寿命500歳?世界一遅い&世界一長生きな巨大ザメ!ニシオンデンザメを解説!

おはヨシキリザメ!サメ社会学者Rickyです!

今回は全長6m・世界一ゆっくり泳ぎ・世界一長生きな脊椎動物という深掘りし甲斐のあるスペックをもったサメ、ニシオンデンザメを紹介します。

名前を聞いたことない人でも「水温0度の極寒の海で暮らす寿命400年以上の巨大ザメ」と聞けば、興味をもっていただけるのではないでしょうか?

今回はニシオンデンザメがどんな生物なのかをなるべくわかりやすく解説していきます!

目次

解説動画:寿命500歳?世界一遅い&世界一長生きな巨大ザメ!ニシオンデンザメを解説!

このブログの内容は以下の動画でも解説しています!

ニシオンデンザメはどんなサメ?

ニシオンデンザメはツノザメ目オンデンザメ科オンデンザメ属に分類されるサメです。ツノザメ目のサメは多くが背鰭に鱗が変形してできた鋭い棘をもっているのですが、ニシオンデンザメにはそれがありません。

ちなみに、ニシというのは大西洋のニシです。日本近海にはオンデンザメというニシオンデンザメによく似た種がいるのですが、ニシオンデンザメはその大西洋版というわけです。他にもニシレモンザメやニシネズミザメなど、同じ理由で和名がつけられた子たちがいます。

ふじのくに地球環境史ミュージアムに展示されているオンデンザメ。ニシオンデンザメとは別種ですが、見た目はほぼ変わらないです。

ニシオンデンザメは全長4mほどで、最大6~7mにまでなるとされる巨大ザメです。吻先が丸くて目が大きく、どこかおとぼけた顔をしています。そして、ほとんどのニシオンデンザメの目にはコペポーダという寄生虫がぶらさがっています。

ある研究によれば、ニシオンデンザメを1500尾以上調べたところ、99%の目が寄生されていたそうです。ほぼ寄生されること前提で生きているっぽいですね。

生息域は大西洋北部や北極海など、水温が非常に低い海域で、グリーンランドシャークという英名の由来にもなっています。まさに極寒の海に住むサメです。

この水温が0℃になる超低温な環境で生きていることが、後で説明する、泳ぐ速さや寿命の話に密接にかかわってきます。

何を食べているのか?

ニシオンデンザメの胃の中からは、イカ、タラ、オヒョウ、トナカイ、アザラシ、クジラなど様々なものがこれまで見つかっています。時には他のニシオンデンザメも食べてしまいます。

ただ、ニシオンデンザメはこれから説明するように動きが遅いサメで、しかも目にはほぼ確実に寄生虫がついているので、恐らく失明していると思われます。

動きが遅すぎるうえに視力も失っているニシオンデンザメがどうやってアザラシやクジラなど動きの速い動物を食べているのか?これは現時点で未だに解明されていないミステリーです。

恐らく死肉を漁ったり休んでいる獲物に奇襲をかけて食べているのだと思いますが、はっきりしたことは分かっていません。

世界一泳ぐのが遅い生物

ニシオンデンザメは記録された生物の中で泳ぐのが最も遅い魚類です。より正確に言えば、体の大きさの有利不利を差し引いた場合、ニシオンデンザメが一番遅い魚だとされています。

どういうことか簡単に説明します。

水棲動物は基本的に大きさが大きいほど早く泳ぎます。縦軸を泳ぐ速さ、横軸を体のサイズとしたグラフに様々な水棲動物のデータをプロットすると、右肩上がりのプロットになるはずです。

この傾向から突出している生物が「大きさの有利不利を差し引いて速い・ないし遅い」なります。そのため、ニシオンデンザメはメダカなどの魚に比べると絶対的な速度は速いですが、大きさのわりに遅すぎる魚ということになります。

何故こんなことが起こるのかと言えば、ニシオンデンザメが水温0度に近い超低温環境にいることが関わってきます。

速く泳ぐには尾鰭を速く動かす必要があり、そのためには筋肉を速く動かす必要があり、そのためには化学反応が活発に起こる必要があります。そして化学反応は分子のぶつかり合いであり、それが活発に起こるためには体温が高いほど有利です。実際、魚を食べるイルカ、昆虫を食べるスズメのように、恒温動物が変温動物を襲う事例は数え切れないほどありますが、逆の事例は珍しいです。

ところが、ニシオンデンザメはとてつもない低水温に適応した生物なので、代謝速度が異様なほど遅いです。それによって筋肉を動かすにも恐ろしくゆっくりになり、結果として泳ぐのも遅くなります。

ニシオンデンザメが尾鰭を一振り、つまり左から右に振ってまた左に戻して、という風に尾鰭を一回に振るのに、なんと8秒かかります。イメージがつかめない人はサメが泳ぐ動画などで尾鰭の振りを確認してみて下さい。一振り8秒がいかに遅いかが分かると思います。

実際にバイオロギング調査で計測されたニシオンデンザメの遊泳速度はたったの時速800m。人間が普通に歩く速度の6分の1程度で5mの巨体が泳いでいるわけです。ちなみに、熱帯や亜熱帯に生息する大型種のイタチザメが時速2.5㎞ほど、ニシオンデンザメと同じくらい大きいが体温が高いホホジロザメが時速8㎞ほどなので、サメの中でもかなり遅いことが分かります。

世界一寿命の長い脊椎動物

ニシオンデンザメは近年の研究で、推定年齢が400歳近くだったと明らかになりました。ネットでは500歳などといわれることもありますが、どちらにしても長寿であることは間違いないです。

これ自体かなり話題になったので知っている人も多いと思うのですが、そもそもどうやって調べたのでしょうか?

タイやマグロなどの硬骨魚で年齢を調べる際は耳石というカルシウム結晶で年齢を測定します。しかし、一部の魚とサメにはこれがありません。そのため、サメの年齢推定は脊椎骨にある年輪のようなもので行うのですが、これが正確に年齢を表すのか微妙で、一部のサメでは確認すること自体できませんでした。ニシオンデンザメもその一種です。

ニシオンデンザメは記録計を使った調査により、1年に1cm程度しか成長しないことが分かっていました。そのため、5~6mまで成長する彼らが長生きだろうというのは予想できましたが、具体的な年齢を特定できていなかっったんです。

それが炭素の放射性同位体を使った年代測定により明らかになりました。

炭素などの元素には安定したもの(安定同位体)と、放射線を出しながら崩壊していくもの(放射性同位体)があります。この放射性同位体は安定したものになろうと半分ずつ崩壊していくのですが、その半分が崩壊するまでの期間を半減期と呼びます。この半減期が同位体によって異なり、中には数千年や100万年単位のものもあります。ざっくりと言えば、この放射性同位体の状態と半減期からものの年代を調べるのが放射性同位体を使った年代測定というものです。

こうした放射性同位体は「地球がいつ誕生したのか?」などの壮大なタイムスケールを測定するのに用いられてきましたが、ニシオンデンザメの水晶体を調べるのにこの方法が用いられました。

補足:水晶体を使う理由


基本的に生物の体は何も変わっていないように見えますが、細胞が生まれ変わりなどにより様々な物質の流れがあります。

しかし、水晶体は生まれてから死ぬまで変化しないため、放射性同位体による年代測定に適しているんです。

その結果、ニシオンデンザメが成熟するまでにかかる年数はおよそ150年ほど。平均年齢は少なく見積もっても272歳。全長5mの雌は392歳であることが分かりました。

金さん・銀さんを超える年齢になってからようやくイチャイチャできるようになり、そこから更に250年近く生きるとは想像もつきませんね・・・。

なお、この計算方法には100年以上の誤差が生じるので絶対正しい数値とは言い難いです(恐らくネットで出回っている500歳という数字は392歳に100を足して四捨五入してキリがよくインパクトがある数字にしたものだと思います)。しかし、少なく見積もった平均だけでそれまでの脊椎動物最長とされていたホッキョククジラの211歳を超えており、ニシオンデンザメが世界最長寿の脊椎動物であることは、ほぼほぼ間違いないように思えます。

およそ400年前と言えば、日本では徳川幕府ができたあたりで、ヨーロッパでは三十年戦争の時代です。日本史・世界史選択の受験生の方は「ああ、この時代にあのニシオンデンザメが生まれたのか」と思っていただけるといいと勉強がはかどるかもしれません。

何故こんなに長生きなのか?

400歳や500歳まで生きると聞いて、それくらい長生きしたいと思う人はいると思いますが、何故ここまで長生きなのか?

一言で表せば「寒すぎてデカすぎる」というのが理由です。

先ほども述べた通り、ニシオンデンザメは超低温環境で暮らしています。

超低水温環境へ適応する道は極端に分ければ二つです。

A. バクバク餌を食べまくったり、羽毛や熱交換システムなどの体内構造を発達させて体温を高く保つ

B. 体温を無理に上げようとせず低温環境に体を適応させて代謝をグッと落とし必要なエネルギー量を極力減らす

ペンギンなどがAの方法をとっているので、ここではAをペンギンスタイル、Bをニシオンデンスタイルと呼びます。

前者のペンギンスタイルは膨大なエネルギーが必要で大変ですが、その分早く成長して早く成熟できます。後者のニシオンデンスタイルはエネルギーは少なくて済むのですが、成長に長い時間がかかります(先ほど見た通り成熟まで150年です)。つまり、世代時間に大きな違いが生まれます。

愛らしいペンギンも水中では高速で泳ぐハンターです。

人間は一個体ずつ(一般的な言い方をすれば一人一人)を大事にする社会にいるので「産まれてから老衰で死ぬまで時間」を寿命と呼んで大切にします。

ただ、ドーキンス的な言い方をすれば、僕たち個体はあくまで遺伝子が自己複製するための乗り物でしかありません。しかも自然界で老衰死する生物などまずいません。そのため、生物にとって最も意味のある時間で議論しやすいのは、産まれてから子孫を残すまでの世代時間ということになります。

そして、世代時間はその動物の大きさと体温(正確に言えばその体温に影響される代謝量)によって影響を受けます。

時間と言われると、宇宙全体を通して共通の絶対的なもののように感じます。「時間だけは平等だ。1日はみんな24時間なんだからお前も頑張れ」みたいなことを体育会系で頭の悪い上司に言われた人もいるかもしれません。

しかし、生物にとっての時間というのは必ずしも一緒ではありません。

体の大きな生物ほど成長に時間がかかるし、代謝速度が速い生物の方が早く成長します。そのため、同じくらいのサイズであれば恒温動物の方が変温動物よりも早く成熟します。

変温動物でも、水温が高い海域の魚の方が早く孵化しやすいです。深海ザメの代表として人気の高いラブカは妊娠期間が3年にもなるとよく紹介されますが、あれも深海の低水温が原因の一つではないかと言われています。

つまり、ニシオンデンザメが驚異的な長寿なのは「〇〇という特殊な酵素」や「△△という珍しい遺伝子」などが原因ではなく、巨体にもかかわらず低水温で代謝速度が極度に下がった結果として盛大時間が引き延ばされただけだと言えそうです。

無論、まだまだ謎の多いサメなので今後別の説が浮上する可能性もありますが、ニシオンデンザメから不老不死の秘薬につながるような発見は今のところされていません。

人間の1日はニシオンデンザメの1カ月?

体の大きさと体温により生物によって世代時間が異なるのであれば、その生物にとっての時間の重みはかなり異なるはずです。

体温が低く体が大きくなれば、世代時間が延びるので時間の重みが少なくなります。

子供になると濃厚だった時間が、大人になると薄っぺらくなって飛ぶように時が過ぎていく感じありますよね。あれは子供から大人になっても体温が大して変わっていないのに体のサイズが大きくなって、しかも代謝量が落ちることで起きる現象らしいです。もちろん社会的な立場とかもあるかもしれないですが、一応科学的な裏付けがあるわけですね。

そうなると、全長6m・体重1トン・ほぼ体温0℃であるニシオンデンザメの時間感覚はすごいことになりそうです。実際に体重60㎏・体温36℃の人間と比較すると、時間の濃さは47倍の差があるそうです。

僕たちの1日は、ニシオンデンザメの1か月分くらいの重みがあることになります。

このように生物学的な視点で見つめなおすと色々考えさせられます。

ニシオンデンザメが仮に高度な知能を持っていたら僕たちは47倍速で動き回ってすぐに死んでしまう儚い存在ですし、逆に僕たちの1日がニシオンデンザメの1か月に相当すると思えば「1日を無駄せずに頑張ろう」という気持ちになれるかもしれません。

「あなたが何気なく過ごした今日は昨日死んだ人がどうしても生きたかった明日」という使い古された自己啓発的名言がありますが、これを読んだあなたは今日から「あなたが何気なく過ごした今日はニシオンデンザメ換算では1か月の重み」という言葉を胸に刻み、一日一日を大切にしてみてはいかがでしょうか。

参考文献

  • Jose I. Castro 『The Sharks of North America』 2011年
  • Julius Nielsen, Rasmus B. Hedeholm,Jan Heinemeier, Peter G. Bushnell,Jørgen S. Christiansen,Jesper Olsen,Christopher Bronk Ramsey,Richard W. Brill,Malene Simon,Kirstine F. Steffensen,John F. Steffensen 『Eye lens radiocarbon reveals centuries of longevity in the Greenland shark (Somniosus microcephalus)』 2016年
  • 渡辺佑基 『進化の法則は北極のサメが知っていた』 2019年
  • 渡辺佑基 『ペンギンが教えてくれた物理のはなし』 2014年

※本記事は2022年3月までにWebサイト『The World of Sharks』に掲載された記事を加筆修正したものです。

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