『キラー・シャーク 殺人鮫』のネタバレあり感想&サメ解説【BGサメ映画レビュー】

マッドサイエンティストによって生み出されたシュモクザメ人間が殺戮を繰り広げます。サメよりも狂人の方が怖いと分かる作品かもしれません。

邦題キラー・シャーク 殺人鮫
原題SharkMan
公開年2005年
監督マイケル・オブロウィッツ
出演ウィリアム・フォーサイス/ジェフリー・コムズ/アーサー・ロバーツ
制作国アメリカ
ランクB級(トンデモ設定や雑なCGなどのツッコミどころを楽しむ作品)
ストーリー★★☆☆☆
演出や絵作り★★☆☆☆
サメの造形★★☆☆☆

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目次

あらすじ

大手製薬会社に勤める生物学者アメリアとIT部門社員トムは、変わり者として知られるキング博士から幹細胞研究に関する重要なデータを受け取る。

医学の常識を覆す大発見の可能性を感じた彼らは、西太平洋に浮かぶ孤島まで博士を訪れる。

しかし、博士が一行に披露したのは、シュモクザメの幹細胞を移植されてサメ人間と化した博士の息子ポールだった。

キング博士は息子を使って自分を見捨てた会社への復讐を果たし、かつてポールの婚約者だったアメリアを彼の繁殖相手として迎え入れようとしていた・・・。

これ以降の記載は映画の重要部分についてのネタバレを含みます。鑑賞前にネタバレを知ってしまったことに対する責任は一切負いかねますので、予めご了承ください。

見どころ・ツッコミどころ

インパクト不足のシャークマン

「陸に進出するサメ」というアイディアは当時としては割と斬新でしたが、その斬新さを十分に活かしきれなかったように感じます。

というのも、「シュモクザメと融合したサメ人間」という色々な意味でインパクトのある敵を作っておきながら、その出番が非常に控えめです。

ストーリーのほとんどはキング博士の追っ手から逃げながら脱出を試みる場面で占められており、シャークマンはその中でおこぼれ的に人間を喰い殺したり実験に使われるだけの存在と化しています。

出番が控えめでも各襲撃シーンが良質なら問題ないのですが、口、目、顔、ヒレなどのクローズアップや細かいカットが多いため、視覚的にシャークマンの恐ろしさやグロテスクさを感じられる場面が少ないです。

恐らく頭やヒレ以外のセットをほとんど作っておらず、かといってCGにお金や手間をかけたくなかったため、上記のようなシーンで誤魔化そうとしたのでしょう(それでも誤魔化しきれないほどチープな映像でしたが)。

また、キング博士の狂気に満ちた人物描写はなかなか良かったのですが、実験の全容が前半でほとんど明らかにされるため、その衝撃が薄まってしまったように思えます。

サメよりも良質なアクションシーンのおかげでそれなりのB級映画として成立していますが、人物描写やストーリー運びに雑な部分も多く、総合評価はイマイチと言わざるを得ません。

何故か有能すぎるトム

本作でシャークマン以上の見どころかもしれないのが、アメリアの恋人として登場するトムです。

イケメンでもムキムキでもないメタボ気味の中年男性なのですが、各シーンで卓越したアクションやリーダーシップを見せつけてくれます。

序盤から慣れた手つきでマシンガンを使いこなして退路を作り、傭兵相手でも格闘や銃撃で圧倒します。

その姿はアクション映画にありがちな”元〇〇の特殊部隊隊員”のようですが、彼は普通の会社員です。

その後も簡易的なトラップで追っ手を返り討ちにするなどの活躍を見せたのち、お手製の武器でシャークマンをあっけなく倒してしまいます。

本作のキング博士は新人類を生み出すことに躍起になっていましたが、トムこそが進化した人類の姿なのかもしれません。

その他見どころや豆知識

  • 一行を部屋に閉じ込めるシーン、警備員の一人がドアを早く閉めすぎるせいでもう一人が室内にマシンガンを落とす場面が間抜けすぎる。
  • バーニーがシャークマンに噛まれて死にかけていた時は必死に助けようとしていた恋人が、彼の死を聞かされたときは平然としています。そこはもっと取り乱せよ。
  • シュモクザメの目が離れていることに美を感じるキング博士。フェチなサメマニアっぽくて好きです。
  • 手足を縛った状態のアメリアをそのままシャークマンの水槽に入れて交尾させようとするキング博士。一体どんな体勢で交尾させるつもりだったのか・・。

サメに関する解説

サメの造形

「シュモクザメの細胞を取り込んだサメ人間」という設定の時点で、もはやサメではありません。

強いてツッコミを入れるなら、シュモクザメという設定にしては頭が普通のサメのように見えました。

どうせなら『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズに登場するデイヴィ・ジョーンズの部下のように、頭が左右に張り出したシュモク感の強いビジュアルにして欲しかったです。

サメの行動

作中でキング博士は「サメは癌にならない。だから癌に免疫を持つサメの細胞を使った」と説明していますが、サメが癌にならないというのは迷信です。

サメは癌にも他の病気にもなります。

「サメが癌にならない」という情報の正確な起源は不明ですが、恐らく「サメ軟骨が癌に効く」という現在は否定されている話に尾鰭がついた結果だと思われます。

確かに過去の研究でサメ軟骨の抗がん作用が示されましたが、その後行われた様々な実験によりその効果は否定されています。

未だにニセ科学・スピリチュアル界隈などがサメ軟骨の怪しい効能を謳うこともありますが、騙されないようお気を付けください。

その他サメに関する解説

作中のキング博士は「卵生のサメを使った方が実験が簡単だったのでは?」という指摘に対し、「シュモクザメはサメの進化における頂点である。胎盤から栄養を得るのだ。ただ泳ぐだけで思考力のないホホジロザメとは違う」という旨の熱弁を展開しています。

ホホジロザメへの風評被害がすごいことはさておき、シュモクザメが比較的新しい系統のサメであること(進化の頂点というわけではない)、胎盤を使って赤ちゃんを育てることは事実です。

子宮から出てきたシュモクザメの胎仔たち。お腹のあたりから臍の緒が伸びているのが分かります。

ただし、キング博士はこれらの根拠をもとに「人間との融合が可能だ」などと述べていますが、サメの胎盤と哺乳類の胎盤は根本的な起源が異なります。

シュモクザメを含むメジロザメ類の胎盤は、外卵黄嚢という栄養の入った袋が変形して臍の緒と胎盤を形成します。

一方僕たち哺乳類(より厳密に言えば有胎盤類)は、老廃物を溜め込む尿膜嚢を子宮の壁に食い込ませて胎盤を作ります。

「胎盤を作る」というワードだけでサメと人間は近い動物と勘違いする人がいますが、これを読んでいるあなたは、キング博士のような過ちを犯さないようにしましょう。

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参考文献&関連書籍

  • Scientific American『Sharks Do Get Cancer: Tumor Found in Great White』2013年
  • 左巻健男『暮らしのなかのニセ科学』2017年
  • 特定非営利活動法人日本緩和医療学会『がん補完代替医療ガイドライン第1版』2009年
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