生きたバショウカジキの展示がアクアマリンふくしまに!世界最速とされる超貴重展示を解説!

2022年9月26日、全国の水族館マニアを福島に駆り立てるニュースが舞い込んできました。

環境水族館アクアマリンふくしまが再び、生きたバショウカジキの展示を開始したんです!

バショウカジキは非常に有名で、その美しさ、カッコよさから人気の高い魚ですが、飼育はおろか生きたままの運搬すら困難で、世界のどの水族館も長期飼育に成功していません。

この記事を執筆している2022年10月10日現在、生きたバショウカジキが見られる水族館は世界でアクアマリンふくしまだけです。

しかも、前回が2年前の2020年、その前が2009年なので、この機を逃すと次はいつになるか分からないという、まさに超激レア展示です。

今回は現地で撮影した写真をお見せしつつ、バショウカジキの特徴や生態について解説をしていきます。

本記事は2022年10月10日に執筆しています(掲載している写真は9月27日に撮影)。本記事を閲覧した時点で展示内容が変更になっている可能性があります。詳しくはアクアマリンふくしまの公式HPまたは公式Twitterをご確認ください。

目次

解説動画:【世界唯一】生きたバショウカジキの展示がアクアマリンふくしまに!世界最速とされる超貴重展示を解説!

このブログの内容は以下の動画でも解説しています!

※動画公開日は2022年10月8日です。

バショウカジキの分類

バショウカジキはスズキ目マカジキ科バショウカジキ属に分類される魚です。

日本近海にはバショウカジキの他に、以下の5種が確認されています。

【マカジキ科】

  • フウライカジキ(Tetrapturus angustirostris
  • マカジキ(Kajikia audax
  • クロカジキ(Makaira mazara
  • シロカジキ(Istiompax indica

【メカジキ科】

  • メカジキ(Xiphias gladius

カジキ類を見分けるポイントは吻の長さ、最大全長、体の模様などがありますが、バショウカジキと他のカジキ類の決定的な違いは大きな背ビレです。

広く大きな背ビレを持つバショウカジキ

この非常に大きな背ビレが芭蕉の葉を思わせることから、バショウカジキと名前が付きました。

ちなみに英語名はIndo-Pacific Sailfish。帆を持つ魚という表現も、バショウカジキの特徴をよく表していますね。

カジキマグロはカジキ?マグロ?

分類の話のついでに、よく聞く「カジキマグロ」という言葉についても触れておきます。

カジキマグロはマグロなのかカジキなのか?あるいはカジキはマグロの仲間なのか?

未だに混乱している人もいるかもしれませんが、結論から言うと「カジキはカジキ、マグロはマグロ」です。

生物学的には、カジキマグロなんて魚は存在しません。

では「カジキマグロ」は何かと言えば、水産業や飲食店など一部界隈で用いられるカジキ類の俗称です。

カジキ類は、以下のような特徴がマグロの仲間と共通しています。

  • 主に外洋を泳ぐ大型魚
  • 延縄で漁獲される
  • 肉質が良くて刺身などに使える

恐らくですが、このような共通点があることからカジキとマグロが同じように扱われ、その中で生まれた言葉なのだと思います。

なお、先程バショウカジキはマカジキ科に分類されると紹介しましたが、クロマグロなどのマグロの仲間はサバ科に分類されます。

高速遊泳に適した体つきになっていく進化の過程で同じような見た目になった(このような現象を収斂進化と呼びます)だけであり、カジキとマグロは全く別の魚です。

バショウカジキの特徴

では、バショウカジキの特徴を紹介していきます。

狩りに使う長い吻

まず最初に注目すべきはカジキのシンボルでもある長い吻です。

他の魚と見比べるまでもなく上顎の吻が非常に長く、下顎のおよそ2倍ほどの長さがあります。

バショウカジキはこの長い吻を使って獲物である小魚に打ち付けたり、突き刺したりしてハンティングを行います。

長い吻で獲物を捕らえる野生のバショウカジキ。

今回のアクアマリンふくしまでは「潮目の海の大水槽」という沢山のイワシが泳ぐ水槽で展示されたのですが、エサの時間で他の魚が活発に動き始めた時に、バショウカジキがイワシの群れに勢いよく向かっていく様子が観察できました。

僕自身はハンティングの瞬間を観ることはできませんでしたが、イワシを襲って食べることもあるようです。

アクアマリンふくしまは環境教育という部分に重きを置いている素晴らしい水族館で、「自然界で繰り広げられる「食う・食われる」の関係を水槽内に再現しています」と謳っているのですが、バショウカジキでそれを実現するのは本当にすごいですね。

芭蕉を思わせる大きな背ビレ

吻と同じくバショウカジキのシンボルと呼ぶべき存在が背鰭です。

先程紹介した通り、バショウカジキは芭蕉の葉を思わせる非常に広い背鰭を持っています。

より厳密に言えば、バショウカジキには背鰭が二つあり、大きいのは第一背ビレです。

背鰭がシンボルという点ではサメとのシンパシーを感じるのですが、バショウカジキはサメと異なり、この背鰭を扇子のように折りたたむことができます。

一説には、この背鰭は急停止や方向転換をする際のブレーキやパラシュート的な役割を持っているとされています。

ただ、「そんなに便利な機能があるなら何故他のカジキ類では発達しなかったのか?」というのは気になりますね・・・。

体の色が変化する?

バショウカジキは体色を変える魚だとされています。

バショウカジキの体はダークブルーの背鰭に白っぽい体、そして体の側面に薄っすらと斑点、そしてそれが集まって出来た縞模様というカラーリングをしていますが、興奮すると色味や模様の濃さが変わるようです。

実際に今回展示された個体と野生のバショウカジキを撮影した写真とを比べてみました。

左がアクアマリンふくしまで撮影。右側が野生個体。

撮っている場所、使っているカメラ、カジキの個体、全て違うため、まったく科学的な比較ではありませんが、それにしても右側の方が体色が濃くて模様もくっきり出ていますよね。

今回、全国から水族館マニアが集結してバショウカジキの写真を撮りまくっているので、設定を合わせたカメラで平常時と捕食の瞬間それぞれを撮影し、余計な加工を加えずに比べたら、もしかすると色や模様の違いが確認できるかもしれません。

バショウカジキは世界最速の魚?

バショウカジキと言えば、「世界一速い魚」として有名です。

よく言われているのは時速100㎞。とある釣り系のWEBメディアでは「巡航速度は時速50~60kmぐらい、獲物を追うときには瞬間的に時速110~120kmぐらいは出る」と紹介されていました。

しかし、最近の研究でこれは間違いであることが示されています。

海の中でバショウカジキの平均遊泳速度を計測した研究によれば、その速さは時速2㎞ほどです。

「世界最速」のイメージをぶち壊すようで申し訳ないですが、間違いではありません。バショウカジキは平常時、お年寄りの歩行速度と同じくらいで泳いでいます。

ただし、バショウカジキの泳ぐ速度が特別遅いわけではなく、速いとされる水棲生物の遊泳速度はどれも同じようなものです。

クロマグロやホホジロザメ、シャチやペンギンなど、様々な動物で遊泳速度を測定すると、平均遊泳速度は時速10㎞を上回ることはまずありません。

速いとされる海洋生物の平均遊泳速度

チーターは時速100㎞とかよく言われますし、人間でもウサイン・ボルトなら時速40㎞くらいは出るそうなので「遅すぎるだろ」と思うかもしれませんが、これは陸上と水中という環境の違いが関係しています。

僕たち陸上動物は走るにしろ飛ぶにしろ空気中を移動することになりますが、水は空気に比べて800倍も密度が高いです。そのため、移動するときも空気中の800倍もの抵抗がかかり、速度を上げた時の抵抗の増し方も急激になります。

プールに入ったまま歩くと、陸上で歩くよりも遅くなるかかなり体力を使いますよね。あれと同じ原理です。

そのため、水中で時速100㎞を出そうとすると、筋肉や心臓をとんでもなく発達させる必要がありますし、消費するエネルギー(つまりエサ)も尋常ではない量になります。

水中で超高速を実現するのは、あまりにもエネルギー効率が悪いんです。

ただ、これに関して補足しておくと、水中で時速2㎞とか時速7㎞というのは結構早いです。

競泳の世界記録を秒速に直してみると、人間が100~200m泳ぐ時に出せる最速が時速6~7㎞程度です。

そして、ここまでお話しした2㎞や7㎞というのはあくまで平均遊泳速度です。獲物を追いかける時のスピードを計測すると、カジキやマグロ類は時速30㎞以上で泳いでいることが確認されています。

言い換えれば、人間が人生を賭けた全力で短距離を泳いだ時の最高時速がホホジロザメやクロマグロにとっての平常運転であり、その気になれば彼らはその何倍も速く泳ぐことができるということです。

バショウカジキは本来もっと速い?

バショウカジキの平均遊泳速度は時速2㎞と言いましたが、もしかしたらもっと速いかもしれません。

今回アクアマリンふくしまのバショウカジキを見ていると、結構な頻度で静止したり、非常にゆっくり泳いでいることがありました。

カジキもマグロも外洋を泳ぎ回る魚ですが、泳ぎ続けることで呼吸するマグロ類に比べ、バショウカジキはほぼ停止に近い状態でも呼吸はできるようです。

つまり、平均遊泳速度の計測方法によっては、バショウカジキの記録はこの静止時間によって遅くなっただけの可能性もあります。

あくまで憶測ですが、泳ぎ続けるときのスピードだけで見ればもっと速いのかもしれません。

もしアクアマリンふくしまでバショウカジキの長期飼育が成功した場合は、こうした遊泳速度の謎も解明してくれることでしょう。

非常に飼育が難しい魚ですが、今後の研究に期待ですね。

参考文献&関連書籍

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