邦題 | – |
原題 | Deep Fear |
公開年 | 2023年 |
監督 | マーカス・アダムス |
出演 | マダリーナ・ゲネア / エド・ウェストウィック / マカレナ・ゴメス |
制作国 | イギリス |
ランク | A級(普通に映画として楽しめる。自信をもって勧められる。) |
ストーリー | ★★★☆☆ |
演出や絵作り | ★★★★☆ |
サメの造形 | ★★★★★ |
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あらすじ
幼い頃に海難事故で父を失ったナオミは、ヨットでカリブ海を航海中に漂流している男女に遭遇する。
メキシコから逃げてきた難民だという二人は、沈んだ船の中に取り残された仲間を助けて欲しいと懇願。ナオミは男と海に潜って救出に向かう。
しかし、ダイビング中にホホジロザメに襲われてしまい、さらに助け出した男女の正体がコカインの密売人だと判明。
サメが潜む海に潜って船内のコカインを回収するよう脅迫されてしまうナオミ。彼女の異変に気付いた恋人ジャクソンは助けに向かおうとするが・・・。
これ以降の記載は映画の重要部分についてのネタバレを含みます。鑑賞前にネタバレを知ってしまったことに対する責任は一切負いかねますので、予めご了承ください。
見どころ・ツッコミどころ
麻薬とサメを上手に絡めたシリアス系サメ映画
麻薬の密売人と海中に潜むサメ、両方の脅威に立ち向かわないといけなくなってしまうというクライムアクション系サメ映画です。
麻薬が絡むZ級サメ映画『KANIZAME シャークラブ』や近い時期に公開された『コカイン・ベア』のせいで「コカインとサメ」という組み合わせからはギャグの香りが漂ってきますが、終始シリアスな作品となっています。
襲ってくるホホジロザメのCGが洗練されており、どこから襲ってくるのか?まだ近くにいるのか?と不安にさせるようなシーンや、沈没船という舞台を活かした水中アクションは見応えがあります。
個人的に好きなのは船室の扉を押し上げてサメが徐々に出てくるシーンです。「後少しでサメに襲われてしまう・・・」という緊迫感を背ビレ以外で表した斬新かつ良質な恐怖演出だと感じました。
作中のサメはあくまでコカイン回収を困難にする一種の舞台装置的な役割ではあるものの、「麻薬の密売人と沈んだ船」という要素を上手に絡めることで「陸にいる人間をどうサメに襲わせるか」というサメ映画のジレンマを綺麗に解消してサメの出番を多く作っていたと思います。
なお、サメがコカイン袋に噛みついて白い粉をまき散らすという、トンデモ描写中毒のサメ映画ファンが喜びそうなシーンはありますが、サメがガンギマリして暴れ回るような描写はありません。
真面目なサメ映画をたまには観たいという方には良作な反面、『コカイン・ベア』にあるようなコメディチックな展開を求めていた方にとって物足りない作品と言えるでしょう。
ストーリー中の人間ドラマの描かれ方が微妙
サメが登場する描写や本筋のストーリーは悪くないものの、物語の細かい流れやテーマ性の部分で引っかかることがありました。
まず本作は導入部分が長めで、その中で「海難事故で父を失った過去」と「恋人ジャクソンとの結婚への迷い」という、やや詰め込み過ぎな問題提起を行っています。
これらの問題を危機的状況の中でナオミが精神的に解決していくという人間ドラマが用意されているのですが、その解決に至るまでのステップがあまり明確に描かれていないため、ラストのハッピーエンドがやや唐突に思えます。
犯罪者と人喰いザメという危機の中で上記二つの命題を解決するなら、例えば「窮地に陥ったジャクソンを助ける過程で、父親が危険を顧みず母親を助けに向かった時の気持ちや、自分のジャクソンに対する深い愛情を自覚する」のようなプロットを用意して然るべきです。
しかし、ナオミは最初から最後まで強い海の女として自分の力でを乗り越えていますし、恋人ジャクソンは終盤まで遠く離れた陸地にいるので、エンディングまでのイベントとナオミの心情変化がマッチしていません。
また、「嵐の中で父を失ったナオミが嵐が近づく中で危機に陥る」という物語性の強い設定が当初用意されたのに、結局嵐による大きな影響はなくストーリーが進行してしまいます。
密売人たちがビジネスプランについて語り合う場面や、マリアが自分の狡猾さを暗に示すシーンが次につながらないままエンディングを迎えてしまったのも勿体ない気がします。
良質なCGのサメと本格的な映像で誤魔化せてはいるものの、人間ドラマは行き当たりばったりな印象を受けました。
サメに関する解説
サメの造形
サメ映画では稀に見る高クオリティのホホジロザメでした。
顔つきや体型などはかなり忠実に描かれており、噛みつく際に白目をむく、アゴを飛び出させるなど細かい部分も再現されていました。
サメの行動
本作最大の注目ポイントは「サメはコカインでハイになるのか?」という点でしょう。
作中ではサメがコカインの袋を噛み千切って白い粉が舞い散り、「サメが恐らくハイになっている」とナオミが発言していますが、実際にそうなっていると明確に示すシーンはありません。
これについては『Shark Week』というテレビ番組が特番で『Cocaine Sharks(コカインシャーク)』という番組が放送され、フロリダの海に捨てられた麻薬をサメが摂取しているのではないかという懸念が紹介されました。
しかし、番組内で放送された内容は「ダイビングで出会ったシュモクザメが斜めに体を傾けて泳いでいた」や、「麻薬の入った袋に見立てたものを海に落としたらサメが興味を示した」などの事例を並べてコカイン中毒の可能性を示唆するという、あまりにもお粗末な内容でした(ちなみにシュモクザメの泳ぎ方については、揚力を発生させて泳ぐエネルギーを節約する方法として論文が出ており、何もおかしい動きではありません)。
現時点で麻薬成分がサメにどのような影響をもたらすのかは不明であり、コカインでハイになったサメがいるという証拠はないと言っていいと思います。
※サメと違法薬物の関係についてはコチラの記事もご参照ください。
その他サメの解説
ナオミと甥っ子がダイビングする冒頭のシーンで登場したサメはツマグロです。各ヒレの先が黒いことが特徴で、日本の水族館でも良く展示されています。
悪くない再現でしたが、ツマグロにしてはやや頭が大き過ぎたように思えます。
また、ツマグロの成熟サイズが1m前後であることを考えると、本作に登場したツマグロは巨大サイズですね。
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