原点にして頂点です。サメ映画の金字塔!これを観ずしてサメ映画は語れません。
普通に映画としておススメできるクオリティであり、サメ映画に関係なく観て欲しい一作です。
邦題 | ジョーズ |
原題 | Jaws |
公開年 | 1975年 |
監督 | スティーブン・スピルバーグ |
出演 | ロイ・シャイダー/ロバート・ショウ/リチャード・ドレイファス |
制作国 | アメリカ |
ランク | A級(普通に映画として楽しめる・自信をもって勧められる) |
ストーリー | ★★★★★ |
演出や絵作り | ★★★★★ |
サメの造形 | ★★★☆☆ |
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あらすじ
アメリカ東海岸近くに位置するアミティ島のビーチに、切り裂かれた女性の腕が打ち上がる。
警察署長マーティン・ブロディはサメの仕業であるという判断からビーチの閉鎖や遊泳禁止を訴えるが、夏は島にとっての稼ぎ時。市長を含む町の人々から反発を受ける。
しかし、再びサメが現れ、第二、第三の犠牲者が出てしまう。
ブロディは海洋生物学者マット・フーパーと、荒くれ者の漁師クイントと共に、巨大なホホジロザメに戦いを挑む・・・・。
これ以降の記載は映画の重要部分についてのネタバレを含みます。鑑賞前にネタバレを知ってしまったことに対する責任は一切負いかねますので、予めご了承ください。
見どころ・ツッコミどころ
後にテンプレ化されたストーリー
映画『ジョーズ』の流れを大まかに表すと、以下の通りになります。
裸で泳いでいたクリシーがサメに襲われて腕が浜辺に打ち上ります。
警察署長マーティン・ブロディが海岸閉鎖・遊泳禁止をすべきと言いますが、市長や街のお偉いさん達が経済的損失を防ぐために止めてしまいます。
開かれた海にサメが現れ、罪もない海水浴客が襲われパニックになります。
マーティンはマット・フーパ―、クイントと共にサメ退治に出発し、ラストの一騎打ちではダイビング用のエアタンクを爆発させることでサメを吹き飛ばします。
『ジョーズ』が大ヒットしたことで後に数々のサメ映画、さらにそれに便乗したモンスターパニック映画が製作されるのですが、その多くがこの流れを踏襲して(パクって)います。
また、初めてサメと対峙したマーティンがつぶやく「You’re gonna need a bigger boat(この船が小さすぎる)」や、ラストでサメと一騎打ちするマーティンの決め台詞「Smile you, son of a bitch!(笑え、クソ野郎!)」は、後のサメ映画で数えきれないほどオマージュされました。
『ジョーズ』が大ヒットしたことでサメ映画や他のモンスターパニック映画が量産されたという時代の流れに加え、後に作られる作品のテンプレとして用いられたという点でも、本作無しにサメ映画を語ることはできません。
演出や音楽が神がかっている
映画として『ジョーズ』の何が素晴らしいかと言えば、カメラワークや音楽を駆使して各シーンの世界観を作りこんでいることです。
例えば第一の犠牲者クリシーや第二の犠牲者アレックスが襲われるシーンでは、サメの視点で徐々に獲物に迫っていく様子が描かれ、静かではあるけど徐々に激しさを増す不穏な音楽が流れます。
また、イタチザメを退治したことでサメの脅威が過ぎ去ったと思い込んでいる街の様子は、活気あるパレードのような音楽が流れる中数多くの人が訪れるシーンで表されています。
さらに、オルカ号でサメと戦うシーンでは、船がサメを追いかける時はアドベンチャー映画のような明るい音楽が流れ、サメが後ろから追いかけてくるシーンでは低く重い曲に切り替わります。
後から述べる通り『ジョーズ』はサメが映る場面が意外と少なく、全くセリフがない中でサメが檻を壊すシーンもあるのですが、優れた演出のおかげでそうした場面も楽しむことができます。
実はあまりサメが出てこない
「サメと言えばジョーズ」というくらい『ジョーズ』が代表的なサメ映画ですが、実は映画の半分以上はサメの顔や全体像が出てきません。
マーティンがサメ図鑑を読むシーンや犯人と間違われて捕まったイタチザメが吊るされるシーンなど、サメが映るシーンはそれまでもあるものの、真の敵役であるホホジロザメの姿が見えるのは開始から1時間ほど経ってからです。
しかし、だからこそサメが登場した時のインパクトが凄まじく、後半の闘いが色濃く仕上がっているのだと思います。
サメの直接表現が少ないからこそ、サメと初めて対面したマーティンの「We gonna need a bigger boat(この船じゃ小さす過ぎる)」が名台詞として輝きました。
クイントが噛みちぎられるシーンも、もし最初の襲撃からサメがずっと出ていれば、あそこまで恐ろしさや痛々しさが際立つ場面にはなっていなかったでしょう。
なお、サメが映らないといっても、サメ視点で徐々に人に迫ってきたり、サメと繋がった桟橋の残骸が追いかけてきたり、死体の近くで大きな歯が見つかるなど、「映像に映っていないけど確実に奴がいる!」というシーンが散りばめられているので、前半も飽きずに楽しむことができます。
その他見どころや豆知識
- ブロディ家にいたコッカー・スパニエルはスピルバーグ監督の愛犬だそうです。
- マーティンが検死の結果を聞きながらタイプライターで「SHARK ATTACK」と打ち込むシーンが何気にカッコいい。
- 最初に「サメの襲撃」と死因を報告したのに、町のお偉いさん達の圧力で「ボート事故だ」って死因を訂正されるシーンが、冷静に考えると闇深すぎる・・。
- ビーチを閉鎖するかどうかで揉めている街の人たちを黙らせて語り始めるクイントがカッコいい。
- 作中でニセの背ビレを使って海水浴客をパニックに陥れた子供のうち、子役の一人は映画のロケ地であるマーサズヴィンヤード島の町で市長に就任しています。
- 撒き餌をしているマーティンの前にサメが顔を出すシーン、一気にシリアスな展開に切り替える役割がある名場面ですが、ちょっとサメの顔が可愛い。
- インディアナポリス号沈没のことを話すクイントのシーンが、回想シーンもなく淡々と語るだけなのにシリアスでカッコいい。
- 船の上で三人が歌った「Show me the way to go home♪」の歌について、マット・フーパ―役のリチャード・ドレイファスが『ピラニア3D』に出演した際も同じ曲を歌っています。
- 檻の周りを本物のサメが泳ぐシーンでは、サメを大きく見せるために障害で身体が小さい方がフーパ―役として檻に入っていました。
- クイントを食べた後のサメの口の周りには、クイントの成れの果てを思わせる肉片みたいなものがついています。この凝った演出が結構好きです。
- 実際にはダイビング用の空気タンクを打ち抜いても大爆発はしません。そんなものを背負って海に潜りたくありません。
サメに関する解説
サメの造形
本作のサメはアニマトロ二クスと呼ばれるロボットで作られ、ブルースと名付けられています(スピルバーグ監督の弁護士に由来)。
顎を動かすためなのか妙に頬が膨れた独特の形状をしており、体に対して歯がデカすぎるなどのツッコミどころはありますが、当時としては最先端のサメでした。
実際、可愛げがあるけど不気味にも見えるまん丸の目、三角形の歯、尾鰭の下葉が長いなど、ホホジロザメの特徴をよくとらえたロボットに仕上がっています。
ちなみに、このロボットが頻繁に故障したことがサメの直接描写が減った原因だそうなので、そう考えると怪我の功名というか、さすがスピルバーグ監督といった感じです。
なお、間違った犯人として釣りあげられるイタチザメの死体は本物が使用されており、檻の周りを泳ぐサメやフーパ―が逃げた後に檻を壊すサメは実際に野生のホホジロザメを撮影しています。
サメの行動
『ジョーズ』は「凶暴で血に飢えた人喰いザメ」という偏見を世界中に植え付けたとして悪名高いですが、昨今のサメ映画に比べるとリアルに感じる部分がいくつかあります。
例えば、犠牲者の数と襲撃の頻度です。
『ジョーズ』のサメはとにかく人を食いまくっているイメージがありますが、実は時系列を確認すると各襲撃の間には1日以上の時間が空いています。
映画の冒頭に食べられています。
クリシー死亡から数日は経過しているであろう日の海水浴場にて死亡(直接的な描写はないですが、喰われたとみていいでしょう)。
ティペットのすぐ後に食べられていますが、犬と子供なのでトータルのカロリー数は一人分と考えていいと思います。
壊れかけのボート内で死んでいた漁師。アレックス死亡後に懸賞金騒ぎが起きてしばらくしてから犠牲になったと思われます。前回の襲撃より少なくとも一晩以上は経過しているはずです。
ガードナーの死体発見の翌日に市長が「今週末に海を開く!」と言っているので、ガードナーを襲ってから1~2日以上は経過していると思われます。
海水浴での襲撃から何日経っていたか不明確ですが、船上で一夜を明かしている場面から、最短でも1日は空いているはずです。
こうして見ると、サメの食事ペースは1日1人以下。1日に何人も犠牲になる『ジョーズ2』や『ロスト・バケーション』に比べるとだいぶ控えめです。
実際のホホジロザメをバイオロギングを使って調べた渡辺佑基さんの推定によれば、ホホジロザメはオットセイを30日に1回(幼獣なら10日に1回)程食べる必要があるそうですが、逆に言いえばその程度の食事頻度でも生きていけるようです。
数日間間隔でオットセイよりもカロリーの少ない人間を食べている『ジョーズ』のサメは、他作品に比べるとだいぶ現実に近い食事頻度だと言えます。
他にも、イタチザメの胃の中からゴミが見つかる、オルカ号の近くで水面から少し顔を出して泳ぐ姿はスパイホップを連想させるなど、実際のサメの生態や行動がよく描かれていると感じる場面は多いです。
人間ばかり狙い船を執拗に追い回すサメという設定自体は現実離れしていますが、それ以外の部分を現実に寄せようとした努力は垣間見える作品だと思います。
その他サメの解説や気になるところ
- クイントは家でサメの顎標本をつくる際に顎を茹でていましたが、サメの顎は軟骨です。あんなことをしたらグニャグニャになるか歯以外が全部溶けてしまいます。ちゃんと手作業で除肉しましょう。
- サメのサイズについてクイントは「25フィート(約7.6m)」と述べていますが、信頼できるホホジロザメの最大記録は6.4mほどなのでデカすぎますね。
- 作中ではサメのことを「he」、つまり男と呼んでいますが、ホホジロザメはメスの方が大きいため、仮に7.6mあるとしたら間違いなくメスでしょう。ただし、檻を壊すシーンで映る本物のホホジロザメはオスでした(よく見るとクラスパーが映っています)。
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参考文献
- AARP『20 Things You Didn’t Know About ‘Jaws’』2020年
- 映画ナタリー『「ジョーズ」子役が“アミティ島”ことロケ地の警察署長に就任』2022年(2022年7月25日閲覧 現在はリンク切れ)
- 知的風ハット『サメ映画大全』2021年
- 渡辺佑基『進化の法則は北極のサメが知っていた』2019年
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