この記事は以下の記事の続きになります。
サメについて調べていると、メガマウスの地震予知やメガロドン生存説をはじめ、根拠に乏しい都市伝説に出くわすことがありますが、実はウバザメが関係している都市伝説もあります。
それが、“ニューネッシー騒動”です。
今回は「ニューネッシーとは何か?本当にウバザメなのか?」という疑問に、僕なりに回答していきます!
ニューネッシー騒動の概要
1977年4月25日、ニュージーランドに近い太平洋上にて、日本のトロール船が巨大生物の死骸を引き上げました。
その生物は全長約10m、重さ約1800kgという超巨体で、とんでもない腐敗臭を放っており、首のような部分が1.5mもある奇妙な姿をしていました。
あまりにも大きい上に臭すぎたので廃棄してしまったそうなのですが、髭ような部分が回収され、その写真がメディアに報道されました。
そして、そのシルエットが首長竜に似ていることから、この生物の死骸はネス湖のネッシーにちなんで「ニューネッシー」と名付けられました。
ニューネッシーの正体はウバザメ
これがどうウバザメに関係してくるかといえば、このニューネッシーの正体が腐敗したウバザメだと判明したんです。
保存されたニューネッシーの一部を調べてみると、その骨が輻射軟骨であることがわかりました(サメやエイは軟骨魚類であり、硬骨動物(首長竜を含む)とは骨の主成分が根本的に異なります)。
ネッシーに見えてしまうシルエットも、ウバザメの顎などが腐敗で欠落したとすれば説明はつきます。
また、採集された標本のアミノ酸指数というものを調べると、サメ類のそれに非常に近いことが確認されました。
さらに、採取されたコラーゲンを使ってモルモットの免疫反応を調べた実験でも、ウバザメとニューネッシーのコラーゲンが同じものだと示す結果が得られています。
これらの証拠に加えて、「ニューネッシーの下半身に相当するような部分が長すぎる」や「よく見ると背鰭がある」などの特徴から、ニューネッシーと呼ばれた腐乱死体はウバザメ(少なくとも大型サメ類)の腐敗した姿だと結論づけられました。
オカルト界隈の反論について
上記の通り「ニューネッシーはウバザメでした」で終わったはずなんですが、都市伝説やオカルト界隈はしつこい上に難癖をつけるプロフェッショナルです。
40年以上たった今でも、未だに以下のような反論を並べてくることがあります。
- ウバザメは後ろ足を持たないが、ニューネッシーには後ろ足らしきものがあった
- 分析に使われたのはヒゲのような部分とされているが、ウバザメにヒゲはない
他にも色々言ってくることがありますが、その中でも特に指摘されることが多い上記2点を順番に処理していきます。
後ろ足は恐らく交尾器
ニューネッシーの後ろ足と思われるものは、ウバザメの腹ビレおよび交尾器だとすれば説明できます。
サメのオスはクラスパーと呼ばれる交尾器を持っており、ウバザメのクラスパーは大きいものでは1m近くになります。そして、クラスパーは四肢動物で言う後ろ足に当たる腹ビレから生えています。
しかも、クラスパーの中に骨が入っているので、腐敗することによって後ろ足っぽく見えた可能性は十分に考えられます。
ヒゲではなくフカヒレの繊維
ニューネッシーの”ヒゲ”と言われている部分は、フカヒレの一部だと思われます。
実際のフカヒレを見れば分かりますが、サメのヒレは皮を取り除くと繊維状になっています。
そもそもこの部位は「ヒゲ状」というだけでヒゲと断定されたわけではないので、「ウバザメにヒゲがあるかどうか」でケチをつけるのは無理があります。
「ではない」という否定ではなく「である」という証拠を出せ
そもそも、仮にニューネッシーがウバザメではないと判明したとしても、それだけで首長竜の生き残りや未確認巨大生物と断定できるわけではありません。
首長竜だと主張するなら、「ウバザメではない」という否定だけでなく、「首長竜である」という肯定的な証拠を揃えないといけません。
例えば、A君という男子が恋がれる少女Bさんについて、「BさんはC君が好きという噂はデマかもしれない」という情報をつかんだとします。
この時、いきなりA君が
BさんはC君が好きではない!つまり俺のことが好きだ!
と言ったらどうでしょう?「お前は何を言っているんだ?」となりますよね。
Bさんは隣のクラスのD君が好きかもしれないし、噂通りB君のことが好きかも本人に確かめないと分かりません。あるいは、Bさんが同性愛者である可能性もあります。
ウバザメ説否定派もこれと同じで、中途半端な根拠をもとに自分に都合のいいストーリーを作っているだけ。ハッキリ言ってイタイです。
オカルトや都市伝説の信奉者は「常識を疑え!」などのスローガンを掲げて難癖をつけて回りますが、肝心な自分の主張の根拠についてはほんとど用意していないか、お粗末すぎて信じるに値しない代物であることがほとんどです。
少なくとも、輻射軟骨が出てきた時点で首長竜説は完全に撃沈しています。
もちろん、死骸は海に捨てられてしまったので100%完全に明らかにすることは不可能ですが、このニューネッシーについては「ウバザメでした!以上終わり!」で済ませてしまって良いと思います。
参考文献
- ASIOS『UMA事件クロニクル』2018年
- 北村 雄一『ダイオウイカvs.マッコウクジラ ―図説・深海の怪物たち』2021年
- 田中彰『美しき捕食者 サメ図鑑』2016年
- 本城達也『南海の怪獣「ニューネッシー」』2020年(2022年7月15日閲覧)
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