以前にサメのウンチに関する解説をしましたが、今回はさらに小学生男子が喜びそうなテーマを取り上げます。
今回のテーマはサメのアソコ、平たく言えばおちんちんです。
PTAから猛烈な苦情がきそうなテーマですが、サメの生殖について語る上でどうしても外せない存在です。
サメ好きの方であれば「サメにはおちんちんが2本ある」という話は聞いたことあると思いますが、
- どうやってあのおちんちんを使うのか?
- なぜおちんちんが2本あるのか?
- そもそも本当にあれはおちんちんなのか?
これらの問いについて、きちんと考えたことはあるでしょうか。
今回はサメの交尾器について解説をしていきます。
解説動画:サメのアレは2本ある?サメのちん・・の秘密を徹底解説!【生殖】【クラスパー】【俺のクラスター】
このブログの内容は以下の動画でも解説しています!
※動画公開日は2021年8月19日です。
サメの交尾器は二本ある
まずはサメのおちんちんの場所や特徴を確認しておきましょう。
サメの体にはいくつかのヒレがありますが、サメのアソコは腹ビレについています。
どちらも同じ種類のサメ(ツマグロ)ですが、上の写真がオス、下がメスです。
違いは一目瞭然ですね。オスの腹ビレには”いかにもアソコ”という見た目の突起物が2本ついています。
この突起物こそがサメの交尾器であり、専門的にはクラスパーと呼びます。
このクラスパーは軟骨魚類に共通した特徴で、サメ、エイ、ギンザメ全てのオスが持っています。このため、硬骨魚(タイやマグロなどいわゆる”普通の魚”)に比べると、サメやエイの仲間はかなり簡単に性別を見分けることができます。
ただし、クラスパーは子供の頃は非常に小さいので、幼魚の場合は注意深く観察しないとオスをメスだと勘違いしてしまう可能性があります。
この小さなクラスパーが成長につれて大きく、そして硬くなっていきます。
補足:交尾器と交接器
クラスパーは交尾器と呼ばれたり、交接器と呼ばれたりします。
専門家によっても言葉が分かれていて、どちらでもいいとい意見もあります。
ただし、交接は「精子の入った袋をメスに渡したりする生殖方法」のはずなので、僕は交尾器と呼んでおり、この記事内でも交尾器で統一しています。
子宮の中にいる赤ちゃんのクラスパー
クラスパーは小さいだけで赤ちゃんの頃からありますが、母胎内にいる間はどうでしょうか?
実際に母胎内から取り出されたフトツノザメの赤ちゃんを観察してみましょう。
腹ビレを持ち上げている親指の先をよく見ると、小さいですがクラスパーが確認できます。
正確に妊娠何ヶ月の個体なのかは分かりませんが、まだ卵黄を吸収している状態でもクラスパーがあるということが分かりますね。
いろいろな形のクラスパー
先ほど、サメ、エイ、ギンザメのオスは全てクラスパーを持っていると紹介しましたが、クラスパーの長さ・太さ・形は種によって異なります。
せっかくなので、色々なサメ・エイのクラスパーを見比べてみましょう。
クラスパーを交尾に使う
アジやマグロなど多くの魚は水中に放った卵にオスが精子をかける体外受精ですが、サメなどの軟骨魚類は交尾を行う体内受精です。
人間が交尾する体勢は48パターンくらいあるそうですが、サメの場合は大きく分けると3パターンほど知られてます。
- 巻き付き型:オスがメスの胸鰭に噛み付いて巻きつくように体を固定してクラスパーを挿入する
- 抱き合い型:オスがメスに噛み付いて、腹と腹を合わせるような状態で挿入する
- 寄り添い型:オスが泳ぐメスに寄り添うような形で近づき、噛み付いて押さえつけたりして挿入する
こうして見ると、噛みついたり巻き付いたり、人間目線だと荒っぽい交尾が多いですね。
水族館でサメが他のサメに噛み付いていると「共食いだ!」と勘違いされることもありますが、同種のオスがメスの胸ビレあたりに噛み付いているなら、交尾しようとしている可能性が高いです。
交尾が終わったメスの体にはオスから受けた咬み傷があるので、そのメスが交尾を経験したかどうかの判断基準の一つになります。
実際に見ると痛々しいですが、致命傷になることは少ないようです。
精子を送り込むための複雑な構造
クラスパーは交尾において、メスに精子を送り込むために挿入されます。
人間と違い、サメは排泄に使う孔、交尾する孔、子供を産む孔が一緒くたです(これを総排出腔と呼びます)。
「うわ、汚っ!!」と思った人もいるかもしれませんが、脊椎動物全体で言えば、孔が用途で分かれている方が珍しいです。
総排出腔は腹ビレの間にあり、オスはここにクラスパーを挿入します。
2本あるクラスパーは左右に方向転換できるようになっており、左右どちら側からメスに噛みついても挿入しやすいようになっています。なお、クラスパーは2本ありますが、基本的に1本だけを挿入します。
メスの総排出腔に挿入されたクラスパーは、先端部分が開いたり、トゲやカギ状の突起が出てきて、簡単に抜けないように固定されます。
さらに、オスはサイフォンサックと呼ばれる海水が溜まった袋を持っており、海水と一緒に精子をメスの体内に勢いよく送り込みます。
メスの胎内に送り込まれた精子は卵殻腺という場所で保存され、やがて卵と受精します。
クラスパーは”おちんちん”にあらず
ここまでクラスパーの特徴や使い方を読んで、「サメも人間と同じようおちんちんを使うのか」と思った人もいるかもしれません。
しかし、ここで注意して欲しいのが、厳密にはクラスパーはおちんちんではありません。
冒頭ではサメ初心者の方に興味を持っていただきたく「おちんちん」という言葉を使いましたし、日本トップクラスのサメ研究者である仲谷先生に至っては『サメのおちんちんはふたつ』という本も出版されています。
ただ、これは分かりやすくてキャッチーだからそう表記されているだけです。サメのクラスパーはあくまでも交尾に使うための突起物であり、僕たち哺乳類についているおちんちんとは別物です。
二本あるクラスパーの起源
そもそも僕たち哺乳類のおちんちん(生物学的には陰茎と呼びます)は、尿道の出口部分が発達して形成されるため、尿の排泄口も兼ねた器官になっています。
しかし、サメの場合は腹ビレの軟骨が伸びて形成されていくものであり、その起源が全く異なるものです。
クラスパーが二本ある理由も、これが理由だと思われます。
「サメやエイは何故交尾器が2本あるのか?」という疑問を考える時、「2本あれば1本失っても交尾ができる」など役割を軸に考えがちですが、左右に一対ある腹ビレから発達したため、という起源的な理由だと思われます。
クラスパーから精子は出ない
これに関連してもう一つ付け加えると、サメはクラスパーの先端から精子を出すわけではありません。
先ほど紹介した総排出腔はオスにもあり、オスはここから精子を出します。
クラスパーには精液が通るための溝があり、挿入された状態のクラスパー溝を伝わることで、メスの体内に精子が送り込まれるんです。
以上のことから、陰茎のことを「おちんちん」と呼ぶのであれば、サメのクラスパーは「おちんちん」ではないということになります。
そのため、僕の中では「交尾器」や「チ〇コ相当物」みたいに呼んでいます。
もちろん、「交尾に使う突起物は全部おちんちん」という認識なら話は別ですが、サメの交尾器が僕たち哺乳類のそれとは、進化における起源も内部構造も全く別物だということは覚えておいてください。
参考文献
- 佐藤 圭一, 冨田 武照『寝てもサメても 深層サメ学』2021年
- 仲谷一宏 『サメのおちんちんはふたつ―ふしぎなサメの世界』2003年
- 仲谷一宏 『サメ ー海の王者たちー 改訂版』2016年
- 矢野和成 『サメ 軟骨魚類の不思議な生態』1998年
※本記事は2022年3月までにWebサイト『The World of Sharks』に掲載された記事を加筆修正したものです。
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