おはヨシキリザメ!サメ社会学者Rickyです!
生き物について勉強していると「〇〇という名前が付いているけど〇〇の仲間ではない」というややこしい生物に沢山出会います。
有名な例をあげるとハリネズミですね。「ネズミ」と名がつきますが、ネズミよりもモグラに近い仲間です(ネズミは齧歯類、ハリネズミは真無盲腸目)。
こうした初心者を悩ませる事例は魚にも多く、「サメ」と名がつくのにサメの仲間ではない動物が何種類もいます。
今回はその中からギンザメという魚をピックアップして解説します!
水族館に展示されることもある魚ですが、多くの方がサメの仲間と勘違いしているようなので、これを機に「ギンザメとサメがどう違うのか?」など一緒に勉強していきましょう!
解説動画:ギンザメはサメじゃない?奇妙な深海魚の生態やサメとの違いを徹底解説!【深海生物】
このブログの内容は以下の動画でも解説しています!
ギンザメはどんな魚?
まずギンザメとはどんな魚か紹介します。見た目はこんな感じです。
全体としては顔と胸鰭が大きくて、尾鰭に行くにつれて細くなっていく面白い姿をしています。
後で述べる通りギンザメ類には複数の仲間がいますが、ギンザメやアカギンザメなどでは尾鰭が糸状にビロ~ンと伸びます。また、第一背鰭に大きくて立派な棘をもっていていることも特徴です。
次に顔に注目してみましょう。顔に継ぎはぎみたいな線がたくさん入っています。これは側線という水の流れを感じるための器官で、サメや普通の魚にもありますが、ギンザメは非常にこれが目立っています。ブラックジャックかフランケンシュタインを思わせる風貌です。
また、ギンザメの歯を見てみると、なかなかに面白い形をしています。この顔と歯がネズミかウサギを思わせるので、英語ではギンザメの仲間を「Ratfish」や「Rabbitfish」と呼ぶこともあります。
ギンザメの仲間はだいたいが深みに生息していて、翼のような胸鰭をパタパタさせて泳ぎます。餌は主に砂の中に住む甲殻類や貝類などで、先ほど紹介した歯で噛み砕いて食べています。
このギンザメの見た目はいかにも”不思議な深海魚”という感じがしますが、研究者の方も感想を抱いたようで、ギンザメの学名はキマイラ・ファンタズマ(Chimaera phantasma)といいます。中二病的に意訳すると「幻獣キメラ」。もう完全に遊戯王カード的ネーミングですね。
ギンザメとサメは何が違う?
ギンザメは名前に「サメ」とつきますが、サメではありません。
身近なもので例えるならお酒と甘酒の関係です。甘酒は「酒」と名前に入っていますが厳密にはお酒ではないですよね。
ただ、甘酒にも一応アルコール成分が含まれているように、サメとギンザメは全く無関係というわけではありません。
そもそも僕たちが「魚」と呼んでひとまとめにしている動物は大きく分けると硬骨魚と軟骨魚に分かれます。
本当はヤツメウナギのような無顎類がいたりしてもう少し複雑ですが、今は単純化して説明します。
硬骨魚には僕たちがよく「普通の魚」と呼ぶタイやマグロ、コイや金魚などが含まれます。そして、軟骨魚にはサメやエイの仲間が含まれ、ここにギンザメも分類されます。つまり、同じ軟骨魚という点でギンザメはサメに近い仲間ではあります。
では、サメやエイとギンザメは何が違うでしょうか?
ギンザメとサメの違い①:エラ
一番分かりやすい違いがエラの構造です。
サメは鰓孔が五~七対ありますが、ギンザメの仲間は鰓孔が一対しかありません。これがサメとギンザメの違いです。
より詳細に紹介すると、サメとギンザメの鰓は鰓蓋と鰓隔膜という部分の構造が違うだけで内部構造はそこまで変わりません(鰓蓋で覆われていない部分の隙間を指して僕たちは鰓孔と呼んでいます)。
ギンザメとサメの違い②:アゴ
もう一つサメとギンザメが異なる特徴として、顎の構造が挙げられます。
サメは頭蓋骨と顎の骨のつながりが非常に緩く部分的なため、顎を前に飛び出させることができます。しかしギンザメの頭は頭蓋骨と顎の骨がくっついていた構造をしています。
こうした鰓や顎の構造から、サメ・エイ類とギンザメ類は別々のグループに分けられ、前者を板鰓類、後者を全頭類と呼びます。
板のように鰓孔が並んだ板鰓類、頭と顎が全部一緒くたの全頭類という風にイメージしておくと名称と特徴をセットで覚えやすいと思います。
ギンザメにはどんな仲間がいるのか?
そんなサメの仲間ではないギンザメたちは全部で何種類いるのでしょうか?
全頭類(全頭亜綱とも呼ぶ)はかつては多様な仲間がいたとされていますが、現代も生存が確認されているのはギンザメの仲間だけです。そして、ギンザメ類は以下の3グループに分けられます。
- ギンザメ科
- ゾウギンザメ科
- テングギンザメ科
世界にはだいたい40種ほどが知られていますが、去年に実は日本近海でアズマギンザメ属の新種が発表され、標準和名として「ヨミノツカイ」が提唱されました。やはりギンザメ類は幻想的な生物というイメージが強いみたいです。
頭に交尾器がついている?
ギンザメたちは少し離れたグループとはいえサメやエイに近い仲間であり、繁殖方法にも共通点があります。
ギンザメの仲間もサメやエイと同様に、オスはクラスパーという交尾器が腹鰭に二本についています。オスはこのクラスパーをメスに挿入して胎内に直接精子を送りこみます。
ここまではサメやエイと変わりませんが、ギンザメの仲間はもう一つ秘密兵器があります。
実はギンザメは頭部にも交尾器があります。
これだけ聞くとナチュラル公然猥褻のように聞こえますが、そういうわけではありません。
ギンザメ類の雄は頭部に「フロンタルクラスパー」または「前額把握器」と呼ばれる小さな突起がついています。普段は収納されているんですが、起き上がらせることができ、よく見るとトゲトゲしています。
ギンザメの雄は交尾の際にこの突起を使って雌の胸鰭を挟んで固定し、腹鰭のクラスパーを挿入するようです。サメの仲間の多くはオスがメスの胸鰭に噛みついて交尾するので、その代わりなんでしょう。
雌の気持ちは分かりませんが、噛まれるよりは突起で挟まれる方がマシかもしれませんね・・・。
参考文献
- 今村央『魚類分類学のすすめ―あなたも新種を見つけてみませんか?』2019年
- 大学ジャーナルオンライン 『日向灘で別種の深海魚、東海大学など「ヨミノツカイ」と命名』2019年(2022年3月23日閲覧)
※本記事は2022年3月までにWebサイト『The World of Sharks』に掲載された記事を加筆修正したものです。
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