僕はこのブログやYouTubeで「”獰猛な人食いザメ”というのは誇張された偏見である」という趣旨の発信をよくしていますが、そもそも「サメが人を食う」というイメージはどこから来ているのでしょうか?
恐らく真っ先に頭に浮かんだのが、映画『ジョーズ』だと思います。
サメ好きでなくてもこの映画の存在はみんな知っていますし、「ジョーズ」という言葉自体がサメを表す代名詞として使われることもしばしばです。
しかし、そもそも映画を観ていないのに「サメと言えばジョーズ!」や「ジョーズのせいでサメのイメージが悪くなった!」など、『ジョーズ』やサメそのものについてあれこれ言う人も多いです。
そこで今回は、幼稚園児の頃から100回以上『ジョーズ』を観てきた現役サメ大好き人間の僕が、そのあらすじから実際のサメとの比較まで解説していきます!
※この記事内にはあらすじや多少のネタバレを含みます。予めご了承ください。
解説動画:『ジョーズ』は実はリアルだった?サメ映画の原点にして頂点を徹底解説!
このブログの内容は以下の動画でも解説しています!
※動画公開日は2021年3月17日です。
『ジョーズ』の簡単紹介
一度も見たことない方にも分かるよう、まずは『ジョーズ』について簡単に紹介します。
一言で表せば、“平和なビーチに突如現れた巨大ホホジロザメの恐怖と男たちの死闘を描いた作品”です。
【あらすじ】
アメリカ東海岸にあるアミティ島のビーチに、切り裂かれた女性の腕が打ち上がる。
警察署長のブロディは市民の安全のためにビーチの閉鎖や遊泳禁止を訴えるが、夏は島にとっての稼ぎ時。市長を含む町の人々から反発を受ける。
しかし、再びサメが現れ、第二、第三の犠牲者が出てしまう。
ブロディは海洋生物学者フーパーと、荒くれ者の漁師クイントと共に、巨大なホホジロザメに戦いを挑む・・・・。
このストーリー読んで「いかにもパニック映画でありそうだな」と思う人もいるかもしれません。
これは『ジョーズ』が陳腐だからではなく、後に作られた作品が『ジョーズ』の影響を受けている(あるいはパクっている)からです。
典型的なモンスターパニックの流れ
サメ映画であれば大抵は水着もしくは裸の美女です。
「サメの姿を誰も見ていない」や「夏はこの街の稼ぎ時だ」という反対意見が多くて対策がされないのがお決まりの流れです。
海開き、〇〇フェスティバルなどのイベントが実施されて人がたくさん集まります。
そのイベントに狙ったようにモンスターが現れて人々を食い散らかします。
主人公は何も悪くないのに駆除に挑むことになり、サメ映画ではだいたいサメを爆発させます。
映画『ジョーズ』におけるこの一連の流れは、後に作られる数々のサメ、クマ、ワニ、ヘビ、トラなどを題材にしたパニック映画のテンプレと化しています。
サメ映画を議論する際に『ジョーズ』のことを「原点にして頂点」や「元祖」を称することがありますが、こうした他作品への影響力もその所以の一つだと思います。
『ジョーズ』の魅力
近年は「サメ映画=マニア向けなヤバい作品」というイメージが広まっていますが、『ジョーズ』は普通の人が観ても十分に面白い傑作です。
「サメが好きだからサメ映画を推しているだけ」と思われないように、僕なりに『ジョーズ』の魅力を紹介しておきましょう。
見事な演出と世界観
『ジョーズ』はサメが出てくる映画の代表みたいな存在ですが、実はサメが登場するシーンは意外に少ないです。
設定上はサメがいるシーンでも、以下のような場面が多いです。
- サメ視点の映像で襲われる人が映っている。
- サメの背鰭だけが映っていて全体は見えない。
- サメに引っ張られる樽だけが水面に浮いて動いている。
これには、サメの模型やロボットが問題だらけであまりサメを多く映せなかったという裏事情があったそうです。
ですが、こうした場面が逆にサメの存在感を強くしていると思います。
映画開始から半分ほど進まないとサメの顔はおろかヒレすら出てこないのですが、だからこそ想像力が刺激され、恐怖がかきたてられます。
そして、海水浴場で初めてサメが大口開けて襲ってくるシーンが強烈なものになりました。「ついに怪物が姿を現した!」って感じですね。
これに近いものを感じるのが、ホラー映画の『リング』です。
貞子がテレビから出てくるシーンは誰もが知っていますが、あれは映画のほぼラストですし、それまで貞子の姿はほとんど出てきません。しかし、ホラー映画として成立していますし、最後の登場シーンが恐ろしいほどに印象的に仕上がっています。
ジョーズも同じで、サメの直接的な表現が少ないからこそ、サメをインパクトのある存在として描けたのではないでしょうか。
映画音楽の神様
『ジョーズ』の音楽を手掛けたのは、ジョン・ウィリアムズという方です。
この方は『スター・ウォーズ』や『ハリー・ポッター』など、曲の出だしだけで映画の情景が頭に浮かんでくるような傑作映画音楽を数多く作っている神様みたいな存在です。
『ジョーズ』の音楽といえばデーデン♪デーデン♪というあの曲が有名ですが、実は他の音楽も素晴らしいです。
例えば、暗い海を泳ぐシーンは静かで不穏な音楽になり、船でサメを追いかけるシーンでは冒険感あふれるアドベンチャー映画のような曲が流れます。
水中で檻に入ったダイバーがサメに襲われるシーンでも、不穏な音楽が徐々に激しさを増していく絶妙な曲の変化のおかげで、セリフが全くないにもかかわらず緊迫感ある絶体絶命の世界観が引き立っています。
冒険感あふれる音楽が流れるサメとの対決シーン(公式公認の切り抜きYouTubeです)
檻に入ったダイバーが襲われるシーン(公式公認の切り抜きYouTubeです)
実際に観てみると分かりますが、その場その場の雰囲気にあった最高の音楽が使われているのも『ジョーズ』の魅力です。
もともとは小説だった『ジョーズ』
『ジョーズ』と言えば映画のイメージがありますが、実は原作があります。
もともと『ジョーズ』はピーター・ベンチュリーという方が書いた小説であり、映画はそれをもとに制作されました。
「ジョーズ」という言葉は今やサメの代名詞ですが、本来は「アゴ」という意味の言葉で、サメの顎だけを示すものではありません。
小説のタイトルには他にも「Silence in the deep」、「Leviathan rises」、「Jaws of the death」など100を超える候補があったそうですが、最終的にシンプルなアゴを意味する単語一つ「JAWS」に決まりました。
小説のストーリーも基本は映画と同じで、女性がサメに喰われたのを皮切りに次々に人が襲われ、ブロディ署長たちが戦いを挑むというものです。
ですが、小説ではブロディの夫婦関係のいざこざや、市長のビジネスに関する黒い噂など、サメの恐怖と同じくらい、サメ襲撃によって起こる人間模様が色濃く描かれています。
そうしたヒューマンドラマ的なものをカットし、一気にアドベンチャー映画に方向転換した結果、映画『ジョーズ』は誕生しました。もっとも、「市長が経済的な理由でビーチ閉鎖に反対する」という部分は物語の重要な要素として映画にも残っていますが・・・。
小説の方も味がありますし、映画とは生き残る人や死因が違っているので、映画を観た方も新鮮な気持ちで読めると思います。
ただし、単純に「サメVS人間の死闘」を楽しみたいという方には映画の方がおススメです。
また、現在は日本語版を手に入れるのが恐らく難しいので、読むにはある程度の英語力が求められると思います(中古なら日本語版も手に入るかも・・・)。
『ジョーズ』は諸悪の根源なのか?
サメ好きの中には「サメを悪者にした諸悪の根源」として『ジョーズ』を好まない人もいます。
一口に「サメ」と言っても、世界には現在500種類以上の仲間が知られています(ジョーズ公開時点では恐らく300~400程度だった気がします)。
そのうちのほとんどは、食べようと思って人を襲うことのない種ばかりです。
映画のモデルになったホホジオロザメは確かに危険なサメですが、それでも積極的に人ばかり食べるモンスターではありません。
しかし、この映画自体が大ヒットしたこともあり、サメ=人食いマシーンというイメージが、それまで以上に多くの人に根付いてしまいました。
実際、当時の映画館では悲鳴が響き渡り、風呂に入るのすら怖いという人がいたという逸話が残っています。また、海水浴客の人数も公開時期に減少しました。
製作陣としては大成功なわけですが、その一方で、スポーツフィッシングでサメが集中的に狙われたり、ヒーロー気取りで人を襲わないサメまで殺す人が現れるなど、現実世界のサメたちにも悪影響が出てしまいました。
今でも、人を襲わない種や小さなサメを意味もなくキャッチ&キルして「ジョーズを退治した!」などと発信している下品なYouTuberがいますが、その先駆けみたいなものです。
こうした背景もあるためか、サメ図鑑やドキュメンタリー作品の多くでは必ずと言っていいほど『ジョーズ』に触れ、人食いザメというイメージが偏っていることを伝えています。
サメは考えるほどわれわれの脅威ではなく、恐ろしいものでもない。
ヴィクター・G・スプリンガー, ジョイ・ゴールド『サメ・ウォッチング』p12
人を襲うのはホホジロザメ、イタチザメ、オオメジロザメなど、ごく一部の種に限られ、それ以外のほとんどのサメは特に危険ではない、ごく普通の生き物なのだ。
田中彰『深海ザメを追え』p7
…..『ジョーズ』では、人がたくさんいる海水浴場に巨大なホホジロザメが自分から乗り込んでいって人を襲ったり、サメ退治に来た人間と激闘を繰り広げたりといったシーンが描かれていますが、そんなふうに人に狙いを定めて襲いかかるなんてことはまずありえません。
沼口麻子『ほぼ命がけサメ図鑑』p35
原作者のピーター・ベンチュリー自身も後に「Knowing what I know now, I could never write that book today(今知っていることを知っていたなら、あの本を書くことはできなかっただろう)」と述べています。
ただし、僕は『ジョーズ』が諸悪の根源とは思っていません。
まず、『ジョーズ』が作られる遥か昔から、サメを凶暴な怪物として忌み嫌う習慣や、サメが人を食べるという内容の神話や物語は世界中にありました。
そのため、サメへの恐怖や偏見が『ジョーズ』から始まったわけではないと考えられます。
また、『ジョーズ』に限った話ではないですが、よく調べもしないでフィクションのイメージと実際の動物の生態をごっちゃにする人が悪いという見方もできます。
『ジョーズ』の影響でサメを悪者にして殺してしまうのは、『ひぐらしのなく頃に』を見て本当に殺人を犯したり、18禁のビデオを教科書にして現実の女の子に接してしまうのと同レベルです。
こうしたことを考えると、『ジョーズ』を諸悪の根源として責め立てるのは間違っているように思えます。
とはいえ、もともとは「アゴ」を意味する単語がサメの代名詞として使われている現状を見ると、影響が大きかったことは確かでしょう。
『ジョーズ』の無理がある設定
サメの偏見を助長したとされる『ジョーズ』ですが、実際に嘘だらけなのでしょうか?
確かに、『ジョーズ』にはいくつか無理な設定があります。
まず、サメが人ばかりを積極的に襲ったり、執拗に一つのボートに攻撃を加えるというのは非常に稀です。
仮に人を襲ってしまうとしても、本来の獲物と間違えたり、人間側からエサなどで刺激を与えた場合が多く、人間ばかりを追い回すように狙うことは考えにくいです。
次に、映画の中でサメの大きさを「25フィート、重さは3トン」とクイントが表現していますが、明らかにサイズが大きすぎます(25フィート≒7.6m)。
信頼できるホホジロザメの最大全長は6.4mほど。
7.6mのホホジロザメが「絶対いない」とは言い切れませんが、現実的な数値ではありません。
『ジョーズ』にもリアリティがある
以上のように、『ジョーズ』には現実との乖離がありますが、シリアスなものからアホなものまでサメ映画をたくさん観てきた身としては、『ジョーズ』のリアリティも評価したいです。
襲撃頻度と犠牲者数
それを特に感じるのは、作中における襲撃頻度と犠牲者数です。
『ジョーズ』のサメはとにかく人を食べまくっているイメージがありますが、実は1日に1人しか人を食べておらず、しかも全て数日から1週間くらいの期間が空いています。
続編の『ジョーズ2』やその他のサメ映画では1日に同じサメが3人以上食い殺すこともありますが、こうした映画に比べれば『ジョーズ』はだいぶ現実的です。
「いや、サメは食べまくるもんだろ」と思う人もいるかもしれませんが、イルカやクジラなどの恒温動物に比べてサメ類は体温が低く、大きなサメでも体重当たりの食事量は僕たちより少ないことも多いです(水族館のイルカは芸を成功させるたびにエサをもらっていますが、サメはそこまで食べていないですよね)。
ホホジロザメは体温を高く維持することができるため他のサメとは少し事情が異なりますが、それでも1日に何人も食べるほどでないと思います。
当時としてはリアルなブルース
また、ジョーズに出てくるサメも当時としてはかなリアルです。
映画で使う動物ロボットのことをアニマトロニクスと呼びますが、実際に『ジョーズ』のアニマトロニクスを作った方は、水族館でホホジロザメの顎を借りてきて、プロポーションなどもできるだけ忠実に作っていました。
CGで何でも作れる今見ればチャチかもしれませんが、それでも歯の形が大きな三角形である、尾鰭がホホジロ特有の三日月形であるなど、クオリティの高い仕上がりだと思います。
なお、このロボットはスピルバーグ監督の弁護士の名前にちなんで「ブルース」と名付けられ、『ファインディング・ニモ』に出てくるサメの名前の由来にもなっています。
実際に野生のサメを使って撮影
『ジョーズ』ではアニマトロニクスとは別に、実際に野生のホホジロザメを使って派手にオリを壊すシーンを撮影しています。
B級サメ映画では、ドキュメンタリー映画で使われているサメ映像が切り抜いて用いられ、いらすとや状態になっています。
そのため、「あれ、このサメ他の映画でも見たぞ?」というのは”サメ映画あるある”であり、ホホジロザメの設定なのに別のサメが写ったり、画質やフレームレートが変わることすらあります・・・。
しかし、ジョーズのサメは自分たちで実際に撮影しているので完全オリジナルであり、ちゃんと場面に合った映像になっています。
もちろん、オリの部品やロープでサメが傷ついたり死んでしまうリスクもあり、今考えれば色々と問題がある撮影手法ですが、本物ならではの力強さ、生々しさは否定できないでしょう。
「人を何人も食べる人食いザメ」という設定には無理がありますが、こうしたリアリティにこだわった点は、サメ好きとしても評価したいなと思います。
参考文献
- BBC NEWS『How Jaws misrepresented the great white』2015年(2022年5月8日閲覧)
- ヴィクター・G・スプリンガー, ジョイ・ゴールド『サメ・ウォッチング』1992年
- 田中彰『深海ザメを追え』2014年
- 沼口麻子『ほぼ命がけサメ図鑑』2018年
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