標準和名 | アカシュモクザメ |
学名 | Sphyrna lewini (Griffith & Smith, 1834) |
英名 | Scalloped hammerhead |
分類 | メジロザメ目 シュモクザメ科 シュモクザメ属 |
生息域 | 世界中の熱帯、亜熱帯、温帯海域に生息 |
飼育難易度 | ★★★☆☆(水族館で長期飼育の実績あり) |
サメ好き偏差値 | ★★☆☆☆(サメ好きなら常識レベル) |
アカシュモクザメの特徴
サイズ
全長は170~250cmほど。大きいものでは350cmほどになり、シュモクザメ類の中では大型種です。一説では4mを超えることもあるとされています。
ただし、アカシュモクザメはヒラシュモクザメなどと混同されることが多く、極端に大きい記録は(もし嘘でなければ)ヒラシュモクザメと誤認したものの可能性もあります。
体型や顔つき
頭部はシュモクザメ類特有の左右に張り出した形で、やや湾曲して丸みを帯びています。
また、頭部前縁の中央に凹んだ部分があり、各凹みで頭を分けると四つになるのが特徴です。なお、この中央の凹みが英名Scalloped(凹みのある、ホタテ型の)の由来になっています。
ただし、幼魚である場合や頭に傷のある個体では、これらの見分けが困難なこともあります。
ヒレの特徴や位置関係
アカシュモクザメは、第一背ビレや胸ビレが鎌形ではなく、後方の縁がまっすぐに近い形状であることが特徴です。
また、第二背ビレは高さが低いわりに後方が細長く伸びています。
この伸びた部分が泳ぐときに左右にチョロンチョロンと動くのが可愛らしく、アカシュモクザメの推しポイントの一つです(ただし、この現象は他のシュモクザメでも見られます)。
さらに、これも他のシュモクザメ類に共通しますが、ハンマー型の頭かじ取りをできるためか、他のメジロザメ類に比べて体に対する胸ビレのサイズが小さいです。
体色や模様
背中側は茶色がかったグレー、ブロンズ、オリーブ色と表現されることもあります。お腹側は白か黄色みがかった白です。胸ビレの腹側が黒くなっており、尾ビレの上葉と下葉の先もやや黒っぽいです。
ハワイのカネオヘ湾で暮らすアカシュモクザメの幼魚は、湾の深い場所から浅瀬に出ると徐々に日焼けして茶色や黒に近い体色になることが確認されてます。
なお、標準和名の「アカ」は肉の色が赤みを帯びていることに由来しています。体の表面が赤いわけではありません。
ちなみに、横浜・八景島シーパラダイスではやけに体色が黒いアカシュモクザメが展示されています。あまり話題になっていませんが、黒化個体かもしれません。
歯の形状
アカシュモクザメの歯は上顎歯・下顎歯ともに底の方が幅広で、そこから刃物が生えたような形状をしています。上顎歯の方が尖った部分が太くなっています。
正中歯は尖った部分が真っすぐですが、それ以外の歯は左右それぞれに傾いています。上顎歯の方が傾きが大きいですね。
また、同じ全長のメジロザメ類に比べると歯の大きさ自体が小さいのも特徴です。
似ている種との見分け方
日本近海ではアカシュモクザメの他に、シロシュモクザメとヒラシュモクザメの生息が確認されており、以下のような方法で見分けることが可能です。
【シロシュモクザメとの見分け方】
- シロシュモクザメは頭部前縁の中央部に凹みが無く、頭を凹みで分割した時に3つに分かれる。
- シロシュモクザメの歯はアカシュモクザメに似ているものの、尖っている部分がもっと幅広でサメの背鰭か鶏冠に近い形をしている。
- アカシュモクザメは頭骨の先端部分に穴が開いているが、シロシュモクザメは空いていないことがほとんど(シロでも空いている事例もあるようですが僕は見たことありません)。
【ヒラシュモクザメとの見分け方】
- ヒラシュモクザメは頭部の形状が弧を描かず長方形に近いうえ、第一背ビレや胸ビレが鎌形である。
- ヒラシュモクザメは上顎歯・下顎歯共に尖っている部分が非常に太く、下顎歯は尖った部分の向きが正中歯以外も真っ直ぐに近い。
ただし、アカシュモクザメとの外見的な違いがほとんどないにも関わらず、遺伝子レベルで別種として新種記載されたカロライナ・ハンマーヘッド(Sphyrna gilberti)というサメが存在します(2013年に隠蔽腫として新種記載)。
尾鰭より前の脊椎骨の数が83~87個という違いはあるものの(アカシュモクザメは92~99個)、表面的な見た目で見分けることは不可能であり、脊椎骨ですら絶対の基準ではありません。
これに関してはDNAを調べるしかないので、サウスカロライナ州近海のシュモクザメを扱う際はご注意ください。
アカシュモクザメの分布
世界中の熱帯、亜熱帯、温帯海域の沿岸部で確認され、基本的には22℃以上の水温の場所に生息しています。
日本では青森県以南に分布し、太平洋側・日本海側の両方で見られ、伊豆諸島、沖縄県、小笠原諸島など幅広く分布しています。
日本近海にはアカシュモクザメ、シロシュモクザメ、ヒラシュモクザメの3種のシュモクザメ類が生息するとされていますが、アカシュモクザメはそのうちで最もよく見られるシュモクザメです。
アカシュモクザメの生息環境
水深の深い大陸棚や島棚の近くに主に生息しています。
若い個体は沿岸近くに分布し、成長にともなって水深の深い沖合で暮らすようになります。
季節回遊を行うサメであり、時に数百尾にもなる大きな群れをつくります。群れの中では大きさによる序列のようなものがあり、頭を振ったり回転しながら加速するなど何らかの社会的な意味があると思しき行動が見られることもあります。しかし、その群れの役割などはまだよく分かっていません。
なお、アカシュモクザメに対して深海ザメというイメージを抱く人は少ないと思いますが、日周鉛直移動をするサメであり、水深200m以深(時に1000m以上)に潜ることもあります。
この深海への潜水時に、エラ孔を閉じることで体温の低下を防いでいることを示唆する研究が2023年に発表されています。
アカシュモクザメの食性
硬骨魚や頭足類の他、小さなサメやエイなども捕食します。かなり幅広いものを襲う日和見主義的な捕食者のようです。
エクアドル近海で116尾のアカシュモクザメを調べた研究では未成熟個体も成熟個体もイカ類を主に食べていることが分かっています。
米国カリフォルニア南部で556尾の若いアカシュモクザメを調べた研究でもイカ類を多く食べているという結果でした。ただし、100cm以下の小さな個体はアジ科の硬骨魚も同じくらい食べていました。
なお、アカシュモクザメについて「好物はアカエイ」や「ハンマー型の頭でエイを押さえつけて食べる」と紹介されることがありますが、この情報の元になった事例はヒラシュモクザメのものであり、アカシュモクザメが同じような方法でアカエイ類を捕食しているのかは分かりません。
シュモクザメ類の情報はひとまとめにされがちなので、捕食行動に限らず「それはどの種に関する情報なのか?本当に他の種にも当てはまるのか?」など、よく吟味した方が良いと思います。
アカシュモクザメの繁殖方法
繁殖方法は母胎依存型胎生の胎盤タイプで、栄養が吸収された後の外卵黄嚢が臍の緒・胎盤を形成し、母ザメから直接栄養を受け取ります。
妊娠期間は9~12ヶ月程で、31~57cmほどの赤ちゃんを12~41尾出産します。
産まれた幼魚は2年ほど浅瀬で過ごし、成長すると沖の方に出ていきます。
アカシュモクザメと人間のかかわり
シャークアタックの危険性
International Shark Attack Fileではアカシュモクザメ単体の事故件数のデータはなく、「シュモクザメ属(Sphyrna spp.)」でまとめられています。
シュモクザメ属による非誘発性の事故(Unprovoked attack)は18件、そのうち死亡事故は0件です(2023年9月16日現在)。
アカシュモクザメは世間一般では危険なサメとして紹介されることが多いものの、人間を積極的に襲うサメではありません。
日本では「天草の海で女子中学生を襲って死亡させたのがシュモクザメだった」という、極めて根拠があいまいで不確かな噂により、アカシュモクザメに限らずシュモクザメ類の危険性が誇張されているように感じます。
成魚のアカシュモクザメは確かに体が大きく筋肉質で迫力はありますが、体に対して口や歯のサイズが小さく、人間ほど大きな動物をエサとして襲うとは考えにくいです。
ダイバーの間でも、アカシュモクザメは臆病なサメとして有名であり、襲ってくるどころかダイバーを見ると逃げてしまいます。
大型野生動物として最低限の警戒は必要でしょうが、「喰われるかも」と心配する必要はないでしょう。
個人的な見解として、アカシュモクザメが見られるダイビングスポットは流れが速いことが多く、シュモクザメに襲われることよりも海流に流されるリスクを心配した方がいいと感じます。
消費利用や観光業
アカシュモクザメは沿岸や概要の漁業で混獲されたり、スポーツフィッシングの対象になることがあります。また、幼魚は陸に近い浅瀬を泳ぐことから、一般人の釣り針にかかってしまうこともあるようです。
肉を食べることもでき、実際に食べてみた感想としては悪くないのですが、食品として利用される場合はフカヒレがメインで、アカシュモクザメの肉が流通することは多くありません。
また、アカシュモクザメはダイビングでも人気なサメであり、その群れて泳ぐ姿は”ハンマーリバー”と呼ばれ親しまれています。日本では夏の伊豆諸島や神子元島、冬の与那国島などで群れを見ることができます。
水族館飼育
アカシュモクザメは日本の水族館では最も多く飼育されているシュモクザメ類です(というよりも、他のシュモクザメが国内で展示されていたら非常に珍しいと考えて良いでしょう)。
葛西臨海水族園、横浜・八景島シーパラダイス、大阪海遊館、アクアワールド茨城県大洗水族館など、複数の園館で長期間飼育されています。
ただし、ある程度広い水槽でなければ飼育は難しいようで、ガラスや壁で擦ったことによる傷や腫瘍のようなものができている個体をよく見かけます。
保全状況
IUCN Redlistはアカシュモクザメを近絶滅種(Critically Endangered)と評価しています(2023年9月18日現在)。
大西洋北西とメキシコ湾では個体数激減の後に回復している傾向が見られるものの、地球全体では混獲などの要因により著しい減少傾向にあると考えられます。
アカシュモクザメは先述の通り大きな群れで移動するため、延縄や底引き網によって一度に大量に捕まってしまうので、漁獲圧の影響を大きく受けやすいサメと言えそうです。
参考文献
- Colombo Estupiñán-Montaño, Luis G. Cedeno-Figueroa, elipe Galván-Magaña『Feeding habits of the scalloped hammerhead shark Sphyrna lewini (Griffith & Smith, 1834) (Chondrichthyes) in the Ecuadorian Pacific』2009年
- David A. Ebert, Marc Dando, and Sarah Fowler 『Sharks of the World a Complete Guide』2021年
- Florida Museum of Natural History『Sphyrna lewini』(2023年9月24日閲覧)
- IUCN Redlist『Scalloped Hammerhead』(2023年9月24日閲覧)
- Jose I. Castro 『The Sharks of North America』 2011年
- Marin Diving Web『サメについて知ろう!~種類や生態を詳しく紹介』(2023年9月24日閲覧)
- Mark Royer, Carl Meyer, John Royer, Kelsey Maloney, Edward Cardona, Chloé Blandino, Guilherme Fernandes da Silva, Kate Whittingham, Kim N. Holland『“Breath holding” as a thermoregulation strategy in the deep-diving scalloped hammerhead shark』2023年
- Joseph Michael Quattro, William Driggers, James M Grady, Glenn F Ulrich, Mark A. Roberts『Sphyrna gilberti sp. nov., a new hammerhead shark (Carcharhiniformes, Sphyrnidae) from the western Atlantic Ocean』2013年
- Wesley R. Strong, Jr., Franklin F. Snelson, Jr. and Samuel H. Gruber『Hammerhead Shark Predation on Stingrays: An Observation of Prey Handling by Sphyrna mokarran』1990年
- Yassir Edén Torres-Rojas, Agustín Hernandez-Herrera, Felipe Galván-Magaña『Feeding habits of the scalloped hammerhead shark, Sphyrna lewini, in Mazatlán waters, southern Gulf of California, Mexico』2006年
- 仲谷一宏 『サメ ー海の王者たちー 改訂版』2016年
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