アカエイは卵ではなく赤ちゃんを産む?毒針を持つ危険魚の生態を解説!【アカエイ解説前編】

アカエイの特徴や繁殖方法について解説した記事サムネイル

あなたはエイという生物に対して、どういう印象を抱いているでしょうか?

サメは「凶暴」や「人喰いザメ」という偏見が根強いのに対し、同じ軟骨魚類の仲間であるエイにはサメ程怖いというイメージは持っていないかもしれません。

むしろ、裏面の”顔”が可愛いという理由で、水族館では隠れた人気者になっている気がします。最近も”電池切れするエイ”が可愛いとネットニュースになりました。

実際の映像がコチラ↓

しかし、実はこのアカエイはその辺のサメよりも注意すべき危険生物でもあります。

さらに言えば、その危険性が原因で釣り人に厄介者扱いされたり、漁業被害を起こすとして駆除の対象になってしまうこともあります。

そこで今回は、前半の記事でアカエイの特徴や主に繁殖に関する面白い生態を紹介し、後半の記事ではアカエイの危険性やその対応の是非について解説していきます。

目次

解説動画:アカエイは卵ではなく赤ちゃんを産む?毒針を持つ危険魚の生態を解説!【アカエイ前編】

このブログの内容は以下の動画でも解説しています!

※動画公開日は2023年10月28日です。

アカエイの特徴や分類

まずは、アカエイとはそもそもどんな動物なのかを紹介します。

アカエイの分類

アカエイはトビエイ目アカエイ科アカエイ属に分類されるエイの仲間です。

古い図鑑や文献では「アカエイ目」とされ、学名も今と違い「Dasyatis akajei」と表記されていますが、現在「アカエイ目」という分類は主流ではなく、エイ類は以下の4つの目に分けられています。

  • トビエイ目
  • ノコギリエイ目
  • シビレエイ目
  • ガンギエイ目

このうち、アカエイはマンタやナルトビエイなどと同じくトビエイ目というグループに含まれています。

また、属名が変わったことにより、アカエイは学名は現在「Hemitrygon akajei」と表記します。

アカエイの特徴

アカエイの特徴を一言で表すなら、世間でイメージされているエイそのものです。

言語化すると以下のような特徴を持ちます。

  • 身体は平べったくひし形に近い体型
  • 吻先の部分がやや尖り気味
  • 胸鰭の部分は丸みを帯びている
  • 体の中心には小さな棘が並んでいる
  • 体の後ろから伸びる細長い尾には鋭いトゲがある

これらに加えて、お腹側の縁や表側の眼や噴水孔のあたりが黄色かオレンジ色っぽいのがアカエイ特有の特徴です。

アカエイの特徴まとめ
アカエイの背中にある突起の拡大画像
裏面はお馴染みのこの表情。縁が黄色っぽくなっています。

水族館で裏面が可愛いと言われているのは、基本的にこのアカエイか、同じアカエイ科の仲間(ホシエイなど)です。

大きさはオスの体盤長が32cmほどで、メスは52cmほど。基本的にメスの方が大きいです。

また、アカエイは幼魚の頃は歯の形が似ていますが、成熟するとオスは尖った形状になっていき、メスは鱗が並んだような歯をしているという性的二形の特徴があります。

アカエイはどこに住んでいるの?

アカエイは、東アジアの沿岸域に幅広く分布する、僕たちにとって最も身近なエイです。

日本では北は北海道、南は沖縄、小笠原諸島でも見られ、他にも韓国、中国、台湾、東南アジア地域などで確認されています。数は少ないようですが、ロシアでも報告があります。

アカエイはそうした地域の水深の浅い場所でを住処とし、砂や泥の中に隠れてじっとしていることが多いです。

また、アカエイは河口付近や汽水域にも現れます。

オオメジロザメや淡水エイほどではないものの塩類濃度が低い場所への耐性は強く、地元民から「川」や「池」と認識されている場所でもアカエイに遭遇することがあります。

今年も熊本県や大分県の住宅地を流れる川でアカエイが撮影されていますし、2020年には島根県にある松江城のお堀を泳ぐアカエイが目撃されてニュースになりました。

ニュースでは非常に珍しい事態のように報じられることもありますが、そこまででもありません。

アカエイは何を食べているのか?

アカエイは浅瀬の砂泥底で暮らす甲殻類、硬骨魚類、多毛類(ゴカイの仲間)などを主に食べて暮らしています。

一部のメディアがエイの食害を報じる際に、アカエイとナルトビエイを一緒くたにして報道しているので「エイは貝類を主に食べる」というイメージが恐らくあると思います。

しかし、斐伊川や有明海で胃内容物を調査した結果などをもとに考えると、硬骨魚や甲殻類の方が主なエサにになっているようです。

実際に僕も岩手県産のアカエイを購入して胃内容物を調べたところ、胃の中も腸内も魚の肉、骨、鱗だらけでした。

定置網で漁獲されたという状況も関係あるかもしれませんが、世間で思われているよりも魚食性が強いようです。

アカエイの胃から出てきた魚の骨。

アカエイはミルクで子供を育てる?

ここからはアカエイの面白い繁殖について紹介していきます。

アカエイは胎生のエイ

2023年7月10月、眼遊 GANYUさんという方が、以下のような投稿をして話題になりました。

この投稿からも分かる通り、アカエイは卵ではなく赤ちゃんを産みます。

エイの仲間もサメと同様に、卵殻に包まれた状態で赤ちゃんを産み落とす卵生と、成魚のミニチュアになるまでお腹の中で育てて出産する胎生の2タイプがあり、アカエイは胎生のエイです。

アカエイは胎生の中でも「組織栄養タイプ」と呼ばれるもので、母胎内の赤ちゃんは卵黄だけでなく、子宮内で分泌されるミルクのような栄養液を吸収して成長します。

排卵は5月・胚休眠の後に急成長

長崎大学の山口敦子教授らによって有明海で行われた研究によれば、アカエイの交尾期間は10月~4月までの7カ月間で、排卵は5月頃に行われます。

つまり、オスとメスは早めに交尾しても、メスは貯めていたオスの精子を使って卵を受精させることができるようです。

なお、アカエイは交尾の時にオスがメスに噛みつくので、先程紹介したような雌雄における歯の形状の違いは、この交尾をしやすいように起こるものだとされています。

そして、受精してから妊娠期間約3カ月を経て、母親は体盤長が10~13cmほどの赤ちゃんを7~25尾ほど出産します。

ここで面白いのが、受精した後も1.5カ月くらいは胚休眠の状態に入って発育がストップし、残りの1.5カ月で急速に成長してエイの形になっていくことです。

胚休眠の理由はまだ分かっていないようですが、「母親が栄養を摂取しやすい時期に胎仔の成長期を合わせているのでは?」と個人的に推測しています。

今回は有明海のアカエイに関する研究だったので、他の地域ではどういうデータが得られるのか、今後の研究に期待ですね。

アカエイは卵胎生ではないのか?

ここまで読んで

あれ、アカエイは卵胎生って聞いたけど?

という人がいるかもしれないので、一応そこに触れておきます。

ウィキペディアや釣り系のメディア、一部の水族館における解説などで「アカエイは卵胎生」と紹介していることがあります。

卵胎生は、母胎内で卵が孵化して、赤ちゃんの状態で生まれてくることを指します。

アカエイも小さなエイの状態で産まれてくるので一見卵胎生に思えますが、卵胎生は母胎からの栄養提供を受けず最初の卵黄の栄養だけで成長するのが原則です。

先程紹介した通りアカエイは母胎から栄養液をもらって成長しているので、この卵胎生の原則から外れています。

そのため専門家の間でも、アカエイのような板鰓類は卵胎生ではなく胎生とするのが一般的です。

この胎生と卵胎生についてはもう少し複雑なところがあるものの、「アカエイは卵胎生」と紹介していた場合、ネット上の情報をテキトーにコピペしたか、古い文献を参考にしたままアップデートしていない可能性を疑った方が良いかもしれません。

アカエイの赤ちゃんはウンチを我慢する?

最後に、アカエイの赤ちゃんのウンチについて解説させてください。

より専門的な言葉で言えば、母胎内における胎仔の排泄システムに関する問題です。

アカエイの赤ちゃんは子宮内でミルクのような栄養液を吸収して成長しますが、そうして飲み食いをすると当然体の中にウンチが溜まります。

子宮内はある種の閉鎖空間なので、胎仔がそのままウンチをすると羊水が排泄物で汚染され、赤ちゃんは文字通り糞まみれになります。

このウンチ地獄をどのように回避するのかという問題は、子宮内で飲み食いするサメ・エイ類にとって重要なのですが、この仕組みがアカエイで解明されました。

沖縄美ら島財団が2020年に発表した論文によれば、アカエイの胎仔は体に対する腸の大きさが成魚の4~6倍もあり、さらに出口部分が出産間近になるまで閉じていて、その巨大な腸内に大量の糞便が溜まっていることが明らかになりました。

つまり、子宮内をウンチ地獄にしないための対策として、どうにかしてウンチを子宮外に出したり浄化するのではなく、絶対に出さないように体に溜め込むという方法を採用しているんです。

しかも、このウンチの溜まっている腸の後半部分には栄養を吸収する柔毛部分がほとんどなく、粘液を出して細菌感染を防ぐ細胞が密集していて、ウンチを溜め込んでも大丈夫な作りになっているようです。

たかがウンチ、されどウンチ。生命の神秘を感じます。

余談ですが、先の研究によればアカエイの赤ちゃんがミルクで成長するのはだいたい1ヶ月~1.5か月なので、それだけの期間溜め込んだ糞便を出すとなると快感と衝撃が凄そうです・・・。

後半記事

参考文献

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