世間でサメが話題になる時は、「誰かがサメに襲われた」や「サメがこんなものを食べた」など、サメの捕食行動に関係していることが多いです。
では、「サメに食べられたらどうなるのか?」を真剣に考えたことはあるでしょうか。
サメの危険性をいたずらに煽ることには反対ですが、「襲われた獲物がどうなるのか?」という疑問は、サメの体内構造を知るうえで面白い切り口だと感じたので、本記事でなるべく分かりやすく紹介していきます。
実際にサメに食べられて体内旅行をするつもりで読んでいただければ幸いです。
解説動画:サメに喰われた者の末路とは?ジョーズに食べられると何が起きるのか解説!
このブログの内容は以下の動画でも解説しています!
※動画公開日は2023年9月14日です。
“サメに喰われる”の4フェーズ
「サメに喰われたらどうなるか」というテーマを解説する上で大事なのは、サメの食事プロセスを理解することです。
基本的には僕たち人間と変わらず、以下の4フェーズに分かれます。
そのため、「サメに喰われたらどうなるか?」もこのフェーズに沿って紹介していくのが良いと思います。
口の中に食物を入れて飲み込む
「喰われる」という過程において最初の段階ですが、実はここで何が起きるかはサメの種類によって大きく異なります。
サメに喰われることを考える時、ほとんどの人が「大きな歯のサメに噛み千切られる」という、まさに『ジョーズ』や『ディープ・ブルー』のワンシーンをイメージすると思います。
しかし、サメの歯には様々な形があり、大きく分けると4タイプが存在します。
- 切るタイプ
- 刺すタイプ
- 砕くタイプ
- 濾過タイプ
歯によって獲物の食べ方も異なるので、順番にご紹介します。
切るタイプの歯:ホホジロザメの例
切る歯の代表としてホホジロザメの歯を見てみましょう。
ホホジロザメの歯は大きな三角形で、先が尖っているだけでなく、縁がノコギリのようにギザギザしているのが特徴です(このような歯を鋸歯と言います)。
こうした切る歯を持つサメは、獲物に噛みついて身体を思いっきり振ることで獲物から肉を切り裂きます。そして、飲み込める大きさになった肉を食べるのです。
人間がもしサメに食べられるとしたら、恐らくこうした切る歯を持つ大きなサメですから、まず食べやすいように切り刻まれることになりそうです。
刺すタイプの歯:シロワニの例
続いては刺す歯です。これはシロワニの歯が分かりやすいでしょう。
シロワニの歯は先が尖った細長い形状で、縁はギザギザしておらず滑らかです。
この歯は獲物を切り裂くよりも、突き刺して逃がさないようにすることに適しており、噛まれた獲物は多くの場合丸呑みにされます。
このような歯を持つサメは、基本的に一口で食べられる動物を襲うことが多いため、噛まれたら大怪我はするものの、人間をエサとして襲うことは稀です。
砕くタイプの歯:ネコザメの例
砕く歯については、ネコザメの仲間が分かりやすいでしょう。
ネコザメは、前の方にある歯(写真の左側)が何かを引っかけるのに適した小さいウロコのようにな形をしていて、奥の方の歯(写真の右側)が石畳のようになっています。
彼らは、前方の歯で捕まえたサザエやウニなどの生物を、奥の歯で噛み砕くのが得意です。
もし皆さんが何かの事情でサザエになったとすると、ネコザメのようなサメに捕まった後、奥の歯で殻を噛み砕かれ、殻はエラ穴から捨てられ、身だけ飲み込まれることになります。
濾過タイプ:ジンベエザメやウバザメの例
ジンベエザメやウバザメなど、そもそも歯を使わずに濾しとって獲物を飲み込むタイプのサメもいます。
ジンベエザメやウバザメの歯を見てみると、一応歯はありますが非常に小さいことが分かります。
彼らは、オキアミなどの小さな生物を大きな口に海水ごと入れて、海水をエラから出すときに、エラにある鰓耙とよばれる突起でエサだけ濾しとり、口の奥にある喉に送って飲み込むのです。
ちなみに、ジンベエザメやウバザメは口自体が大きくても喉は小さいので、人間ほど大きな動物が丸飲みされることは基本的にありません。
ただし、ジンベエザメの吸引力は凄まじいため、頭などが喉にはまって抜けなくなる恐れがあります。一緒に泳ぐ際は適度な距離感を保つようにしましょう。
胃の中で消化する
「サメに喰われたら」の第二フェーズです。食道を通って胃に到達した獲物は、胃液によって消化されます。
サメの胃内容物
先程は色々なパターンを紹介しましたが、ここからの流れはそこまで変わりません。ただ、やはりサメの種類によって胃の内容物は大きく異なります。
実際にサメの胃の中を見てみると、本当に様々なものが見つかります。
何の種類か同定できる状態で残っている場合もあれば、目玉の水晶体のような残りカスしかないケースもあり、サメを開く時は毎回楽しみです。
なお、サメの胃内容物を調べていると、ごく稀に人間の一部が発見されることもあります。
しかし、サメが人を襲って食べたというより、事故や災害の被害者の遺体を食べたというケースが多いようです。
サメの消化スピードは遅いのか?
よくサメ映画などで、「サメの消化スピードは遅い」と言われることがあります。
これについて、恐らく海生哺乳類等よりは遅いでしょうが、消化スピードはサメの種にもよると思います。
例えば、400歳以上生きるとして有名になったニシオンデンザメは、時速2㎞の速さで泳ぎ、150歳近くになってようやく成熟するようなスローペースのサメで、代謝速度が非常に遅いです。そのため、胃の中の消化もかなりゆっくり進むはずです。
一方で、ホホジロザメなど体温を高く保っているサメたちは、哺乳類ほどではないものの代謝量が大きいため、恐らく他のサメよりも消化スピードが速いと思われます。
いずれにしても、サメに食べられた獲物は胃の中で泥のような状態になるまで消化され、腸まで運ばれます。
腸の中で栄養を吸収する
もはや原型をほとんどとどめていない状態まで消化された獲物は、腸の中で栄養を吸収されます。
サメの腸は3タイプ
サメは腸自体の長さは短いものの、内部は複雑な構造をしており、表面積が広くなっているのが特徴です。
さらに、その内部構造は大きく分けると3タイプ存在します。
- 葉巻型(シュモクザメ類など)
- 螺旋弁(ヒレトガリザメなど)
- リング型(エドアブラザメなど)
こうした腸の構造は、表面積を広げることで、短い腸でも多く栄養を吸収するためだと考えられます。
また、2021年に発表された論文によれば、螺旋弁が消化物の逆流を抑えつつゆっくりと腸内を通過させる働きがあることが示されています。
腸の中は寄生虫の宝庫?
もしサメに食べられてしまった場合、この腸の壁を通して栄養を吸収されてウ○チになるわけです。
一つ朗報をお伝えすると、腸内で新しいお友達に会えるかもしれません。
それが寄生虫です。
サメの腸の中には、サナダムシなどの寄生虫が大量に暮らしています。
もちろん、寄生虫は腸だけではなく、体の表面、口の中、胃の中など様々な場所で様々な種類が確認されていますが、どのサメ開いても腸に何かしら見かけるので、個人的には腸にいるイメージが強いです。
実際の写真がコチラです。
泥みたいなものが排泄物で、その中に見える小さく白いものが寄生虫(またはその体の一部)です。
寄生虫の体は頭や生殖器官が千切れていることもあるので、完全な体を保っている寄生虫かどうかは顕微鏡で確認する必要があります。
この寄生虫の面白い点として、「ホホジロザメだけ」や「メガマウスザメだけ」など、特定のサメにしか寄生できない寄生虫も存在します(このような特徴を宿主特異性と呼びます)。
現状あまり調べられていない寄生虫も多いはずなので、ただ単に発見するだけなら、新種のサメよりも新種の寄生虫の方が簡単かもしれません(そこから論文を書いて新種記載できるかどうかは別の話ですが・・・)。
体の外へ排泄する
飲み込まれ、溶かされ、吸収された獲物は、いよいよ排泄物となってサメの体を出ることになります。
サメの排泄は下痢気味?
先程の写真で分かった通り、サメ類の排泄物は固形ではなくベチョベチョとしており、人間に例えると下痢みたいな状態で排泄されます。
そして、先程紹介した腸内の寄生虫たちの卵はこの時に海へと放たれ、別の宿主に出会うための旅に出発します。
そんな排泄物や寄生虫の出口は、腹ビレの間にある総排出孔という穴です。サメ類は排泄、交尾、産卵または出産の全てをこの孔で行います。
もっとも脊椎動物全体で見れば、排尿、排便、交尾、出産という用途ごとに細かく穴が分かれている人間やその他ほとんどの哺乳類がむしろ少数派です。
腸洗い行動について
基本的な排泄の流れは以上になるのですが、もう少し面白い排泄方法になる時もあります。
それが、腸洗いです。
サメ類は時々、自分の腸を反転させて体の外に出し、溜まっている消化物などを外に放り出すことがあります。
実際の腸洗いの様子がこちらです。
アカシュモクザメの腹ビレの間から、ビラビラした物体が出ていることが分かります。これが彼らの腸です。
このように、排泄された獲物の残りカスは、海の藻屑となって海中を漂い、小さなプランクトンや小魚の栄養になるなどして、海洋生態系の中で循環するエネルギーの一部となっていくわけです。
あとがきにかえて注意喚起
以上が、「もしサメに喰われたらどうなるのか?」の解説でした。
最後に注意喚起をすると、人間がサメに襲われて食べられることは、世間で思われているよりも非常に稀です。
日常生活で危険なサメと出会うことはまずありませんし、出会ったからといって必ず襲われるわけでもありません。
世界中で確認されているサメの犠牲者数も他の危険生物に比べて少なく、ながらスマホによる事故や落雷による死亡者の方が多いくらいです。
今回はサメ類の体内構造の解説も兼ねてこのようなテーマを取り扱いましたが、実際に皆さんがサメに喰われる確率は非常に低いので、ご安心いただければ幸いです。
参考文献
- International Shark Attack『The ISAF 2022 shark attack report』(2023年9月21日閲覧)
- 警視庁『やめよう!運転中のスマートフォン・携帯電話等使用』(2023年9月21日閲覧)
- 田中彰 『深海ザメを追え』2014年
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