サメの解説を生業にしていると、人を襲うようなデカいサメや実際に人が襲われた事件が注目を集めやすいというのを痛感します。
集客という面ではそうしたサメの側面ばかり紹介するのが正しいのだと思いますが、今回はあえて「凶暴な人食いザメ」のイメージに反した、可愛いサメを取り上げたいと思います。
そのサメというのがネコザメです。
今回は、可愛いサメの代表ともいうべきネコザメの仲間や生態を初心者にも分かるように紹介していきますので、よろしくお願い致します!
解説動画:ネコザメは飼育できるのか?サザエを割るって本当?卵がドリル?意外と知らない生態を解説!!【Bullhead shark】
このブログの内容は以下の動画でも解説しています!
※動画公開日は2021年10月17日です。
ネコザメはそもそもサメなのか?
そもそもネコザメがサメだという認識を持てていない人もいるかもしれません。
確かにネコザメは、世間一般でイメージされるサメとは色々と違った部分があります。
だいたい世間一般でイメージされるサメは以下のような姿だと思います。
- 流線型で吻先が尖っている
- 大きな三角形の背ビレ
- 鋭く尖った歯
- 素早く泳ぎ回り、泳ぎ続けないと死んでしまう
一方のネコザメは、様々な点においてサメのイメージを裏切っています。
- 頭が丸っこくて豚鼻
- 丸みを帯びてトゲのある背ビレ
- 尖っていない変な形の歯
- 水槽の底でベタっとしていることが多い
こんな見た目だとサメであることを疑いたくなりますが、そもそも世間一般で「いかにもサメ」という姿のサメは少数派です。
実際には深海に棲むサメや、海底の方で大人しくしているサメたちを足した数の方が、ホホジロザメやオオメジロザメのようなサメの種数より遥かに多いです。
そして、サメ類に共通した特徴としては以下の3つが挙げられます。
- 体の側面に5つの鰓孔がある
- 皮歯と呼ばれる歯のような鱗(いわゆる鮫肌)で覆われている
- 尾鰭が垂直で異尾(上下で違う形・長さ)
ネコザメはこれらを全て満たしているので、ちゃんとしたサメの仲間です。
それどころか、現生のネコザメに近い祖先が誕生したのは中世代と言われているので、進化の歴史で言えばネコザメはホホジロザメよりも古いタイプのサメと言えます。
世界に生息するネコザメの仲間たち
ネコザメは一種類だけではなく、複数の仲間がいます。
日本で一番有名なのは褐色の体に焦げ茶色の帯模様が入ったネコザメだと思います。
日本では最もポピュラーなネコザメで、「Heterodontus japonicus」という学名がつけられています。
ネコザメと言えばこの標準和名ネコザメが一番有名だと思いますが、日本にはもう一種シマネコザメ(Heterodontus zebra)というネコザメもいます。
名前の通り縞模様の入ったネコザメで、普通のネコザメに負けないくらいの可愛さがあります。
この他にも、シンプルな斑点模様のカリフォルニアネコザメ 、キング・オブ・ポップみたいな名前のポートジャクソンネコザメ、頭の出っ張りが目立つオデコネコザメなど、現在9種類が世界で確認されています。
【ネコザメ全種一覧はコチラ】
- カリフォルニアネコザメ(Heterodontus francisci)
- オデコネコザメ(Heterodontus galeatus)
- ネコザメ(Heterodontus japonicus)
- メキシコネコザメ(Heterodontus mexicanus)
- Oman bullhead shark(Heterodontus omanensis)
- ポートジャクソンネコザメ(Heterodontus portusjacksoni)
- ガラパゴスネコザメ(Heterodontus quoyi)
- Whitespotted bullhead shark(Heterodontus ramalheira)
- シマネコザメ(Heterodontus zebra)
なお、ネコザメは一目一科一属です。つまり、ネコザメ目という大きなグループの中で○○科とか○○属のような細かい区分けがありません。
しかも、ほとんど模様だけで簡単に見分けることが可能です。
もちろん背ビレの位置や歯の形状などの違いは各種ありますし、学術的な記録を残す場面では新種の可能性も考慮に入れてきちんと同定すべきですが、一般のサメ好きが名前を覚えて楽しむ分には、模様だけで十分だと思います。
ネコザメの成魚は不細工?
ネコザメは可愛いサメの代名詞として一部から愛されていますが、大抵可愛いと言われているのは成熟する前の個体です。
生まれて間もないネコザメ類の赤ちゃんは大体15cmほど。顔つきがあどけなくて、体の模様も淡い感じになっており、赤ちゃん特有の愛らしさを感じます。
また、体に対して背鰭の高さが高く、このアンバランスさもチャームポイントです。
しかし、ネコザメの仲間は成長するとどんどんゴツくなっていきます。
1m近くなると頭がやけにデカい、岩石のお化けみたいな見た目になります。
これでも可愛いと思う人はいますし、僕もネコザメは好きなんですが、正直厳ついです・・・。
なお、ネコザメは数多くの水族館で展示されていて、あまり泳ぎ回らないので一般家庭で飼育することも可能ですが、それでも最大で1mは超えますし、幼魚の頃とはだいぶ見た目の印象が変わります。
ネコザメを飼育するという人は、ここまで覚悟した上で設備を整えて飼い始めてください。
ネコザメの歯はサザエを砕き割る?
ネコザメの歯は非常に面白い形をしていて、口の先の方に尖った小さい歯、口の奥の方になると石畳みのような平らで大きい歯がそれぞれ並んでいます。
このような歯でネコザメが何を食べているのかと言えば、貝類、甲殻類、ウニの仲間など、底生性で硬い殻を持つ頑丈そうな動物たちです。人間目線で言えばそれなりの高級料理になりそうですね。
ネコザメはまず前側の小さな歯で獲物を捕まえて口の奥に運び、後ろの平たい歯で硬い殻を噛み砕いて中身を食べて、砕いた殻は鰓孔から捨てます。
このような食生活をしているので、ネコザメは別名サザエワリと呼ばれます。
ちなみに、ネコザメの仲間は属名が全て「Heterodontus」ですが、これは異なる歯という意味があります。
異性愛者のことをヘテロセクシャル、同性愛者のことをホモセクシャルと呼びますが、あのヘテロに歯を意味するドンがくっついています。
前側と後ろ側で異なる形状の歯を持っているネコザメならではの、面白い学名ですね。
ドリル型の卵を産む?
サメの中には胎生(母胎内でサメの形になるまで成長してから生まれてくる)と卵生(卵の殻に包まれた状態で外の世界に産み落とされる)の2タイプがいますが、ネコザメは卵生のサメです。
そして、ネコザメは非常に面白い形状の卵を産みます。
初めてこれを見て卵だと思う人はまずいないと思いますが、これがネコザメの卵です。ドリル状のメカブを思わせるすごい見た目をしています。
なお、鶏の卵の殻は炭酸カルシウムが主成分であるのに対し、サメの卵はケラチン(僕たちの爪や髪と同じ)でできています。弾力性があるプラスチックのような感触で、触っても卵だとは分かりづらいです。
よく「変な形」とか「産む時痛そう」と言われるネコザメの卵ですが、この形にはちゃんと意味があります。
ネコザメは卵を産むと、この卵を岩の隙間に押し込みます。
産まれたての卵は柔らかいですが時間が経つと硬くなり、岩に挟まった卵はドリル部分が”かえし”の役割を果たして卵が簡単に抜けないようになります。
こうして安定した状態が保たれた卵殻の中で、ネコザメの赤ちゃんは約1年ほどの時間をかけて成魚のミニチュア版まで成長し、やがて自力で殻から出てきます。
ちなみに、先ほどお見せしたのは日本にいる標準和名ネコザメのものですが、実は種によって形が少し違っています。
共通してネジれたような形状ではありますが ヒモが出ていたりと様々なものがあるので、ネコザメマニアであれば卵殻の形状までセットで覚えておくといいと思います。
参考文献&関連書籍
- David A. Ebert, Marc Dando, and Sarah Fowler 『Sharks of the World a Complete Guide』2021年
- 仲谷一宏『サメ ー海の王者たちー 改訂版』2016年
- 沼口麻子『ほぼ命がけサメ図鑑』2018年
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