがすぐ近くの人間を襲わなかったのでしょうか?

今回は人間と平和的に共存する、ホホジロザメの意外な一面を紹介していきます。

目次

解説動画:ホホジロザメは97%人間を襲わない?ビーチに現れる人喰いザメの真実

このブログの内容は以下の動画でも解説しています!

※動画公開日は2023年7月6日です。

ドローンでサメを観察

今回の研究結果をまとめると、「かなりの高頻度で人間とホホジロザメは非常に近くを泳いでいた。にもかかわらずサメの事故は起きていない」という内容です。

研究の概要は以下の通りです。

  • 調査場所:米国カリフォルニア南部の26か所のビーチ
  • 調査期間:2019年1月~2021年の3月
  • 観察対象:1.5~3mほどの若いホホジロザメ

研究者はドローンなどを使って上空からサメを探索および観察し、どこにどれくらいの数のサメが泳いでいるか、人間とどのように関わっていたのかを記録しました。

実施したのは調査期間中の163日、回数は延べ1644回で、録画した映像は合計700時間以上になったそうです。

ちなみに、この実験手法について、

サメは海の中に潜ってしまうこともあるから、上空からの映像だけではデータとして不十分では?

と思う人もいるかもしれません。

これについては、別の研究により若いホホジロザメの個体は水面に近く(水深2.5m以下)を泳ぐことが多いという結果が出ているので、現実との大きなズレはないであろうという見解でした。

若いホホジロザメは水面近くを泳ぐことが多いようです。

ホホジロザメは人を避けて泳ぐ?

調査の結果、ホホジロザメの若い個体は、主に2か所サンタ・バーバラのカーピンテリアと、サンディエゴのデル・マーという場所に集中的に現れていることが分かりました。

調査地は他にもあったので、この二つのビーチを調査したのは合計66日でしたが、このうちサメが観察されたのは60日。そして、この60日のうちで人間がビーチに来なかった2日間を除き、サメと人間は同じビーチの中で活動していました。

つまり、ホホジロザメと人間はほぼ毎日出会っていたことになります。

しかも、人間側は気付いていなかったようですが、ホホジロザメはかなり頻繁に人間の近くを泳いでおり、その回数は多い時で60~90回に及ぶ日もありました(中央値は1日18回)。

さらに、いくつかのケースではサメと人間の距離が18mほどまで近づいたこともあったそうです。

ホホジロザメが獲物を襲う際の遊泳スピードを考えれば、18mは十分に彼らの射程圏内です。

しかし、そこまで高い頻度で近い距離を泳いでいたにもかかわらず、調査期間中にホホジロザメによる事故が起こることは一度もありませんでした。

つまり、ホホジロザメは人間の近くをただ泳ぐだけで、人間側もそれに気づかず、同じビーチで何事もなく過ごしていたことになります。

※同じ研究を取り上げている一部ネットニュースなどでは「97%襲わなかった」と紹介されていますが、これは上記の58/60日=96.666%のことを指しており、3%の確率で人が襲われたという意味ではありません。

何故ホホジロザメは人間を襲わないのか?

以上が研究の詳細ですが、何故ホホジロザメは人間が近くにいるにもかかわらず襲わないのでしょうか?

若い個体は小さな動物を食べる

実は、幼いホホジロザメは人間ほど大きい動物を獲物として襲うことはあまりありません。

実際にホホジロザメの食性を調べた研究では、小さい個体は底生性の魚や小型のサメなどを食べていることが多く、3mを超えるあたりから海生哺乳類など大きな獲物を食べる割合が高くなることが分かっています。

僕も日本の定置網で漁獲されたホホジロザメの赤ちゃんを観察させていただいたことがありますが、胃の中にはトビウオ等の小さな魚が入ってました。

定置網で捕まった時に口に入っただけかもしれませんが、海の王者も幼い頃は小さな獲物を追いかけているのかもしれません。

実際にホホジロザメの幼魚の胃から見つかった魚たち

浅瀬はホホジロザメの生育所

襲わないなら何故人間が集まるビーチにいるのか気になります。

これはただ単に、沿岸の浅い海を生育場所として利用しているだけだと思われます。

ホホジロザメの赤ちゃんは全長1m以上。魚全体で見れば巨大なサイズで生まれてきますが、それでも自分より大きなホホジロザメやシャチなどの敵に襲われるリスクがあります。

そこで、幼い頃はエサが豊富で大型個体があまり入ってこない浅い場所で過ごし、成長してから沖の方に出ていくようです。

つまり、海水浴やマリンスポーツに適した場所と幼いホホジロザメが過ごしたい場所がたまたま合致しているだけで、人間がホホジロザメを引き付けてしまっているわけではありません。

ビーチで人間の近くを泳いでいる若い個体は恐らく人間をエサとは認識しておらず、エサとして襲うくらい大きくなる頃には沖に出ていくので、結果として事故が起きていないのだと思われます。

サメが増えても事故は増えない?

この研究は、「サメとの遭遇頻度が多くてもサメの事故は増えない」という傾向を示した点で、非常に重要です。

サメに少しでも詳しい人であれば「サメによる死亡事故は世間で思われているより圧倒的に少ない」というのはご存知だと思います。

シャークアタックに関する解説記事で触れた通り、サメに噛まれてしまう事故は世界で100件以下。そのうち死亡事故は10件にも満たず、雷に当たって亡くなる確率の方が高いくらいです。

しかし、ここまで知っていても、「これはそもそも危険なサメと出会う確率が低いからであって、出会ってしまったら襲われる」または「出会う頻度が多くなればサメの事故は増える」と考える人もいるのではないでしょうか。

今回研究が行われたカリフォルニア南部を含む太平洋北西では、ホホジロザメの個体数に回復傾向がありました。

ホホジロザメは現在絶滅が心配されているため、その個体数が増えているのは喜ばしいことですが、もしサメが増えたことで人が噛まれる事故も増加したら、

サメを保護するなんておかしい!

という感情的な反発を招き、面倒なことになってしまいます。

米国は日本と違い「サメの駆除しよう」などと簡単に言い出さないと思いますが、それでもサメの対策が強化されれば、サメ除けネットに絡まったサメが死んでしまうなどの問題は起きるでしょう。

また、仮にサメの被害を警戒して海岸を閉鎖するとしたら、それはそれで地域経済への影響が心配です。

しかし、今回の研究では、ホホジロザメが人間のすぐそばを頻繁に泳いでいるにもかかわらず、事故の増加はおろか発生すらなかったことが示されました。

この研究成果は「ホホジロザメはとにかく危険な人喰いザメ」というイメージを変えるだけでなく、サメと人間が安全に共存できて地域経済も発展する、理想的なビーチ環境を実現する重要な第一歩かもしれません。

あとがき

今回は人が集まるビーチを泳ぐホホジロザメを調査した研究を解説しました。

内容をまとめると以下の通りです。

  • ホホジロザメの若い個体は人間のすぐ近くを頻繁に泳いでいることがある。
  • ほぼ毎日何度も遭遇していても、サメによる人への攻撃は確認されなかった。
  • これは、若い個体はそもそも大型動物を襲わないという食性が要因と思われる。

この記事では研究の内容や背景をかなり簡単に解説しているので、より詳細に内容を知りたいという方は、参考文献のURLから元の論文『Patterns of overlapping habitat use of juvenile white shark and human recreational water users along southern California beaches』を読んでみてください。

参考文献

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