「ツマグロ」という名前を聞いて「マグロの仲間?」と一瞬でも思った人は、必ずこの記事を最後まで読んでいただきたいです(そうではない人にも読んでほしいですが)。
今回はタイトルの通り、ツマグロというサメを解説します。
一応先にお伝えすると、マグロの仲間ではありません・・・。
「そんなサメ聞いたことない」という方も、恐らく水族館ですでに見ていたり、今後出会う機会はあると思います。
また、「当然知ってる!」というサメ好きの方も、詳しくツマグロについて教えて欲しいと言われると困ってしまうのではないでしょうか?
今回はどちらの方も楽しめるように、可愛いツマグロの生態や魅力を解説します!
解説動画:水族館で一番見かけるサメ?ツマグロの意外に知らない生態や魅力を解説!【メジロザメ】
このブログの内容は以下の動画でも解説しています!
ツマグロはどんなサメ?
まずは基本的なツマグロの情報を見ていきましょう。
ツマグロはメジロザメ目メジロザメ科メジロザメ属に分類されるサメです。
世界には500を超える多種多様なサメがいますが、ツマグロは世間一般でイメージされる”典型的なサメ型”とでも言うべきシルエットをしています。
ただし、世間一般のサメのイメージと異なり、積極的に食べる目的で人を襲うサメではありません。
大きさも最大で全長2m前後で、だいたいが1m~1.5m程度。人をエサとして襲うには小ぶりすぎますね。
チャームポイントはヒレ先
そんなツマグロの一番の特徴は、各鰭の先が黒いか、黒く縁取られていることです。
ツマは漢字では「褄」と書き、衣服などの端を意味する言葉です。サメの体の端である鰭先が黒いから「ツマグロ」という名前が名付けられました(しつこいようですが、マグロではありません)。
ツマグロが分類されるメジロザメの仲間は似ているものが多いのですが、ツマグロはこのカラーリングが特徴的なので楽に見分けることができます。
他のサメとの見分け方
念のためお伝えすると、胸鰭の先が黒っぽいサメや尾鰭の端が黒く縁どられているサメは他にもいます(オグロメジロザメ、カマストガリザメなど)。
ただし、ツマグロのように第一背鰭の先がはっきりと黒いサメは珍しく、ツマグロは体は灰褐色に白い帯が入った独特の模様なので、他のサメとは簡単に区別できます。
なお、ツマグロは英語名も模様に由来して「Blacktip reef shark」と言います。
ただし、カマストガリザメという全く別のサメの英語名が「Blacktip shark」なので少、英語文献を調べる際などは気を付けてください。
お洒落な模様はカモフラージュ?
ツマグロは特徴的な模様を持つサメですが、一体この模様にはどんな意味があるのでしょうか?
「お洒落で可愛い!」というのは確かですが、ちゃんと自然界においても意味があるとされています。
実はこの模様には「自分の輪郭をぼかして敵や獲物に見つかりにくくするため」というカモフラージュ効果があります。
一見目立つように思える模様ですが、淡い模様の中に白い帯や小さな黒点があることで、水中では全体像が分かりにくくなります。これにより獲物や天敵から身を隠す効果があるとされています。
動物園では目立ってしまうトラの模様も、藪に入ると恐ろしいくらい溶け込んでしまいますが、それに似ていますね。
水族館でお馴染みのサメ
ツマグロはドチザメやネコザメなどに次ぎ、恐らく日本の水族館で一番目にするサメです。
この理由としては、まず飼育の難易度が挙げられます。
ツマグロは常に泳ぎ回る”いかにもサメ!”という見た目の種では、恐らく最も飼育環境に慣れやすいサメです(ドチザメも典型的なサメ型ですが底の方で大人しくしていることも多く、顔もシャープさに欠けます・・・)。
ツマグロの主な生息域はサンゴ礁やその周辺の比較的水深が浅い場所です。人が歩けるような波打ち際に入ってくることもあります。
サンゴ礁や浅瀬は外洋に比べると環境変化が多く、地形や他の生物の存在を気にする必要があります(川の水が流れ込んできたりして水質変化が起きやすいですし、魚にとっては「水深が浅い」は「狭い」ことになります)。
そんなところに住んでいるためか、ツマグロは割と水質の変化などに強く、外洋性のサメと比べれば狭い場所にも適応しやすいので、人口飼育下でも割と安定して育ってくれます。
また、ツマグロのサイズも理由の一つだと思います。サメの中ではやや小さめなため、水量何百トンの大水槽を用意しなくても飼育することが可能です。
実際、水族館だけでなくレストランや個人宅でもツマグロを飼育している人がいます。
ただし、よく飼育されるネコザメやイヌザメと比べるとかなり泳ぎ回りますし、小さいと言えど2m近くに成長します。また、食べる目的で人を襲わないとしても、魚やイカを切り裂く鋭い歯を持っているので噛まれると大怪我します。
サメに限った話ではないですが、もし飼育する際は水槽の大きさや安全管理などを整えてから飼うようにしましょう。
ツマグロは日本にもいるのか?
水族館でよく見ることができるツマグロですが、野生ではどこにいるのでしょうか?
ツマグロはインド太平洋海域の熱帯や亜熱帯の暖かい海に生息しています。地名で言えば東南アジアやオーストラリア北部、ハワイ諸島などの広範囲に分布しています。
では、日本にツマグロはいるのでしょうか?
多くのサメ図鑑では「いないと言われていると」や「分布すると言われているが確認されてはいない」など微妙な感じで書かれていることが多いです。実際、野生のツマグロを見るとなると海外の、タヒチやモルディブなどの海外リゾートに潜りに行くイメージが強いです。
しかし、2017年になり西表島でツマグロが確認されました。
もともと現地の方や一部のマニアの間では生息しているという話が出ており、以前から漁獲もされていたようですが、標本に基づいて学術的に記録されたのはこの事例が初めてです(この研究は板鰓類研究会の会報第53号に記されています)。
今後皆さんがツマグロの紹介をする際は「日本にも生息している」と自信をもって発信して問題ありません。
胎盤を作って子供を産む?
ツマグロは多くのメジロザメの仲間と同じように胎生です。つまり、卵を産み落とすのではなく母親が直接仔ザメを産みます。
以前にツマグロの赤ちゃんを観察する機会がありました。
胸鰭の間をよく見ると、小さな穴があります。
これは人間で言えば「へそ」に当たるものです。
サメが胎盤を作る際は外卵黄嚢という栄養が入った袋が変形して臍の緒になるのですが、これは外卵黄嚢の痕です。産まれて間もないサメの赤ちゃんだとこれが残っていることがあります。
ツマグロが出てくる小説
ツマグロは水族館で見ることが多く僕も大好きなサメの一種ですが、「ホホジロザメ」や「ハンマーヘッドシャーク」のようにメジャーかと言われれば微妙です。
しかし、そんなツマグロが登場する小説があります。
『自由なサメと人間たちの夢』という短編集の後半2つのエピソードに、ツマグロが登場します。キャバ嬢がツマグロを飼おうとするという何とも斬新な物語です。
もし興味がある方は是非読んでみて下さい。
参考文献
- David A. Ebert, Marc Dando, and Sarah Fowler 『Sharks of the World a Complete Guide』2021年
- 田中彰 『美しき捕食者 サメ図鑑』2016年
- 仲谷一宏 『サメ ー海の王者たちー 改訂版』2016年
- 日本板鰓類研究会 『板鰓類研究会報 第53号』2017年(2022年3月23日閲覧)
※本記事は2022年3月までにWebサイト『The World of Sharks』に掲載された記事を加筆修正したものです。
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