今回はもうすぐ夏休みの、あるいはすでに夏休み中のサメ好き初心者の方に向けて「水族館でよく見るサメ12選」を紹介します。
ごく一部の変態的なサメ好きを除けば、多くの方にとってサメと関わりを持つ場所と言えば水族館だと思います。
今回は、そんな水族館でよく展示されているサメたちをピックアップして、
- そのサメを見分けるための特徴
- そのサメの魅力や豆知識
- 「このサメを見るならココ!」というオススメな水族館
を紹介していきます。
この記事の内容を憶えれば、自称サメ博士として友達や恋人にドヤ顔ができるかもしれません(ドヤ顔して好かれるかどうかは別問題です)。
本記事で紹介する展示は2023年6~7月時点でサメ社会学者Rickyが把握している情報に基づいています。実際に訪れた際に展示内容が変わっている可能性があります。また、僕の行動範囲の都合上、紹介する水族館が関東や東北圏内に少し偏ります。予めご了承ください。
アカシュモクザメ(Sphyrna lewini)
まず一種目はアカシュモクザメです。
メジロザメ目・シュモクザメ科・シュモクザメ属に分類される、いわゆるハンマーヘッドシャークの仲間です
カッコいい・ヘンテコ・可愛い・キモイなどなど、良くも悪くも水族館では注目されがちなサメですね。
アカシュモクザメの特徴
シュモクザメの仲間はハンマーヘッドという名前でひとまとめにされがちですが、実は世界に9種知られています。
このうちアカシュモクザメは日本の水族館で最も多く展示されているシュモクザメです(というより、他のシュモクザメがいたらレアだと思ってください)。
見分けのポイントをお伝えすると、アカシュモクザメは頭の前縁真ん中に凹みがあり、頭の凹みで分けた時に四つに分かれているのが特徴です。
ただし、幼魚の時はこの違いが分かりづらく、また水槽で擦れてしまって頭に傷があると、見分けが難しいこともあります。
なお、名前の赤は身体の色ではなく、肉の赤みが強いことに由来しています。
アカシュモクザメの魅力や豆知識
他のシュモクザメ類にも当てはまることですが、アカシュモクザメを観るうえで注目して欲しいのは動き方(特にエサの食べ方)です。
アカシュモクザメは見ての通り頭が左右に張り出していて、しかもその後ろ側(サメに首はありませんが、人間で言えば首のあたり)の筋肉が発達しています。
この筋肉でT字型の頭を小刻みに動かすことで、他のサメよりも細かくて機敏な泳ぎができるとされており、実際にエサを食べるアカシュモクザメを見てみると、狭い範囲でくるっと一回転するなど器用な泳ぎ方をしています。
もう一つの注目ポイントが第二背鰭です。
ほとんどのサメには第一背鰭、第二背鰭という二つの背鰭があり、第二背鰭が小さいことが多いです。
そして、アカシュモクザメの第二背鰭は、何故が後ろの端が長く、泳ぐ時に左右にチョロンチョロンします。
この第二背鰭の動きが可愛いというのは、シュモクザメの隠れた推しポイントです。
アカシュモクザメを観るのにオススメ水族館
アカシュモクザメの展示で個人的にオススメなのは大阪海遊館です。
多くの水族館にいるアカシュモクザメは大きくても1.5~2mほどですが、海遊館のアカシュモクザメは3m近くあり、日本の水族館で見られる中では恐らく最大サイズです。
小さいシュモクザメも可愛いですが、マッチョでカッコよく美しいハンマーヘッドを見たいという方には海遊館がお勧めです。
ツマグロ(Carcharhinus melanopterus)
2種目はツマグロというサメです。念のため言いますが、マグロではありません。
メジロザメ目メジロザメ科メジロザメ属に分類される、ちゃんとしたサメの仲間です
ツマグロは熱帯や亜熱帯など暖かい海の浅瀬で暮らすサメなので、珊瑚礁の水槽や熱帯魚が多く泳ぐ水槽にいることが多いと思います。
ツマグロの特徴
ツマグロの特徴かつチャームポイントは体の模様です。
サメの体には第一背ビレ、第二背ビレ、尾ビレ上葉・下葉、胸ビレ、腹ビレ、尻ビレという様々なヒレがついているのですが、ツマグロはその全ての先や縁が黒くなっています。
端の方(つま)が黒いから「ツマグロ」というわけです。
ちなみに、一部のヒレ先が黒いというだけならツマグロ以外のサメでも見られますが、全てのヒレ先が黒いのは恐らくツマグロだけです。
また、ツマグロはヒレ先が黒いだけでなく、体の模様がベージュに薄いグレーの模様を混ぜたような独特の色(カフェオレっぽい)になっているのも特徴です。
ツマグロの魅力や豆知識
先程紹介したツマグロのお洒落な模様は、カモフラージュの役割があるという説があります。
身体全体の模様が薄い中、部分的に黒い縁があることで、全体の輪郭をぼかし、敵や捕食者が自分の姿を視認しづらくなる効果があるとされています。
水族館ではこの効果を実感しづらいですが、自然界やそれに近い水槽であれば効果があるのだと思います。
ツマグロを観るのにオススメ水族館
ツマグロ展示のオススメは迷うのですが、個人的に好きなのは横浜・八景島シーパラダイスの展示です。
人工的に海岸を再現した浅い水深の水槽なので「実際に野生でもこんな風に泳いでいるのかな」なんて思いに浸りながらツマグロ観ることができます。
また、写真の撮りやすさで言えば、マクセルアクアパーク品川もおすすめです。
水槽が横に広い構造なのでサメが奥の方に離れて行ってしまうことがなく、可愛い表情のツマグロを撮影しやすいと思います。
シロワニ(Carcharias taurus)
さっきからサメっぽくない名前ばかり出てきますが、こちらもワニではなくサメの仲間です。ネズミザメ目シロワニ科シロワニ属に分類されています。
このネズミザメ目というグループのサメは、ホホジロザメ、ミツクリザメ、メガマウスザメなど、長期で展示できない、誰も展示したことがないというサメばかりです。
そんな中でシロワニは唯一安定して飼育できるネズミザメ目の仲間です。
シロワニの特徴
シロワニの分かりやすい特徴として、歯をむき出しにした顔が挙げられます。
多くのサメは肉的な部分に歯がおさまっていて噛みつく瞬間でもないと見えないのですが、シロワニは何もしていない時でも鋭い歯が口の外に見えています。
この顔が怖いというのと、英名の「Sand tiger shark」が危険とされるタチザメの英名「Tiger shark」と似ていることから、シロワニは「人喰いザメ」よばわれされたり、全然関係ないサメの事故のニュース記事でシロワニの写真が使われたりするなど、なかなか可哀相な扱いを受けています。
実際には人を襲うことはほとんどない、非常に大人しいサメです。僕もシロワニと一緒に泳いだことがあります。
他にシロワニを見分けるポイントとしては、体が全体的に太目でがっしりしていることが多く、第一背びれが体の後ろ側にある、背ビレ・腹びれ・尻びれのサイズがほとんど同じサイズであることなどが挙げられます。
シロワニの魅力や豆知識
シロワニは魅力の多いサメですが、今回は水族館にちなんで見どころを二つ紹介します。
一つはシロワニの歯についてです
シロワニが飼育されている水槽の下をよく見ると、歯が落ちていることがあります。
シロワニ以外のサメも一生のうちに何度も歯が生え変わるので、どのサメの水槽でも歯は落ちていると思いますが、シロワニは一本一本の歯が大きく、抜け落ちる頻度も恐らく多いので、割と簡単に見つけることができます。
もう一つがシロワニの浮力についてです。
サメ類はウキブクロを持っていないので、ほとんどのサメが一定の速度で泳ぎ続けないと底の方に沈んでしまいます(大きな肝臓をもつことである程度の浮力は持っています)。
しかし、水族館でシロワニを見ていると、他のサメよりも非常にゆっくり泳いでいるか、ほとんど止まった状態で浮力を保っています。
実は、シロワニは水面に顔を出して胃の中に空気を取り込むことで、速く泳ぎ続けなくても浮力を維持することができます。
こうした理由でゆっくり泳ぐことが多いため、シロワニは泳いでいる姿を一番撮影しやすいサメだと思います。
サメを上手に撮る練習をしたい方は、シロワニがお勧めかもしれません。
シロワニを観るのにオススメ水族館
シロワニを見るのにお勧めしたいのは、アクアワールド茨城県大洗水族館です。
アクアワールド大洗はサメの繁殖研究に非常に力を入れていて、日本では初めて人口環境下でのシロワニ繁殖に成功しています。
2回繁殖したうち、2番目に産まれた子は亡くなってしまいましたが、最初に生まれた子は今も元気に泳いでいます。
水族館生まれの幼いシロワニが見られるのはアクアワールド大洗だけなので、まだ見ていない方はぜひ大洗に足を運んでほしいです。
もう一つおススメを挙げるとすれば、すみだ水族館です。
日本の水族館にいるシロワニのほとんどが幼い頃にオーストラリアや南アフリカから連れてこられた子達ですが、すみだ水族館のシロワニは日本の小笠原諸島からやってきた国産のシロワニです。
シロワニの地域差などマニアックな部分まで突き詰めたいというサメ好きの方には必見だと思うので、ぜひ他の水族館のシロワニとすみだ水族館のシロワニで違いがあるのか確かめてみてください。
ネムリブカ(Triaenodon obesus)
4種目のサメはネムリブカです。メジロザメ目メジロザメ科ネムリブカ属に分類されています。
またサメっぽくない名前ですが、ネムリブカの「ブカ」はフカヒレのフカで、サメを意味します。
暖かい海で暮らすサメなので、ツマグロなどと同じ水槽によく展示されています
ネムリブカの特徴
ネムリブカは先程紹介したツマグロ同様に、模様が特徴的なサメです。
身体全体はグレーか青みがかったようなグレーなのですが、二つの背びれと尾びれの先が白くなっています。ワンポイントのあるモノトーンファッションみたいでお洒落ですね。
また、吻(人間でいう鼻先の部分)が短くて丸く、眼が大きくてネコっぽいので、小動物的な可愛さがあるのも特徴です。
ネムリブカの魅力や豆知識
ネムリブカの名前は、まさに眠っているように日中を過ごすことに由来しています。
「サメは泳ぎ続けないと呼吸が出来ない」と思っている人もいるようですが、実はネムリブカを含む多くのサメは、泳ぎを止めても呼吸をすることができます。
水槽の底にいるネムリブカを見てみると、口をパクパクさせています。彼らは口の動きでエラに海水を送り込むことで呼吸をしているんです(専門的には口腔ポンプ換水と呼びます)。
そんなネムリブカは夜になると活発に泳ぎ回り、細長い体を活かして岩の中に頭を突っ込んで隠れている魚を捕食します。
ただし、水族館ではお客さんがいる昼間にエサをあげることが多いためか、昼でも泳ぎ回っていることがあります。
ネムリブカを観るのにオススメ水族館
ネムリブカを観察するなら、シロワニ同様にアクアワールド茨城県大洗水族館がおススメです。
おススメする理由の一つ目が、水槽の構造です。
ネムリブカは先述の通りあまり泳ぎ回らないので、水槽によってはガラスから死角になる場所でじっとしていてほぼ見られないということがあります。
どこの水族館とは言いませんが、展示しているはずなのに全然姿が見えない、幻のネムリブカとでも呼ぶべき展示が存在します・・・。
その点、アクアワールド大洗の水槽にはそういった死角がないので、安定してじっくりとネムリブカを観察できます。
また、現在アクアワールド大洗ではネムリブカの赤ちゃんを展示しており、年パスを購入して通えばすくすくと成長する様子を観察することができます。
ドチザメ(Triakis scyllium)
ドチザメは野生では日本各地で観られる、最もポピュラーなサメの一種です。メジロザメ目ドチザメ科に分類されています。
展示している水族館も非常に多いので、恐らく名前を知らなくても一回は見たことがあると思います。
ドチザメの特徴
ドチザメの特徴を一言でまとめると、パッと見サメらしいけどどこか抜けていて可愛いサメです。
体つきや鰭については、第二背鰭が大きいこと以外はそこまで変わったところはなく、世間一般にイメージされるサメの姿をしています。
しかし、顔はどこか丸みを帯びていて、目は眠そうなアーモンド形、体に縞模様や斑点模様もあり、怖そうな見た目ではありませんね。
実際、ドチザメはネムリブカ同様に底の方でじっとしていることが多く、一緒に泳いだりもできる非常に大人しいサメです。
また、ドチザメやその仲間の口には唇褶(しんしゅう)という独特の”ひだ”があり、大口を開けて噛みつくというよりは、口をポコッと前に出すような構造になっています。
ドチザメの魅力や豆知識
ドチザメはサメらしい姿をしたサメの中では、恐らく最も飼育しやすいサメです。
これまで紹介してきたサメたちも水族館で飼育はしやすいのですが、体が大きかったり常に泳ぎ続けたりという課題はあります。
しかし、ドチザメは、大きくても1.5m程度という小型で、泳ぎ続けなくても呼吸ができ、さらに水質の変化にも割と強いです。そのため、水族館はもちろん、一般家庭でも頑張れば飼育することができます。
また、ドチザメは日本の水族館では非常にありふれた存在ですが、実は分布が日本近海や中国、台湾などに限られているので、欧米の方から見ると珍しい存在です。
ドチザメを観るのにオススメ水族館
ドチザメでオススメを決めるのは正直難しいのですが、仙台うみの杜水族館、アクアワールド大洗、新江の島水族館などは大水槽でドチザメを飼育しているので、広いスペースを泳ぎ回るドチザメと、底の方でじっとしているドチザメ、両方を観察できるという点ではオススメかもしれません。
また、僕はまだ行けてない場所ですが、富山県にある魚津水族館は、日本で初めてドチザメの単為生殖(メスだけで子供を産む現象)を確認した場所として話題になりました。
サメは親子や夫婦で行動を共にすることがほとんどないこともあり、単為生殖を野生化で確認して研究することはほとんど不可能に近いです。
水族館での飼育は、このような自然界で確認しづらい現象の研究にも役立っている訳ですね。
ネコザメ(Heterodontus japonicus)
可愛いサメとしてよく名前が挙がるのがこのネコザメです。
ネコザメ目という独自のグループを構成しており、世界に9種類ほど仲間がいます。
そのうち日本でもっともポピュラーなのは茶色っぽい色をしたこのネコザメです。
ネコザメの特徴
サメと言えばシャープで尖った、鋭い歯を持つイメージがありますが、色んな意味でそのイメージを裏切っているのがこのネコザメです。
顔全体が丸みを帯びており、鼻はブタみたいになっています。サメらしく大きな背びれはあるもののその先は丸みを帯びており、各背ビレの前には小さな棘があります。
模様は少し縞が入った茶色か焦げ茶色で、あまりサメっぽくありませんね。
そんなネコザメの歯は口の前の方と奥の方で形が違っており、前の方の歯で捕まえた貝類などを奥の歯で噛み砕いて食べています。
このことから「サザエワリ」という異名が付いているものの、水族館では普通にイカや魚の切り身もムシャムシャ食べています。
ネコザメの特徴や豆知識
ネコザメの魅力と言えば顔です。
ブタのような鼻のついた、頭でっかちな顔が何とも言えない可愛さを醸し出しています。横から見るとドヤ顔に見えるところもチャームポイントです。
ちなみに、以前とある毒生物の企画展で、「ネコザメのトゲには毒がある」と紹介されたことがあり、ネットでもそのように紹介している記事がありますが、これはデマだと思います。
この件は「サメに毒はあるのか?」というテーマの記事で一度解説しているので、興味のある方はご覧ください。
ネコザメを観るのにオススメ水族館
ネコザメも数多くの水族館で見ることが出来ますが、おススメを一つ挙げるなら新江ノ島水族館(通称えのすい)です。
新江ノ島水族館は相模湾大水槽でネコザメを展示しているだけでなく、タッチプールにてネコザメやその卵殻に触ることができます。
ネコザメの卵殻は雌株をドリル状にしたような独特の形状をしており、岩の間に挟まることで卵が流れていかないようにできています。
一体どういう進化の過程でこのような卵が作られたのか?サメ類の進化や繁殖の神秘について、実際に手に触れながら 思いをはせてみてはいかがでしょうか。
イヌザメ(Chiloscyllium punctatum)
猫がいれば犬もいるということで、イヌザメです。テンジクザメ目テンジクザメ科テンジクザメ属というグループに分類されています。
「テンジクザメ」という名前は聞き馴染ない方もいると思いますが、世界最大の魚類ジンベエザメもテンジクザメ目なので、すごく広い意味ではイヌザメはジンベエザメに近い仲間です。
イヌザメの特徴
イヌザメは大きくても1m超えるかどうかという小型のサメです。
体全体が細長く、丸みを帯びた頭の先にちょぼんとした口があるのが特徴です。口の近くにヒゲのような突起もあり、なんだかナマズみたいですね。
サメらしい尖った三角形の背鰭はあるものの、体の後ろ側に位置していて、全体的な見た目はサメっぽくありません。
ちなみに、イヌザメという名前はにおいを嗅ぎながら砂の上を這うように泳ぐ動作が犬っぽいことに由来しているそうです。
イヌザメの魅力や豆知識
イヌザメは成長するにつれて模様が変化していくサメです。
イヌザメは母親が産み落とした卵の中で育ったのちに自力で出てくる卵生のサメで、孵化してすぐのイヌザメは白黒の縞模様をしています。
この模様が成長するにつれてだんだん薄れていき、最終的にはほぼベージュか茶色の、ほとんど縞が分からない姿になります。
イヌザメを観るのにオススメ水族館
イヌザメは数多くの水族館で観られますが、現在マクセルアクアパーク品川では、小さな水槽でイヌザメの卵と成長段階の異なる幼魚二匹を飼育しており、さらに別の水槽で成魚を展示しています。
先程紹介した模様の変化を観察するにはおススメな水族館かと思います。
トラフザメ(Stegostoma fasciatum)
トラフザメはイヌザメと同じくテンジクザメ目の仲間で、トラフザメ科トラフザメ属という独自のグループに属しています。
顔つきや雰囲気はイヌザメに近いものを感じますが、独特な模様やより丸みのある顔から、マスコット要素の強いサメです。
トラフザメの特徴
トラフザメを一言で表すなら、「大阪のおばちゃんみたいな模様をした尾の長いジンベエザメ」です。
「トラフ」という名前なのに体はどちらかと言えばヒョウ柄、ジンベエザメと同じように体に隆起線という盛り上がったラインがあり、全長の2分の1に届きそうなくらい長い尾鰭を持っています。
これだけ長い尾鰭には何か重要な意味がありそうですが、現状どういった役割があるのかよく分かっていません。
テンジクザメ特有の丸い顔つきもジンベエザメを思わせるのか、よく小さなお子さんがジンベエザメと勘違いする声が聞こえてきます。
トラフザメの魅力や豆知識
トラフザメもイヌザメ同様、体の模様が成長につれて大きく変わるサメです。
卵殻から出てきたばかりのトラフザメは、親とは似ても似つかない黒い体に白い縞模様の姿をしています。ちなみに、英語ではこの模様に由来してZebra sharkと呼ばれています。
そして、成長するにつれて徐々に体の色が薄くなって斑点が多くなり、やがて大阪のおばちゃんみたいな模様に変化していきます。
また、トラフザメは単為生殖、つまり、メスだけで子供を産む現象を研究する上で、非常に面白いサメです。
水族館で一度オスと交尾して普通に卵を産んだメスのトラフザメがオスと離れた後に単為生殖で子供を産んだり、逆にオスと一緒の水槽にいたにもかかわらず「あんたなんかいらない」と言わんばかりに単為生殖で卵を産んだりと、興味深い事例が確認されています。
トラフザメを観るのにオススメ水族館
トラフザメの成魚と幼魚、両方を見比べることができるという点では、幼魚を常設展示している沖縄美ら海水族館がオススメです。
黒潮大水槽では成魚も泳いでいるうえジンベエザメもいるので、それぞれの違いを見比べやすいと思います。
ただ、マスコット的な可愛さに癒されたいという方には、サンシャイン水族館が良いと思います。
サンシャイン水族館のトラフザメはこの水槽での生活が長いためか飼育員にもかなり慣れていて、餌付けショーの際にはダイバーと戯れるトラフザメを見ることができます。
こうした扱いが環境教育としてどうなのかという見方もできますが、少なくともはたから見る限りは健康状態に問題はなさそうです。
また、「サメは果たして人に懐くのか?どの程度の学習能力があるのか?」という疑問を考えるうえでは、なかなか面白いサンプルだと思います。
ナヌカザメ(Cephaloscyllium umbratile)
ナヌカザメは、メジロザメ目トラザメ科ナヌカザメ属に分類されるサメの仲間です。
深海ザメとして紹介されることは少ないですが、冷たい水温を好むサメなので、タカアシガニ等が暮らす深海水槽でよく展示されています。
ナヌカザメの特徴
ナヌカザメの見た目を一言で表すなら、オオサンショウウオです。
サメの象徴ともいえる背ビレが小さくて体の後ろの方にあり、体が太いものの尾鰭の方が細く、さらに茶色っぽい体に縞模様やブチ模様が不規則に並ぶその姿は、オオサンショウウオに近いものを感じます。
顔つきもなんとなく悟りを開いた両生類か爬虫類のような顔で、一般にイメージされるサメっぽくありません。
ただし、こんな顔でも様々なものを食べる捕食者であり、胃の中からはマイワシやカレイ、更には小さなサメやエイ、ギンザメなどが見つかっています。
ナヌカザメの魅力や豆知識
ナヌカザメの仲間は英語で「Swell shark」と呼ばれます。
「Swell」は増大させる、膨らむ等の意味を持つので、直訳すれば「膨らむサメ」です。
ナヌカザメは水を吸い込んで胃の一部にためることで体を膨らませることができます。これは敵に襲われた時に食べられにくくしたり、岩の間に入ってから体を膨らませて体を固定する役割があるとされています。
また、ナヌカザメは先程のネコザメと同じく卵生で、彼らの卵は乳白色というかほぼ白い、非常に美しい色をしています。
時間が経つと黄色っぽくなるようですが、産みたてや母胎から取り出した卵は宝石みたいで、「人魚の財布」というお洒落な異名がついています。
ナヌカザメを観るのにオススメ水族館
ナヌカザメの展示で個人的にお勧めしたいのは、愛知県蒲郡市にある竹島水族館です。
癖の強すぎる解説展示でお馴染みのこの水族館では、ナヌカザメの成魚をタッチプールで触ることができます。
サメを触るとなるとザラザラのウロコ(いわゆるサメ肌)が醍醐味ではありますが、ナヌカザメは横腹のプルンプルン具合も楽しめます。
また、ナヌカザメの卵殻を触れたり、生まれたての可愛いすぎる赤ちゃんを展示していることもあるので、ナヌカザメが好きな方にはかなりおススメですね。
トラザメ(Scyliorhinus torazame)
トラザメはメジロザメ目トラザメ科トラザメ属に分類されるサメで、先程のナヌカザメに近い仲間です。
生息域も水温の低い深めの場所が多いので、深海魚水槽にいることが多く、ナヌカザメとよくセットで展示されています。
トラザメの特徴
分類が近いだけあってナヌカザメに見た目が似ていますが、トラザメの方が頭が丸みを帯びていて平たく、体全体も細い印象です。
マニアックだけど確実な見分け方を伝えると、トラザメの臀鰭は第一背鰭と第二背鰭の間にありますが、ナヌカザメの臀鰭は第二背鰭の少しだけ前、ほぼ真下にあります。
雰囲気で何となく見分けられる人も多いと思いますが、サメは「見た目が似ているけど実は別種」というパターンが多いので、ヒレの位置関係など明確な根拠を持って見分ける癖をつけた方が良いと思います。
なお、名前のトラは体に縞模様があることに由来しています。
トラザメの魅力や豆知識
トラザメは水族館で安定して観られるサメの中で、恐らく最も小さいサメです。
これまで紹介してきたサメもシロワニ以外はそこまで大きくありませんが、それでも成魚になれば1m以上にはなります。
しかし、トラザメは最大サイズでも50cm程度。500ミリペットボトル2本分くらいです。
サメ=凶暴で大きなモンスターというイメージが未だに根強いですが、トラザメを見ていただければ、そういうサメばかりではないと明確に分かりますね。
トラザメを観るのにオススメ水族館
トラザメは飼育・繁殖共に容易なので多くの水族館で見られますが、最近行った中でのオススメは名古屋港水族館です。
名古屋港水族館では、トラザメの卵殻、幼魚、成魚をそれぞれ展示しているので、それぞれの特徴や成長過程を観察することができます。
卵殻は産卵後どれくらい経っているかも掲示されており、どれくらい経てばサメの姿になっていくのか分かりやすいのも魅力です。
カスザメ(Squatina japonica)
カスザメは、カスザメ目カスザメ科カスザメ属に分類されるサメの仲間です。
見た目が全然サメではありませんし、砂の中に隠れていることも多いので「え、これが水族館によくいるの?」とおもうかもしれませんが、水温低めの水槽でよく展示されています。
カスザメの特徴
カスザメ最大の特徴は平べったいことです。
多くの人がイメージするサメは流線形の姿ですが、カスザメは体全体が平らで、サメの象徴である背鰭も申し訳程度のサイズです。
普段は砂の中でじっとしていることが多く、水槽によってはカスザメの存在に気付けないこともあります。
ちなみに、水族館でよく「サメとエイの見分け方」として、エラ孔が体の側面にあるのがサメ、お腹側にあるのがエイと紹介されています。
カスザメは体が平らな上にお腹を見せることがほぼないのでエラの確認が難しいのですが、実際に見てみると側面と言える部分にエラがあります。ちゃんとしたサメの仲間です。
カスザメの魅力や豆知識
カスザメは全く動かずに呼吸ができるという特殊能力を持ったサメです。
先程ネムリブカの紹介で、泳ぎ続けなくても呼吸ができるサメは口を動かすことで息をしていると言いました。
しかし、カスザメは口を動かすことも、泳ぎ回ることもなく、何故か呼吸を続けることができます。
沖縄美ら海水族館の研究者の方がカスザメをエコーで観察したところ、確かに口が動いていないことが確認されました。
砂の中に隠れるためにこういった能力を進化の中で獲得したのだと思いますが、一体なぜこんなことができるのか、ハッキリとは分かっていません。
一見地味に見えるサメの何気ない展示の中に、実は専門家も明らかにできていない謎があるというのも、水族館の面白いところですね。
カスザメを観るのにオススメ水族館
カスザメを見るのにオススメしたいのは名古屋港水族館です。
カスザメは砂の中に隠れることが多いので、水槽によってはほぼ観られないということもありますが、名古屋港なら割と安定して観察できると思います。
また、名古屋港は同じ水槽内にコロザメという近い仲間を一緒に展示しているので、カスザメとコロザメを見分けられるようになりたいという方にはお勧めです。
ちなみに、両社の分かりやすい見分けのポイントは胸鰭の角度が直角かどうかと黒い斑点模様が背中に目立っているかどうかです。
個人的には、コロザメの方が爬虫類っぽい目をしているという点でも見分けは可能だと思います。
ノコギリザメ(Pristiophorus japonicus)
最後に紹介するのがノコギリザメです。ノコギリザメの仲間は全てノコギリザメ目というグループに分類されています。
正直ドチザメなどに比べると展示している水族館は少ないですが、名前だけは有名で注目されがちなサメなので、今回のリストに加えさせていただきました。
ノコギリザメの特徴
ノコギリザメの特徴は、なんといってもその頭です。
吻の部分が非常に細長く、そして平らに伸びていて、その左右から複数のトゲが伸びています。
また、吻の部分から二本のヒゲが生えている、体全体が細長い、顔に対して眼が大きいなどの特徴もあります。
ノコギリザメの魅力や豆知識
ノコギリザメと似た特徴を持つ生物に、ノコギリエイというエイの仲間がいます。
サメに詳しくなくても何故かノコギリザメはほとんどの人が知っているので、ノコギリザメはノコギリザメとして認識されるのですが、ノコギリエイを見た人の8割がノコギリザメと勘違いしたまま帰っていきます。
水族館で使える簡単な見分け方をお伝えすると以下の通りです。
- ノコギリザメのエラ穴は体の側面にあるがノコギリエイはお腹側
- ノコギリエイの方が横に幅広くて体が明らかに大きい
- ノコギリザメは水温の冷たい場所や深海に生息しているので暗目の小さな水槽にいるが、ノコギリエイは熱帯や亜熱帯の浅瀬に暮らすため明るく熱帯魚がいるような水槽にいることが多い、
ノコギリザメを観るのにオススメ水族館
展示個体の観察や撮影がしやすいという点でオススメなのは名古屋港水族館です。
先程紹介したカスザメやコロザメと一緒の水槽に展示されています。
しかし、沖縄美ら海水族館も捨てがたいです。
美ら海は世界で初めて人口環境下でのノコギリザメの繁殖に成功しており、僕が知る限りでは現在も生まれた個体が展示されているはずなので、超貴重な繁殖個体が見られるという点ではオススメです。
あとがき
以上が、水族館でよく見るサメ12選の解説でした!
今回紹介したのは世界に存在するサメのごく一部ですが、この子たちのことを覚えるだけでも水族館が楽しくなり、他のサメを覚える時にも違いや特徴が覚えやすくなると思います。
サメのことをもっと学びたいという方は、ぜひ他の記事や僕のYouTube動画を見て頂けると幸いです!
参考文献
- David A. Ebert, Marc Dando, and Sarah Fowler 『Sharks of the World a Complete Guide』2021年
- 佐藤 圭一, 冨田 武照『寝てもサメても 深層サメ学』2021年
- 仲谷一宏 『サメ ー海の王者たちー 改訂版』2016年
- 沼口麻子 『ほぼ命がけサメ図鑑』2018年
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