サメに襲われない方法がついに判明?ホホジロザメ相手に実験した結果・・LEDライトでサメの攻撃を防げるか?

「LEDライトによるサメ対策」と聞くと、突拍子もないテーマに思えるかもしれません。

しかし、その実現を予感させる論文が2024年11月11日に、学術誌『Current Biology』に掲載されました。

研究チームはアシカ類を模した囮を用意し、お腹側にLEDライトを設置。ライトのない囮と比較したり、ライトの強さや配置を変えたりして、囮に対するホホジロザメの行動がどう変化するのか観察しました。

その結果、LEDライトで光を発している時の方が、サメによる接触が少ないという結果が得られました。

研究チームは同論文の中で「この研究により、ホホジロザメの狩りにおいて獲物の影がいかに重要かが明らかになったうえ、サメを傷つけずに人を守る技術に貢献できるかもしれない」と述べています。

  • なぜLEDライトによるサメ対策が有効なのか?
  • 具体的にサメの行動がどう変化したのか?
  • なぜ今回のような研究が重要なのか?

今回は「LEDライトでサメの攻撃は防げるか」というテーマで解説をし、上記3点の疑問にお答えしていきます。

目次

解説動画:LEDライトで人喰いザメ対策?ホホジロザメ相手に実験した結果・・

このブログの内容は以下の動画でも解説しています!

※動画公開日は2024年12月6日です。

サメは見間違いで人を襲う?

本題の前に、そもそもどんなサメがなぜ人を襲うのかという点を説明しておきます。

世界中に550種以上いるサメのうち、そのほとんどは人間ほど大きな獲物を襲わず、サメの事故件数も世間で思われているより非常に少ないです。

しかし、ごく一部のサメが人を噛んだり食べたりする事故の原因になることがあります。

その中でも特に事故を引き起こしているのが以下の3種です。

  • ホホジロザメ(Carcharodon carcharias
  • イタチザメ(Galeocerdo cuvier
  • オオメジロザメ(Carcharhinus leucas

実質この3種による事故がほとんどとされています。

ホホジロザメ
イタチザメ
オオメジロザメの写真
オオメジロザメ

そして、これらのサメによる事故が起きる原因として恐らく最も有力な説が、誤認説(mistaken identity theory)です。

サーフボードに乗った人間のシルエットは、アシカやアザラシ、ウミガメなど、大型サメ類がよく襲う動物によく似ています。このため、サメが本来の獲物と見間違えて人間を襲ってしまうのです。

実際に、アシカ類が泳ぐ様子とボードに乗って泳ぐ人間の様子がサメにどう見えるのか分析した研究では、ホホジロザメからの視点からは大きな違いが恐らくなく、見間違える可能性が高いという結果が出ています。

また、世界中のサメ事故をまとめているInternational Shark Attack File(ISAF)でも、サメに襲われた時に人間が行っていた活動として、サーフィンなどボードに乗るアクティビティが上位にランクインしています。

サメから見たサーファー・ウミガメ・鰭脚類のシルエットイメージ。

こうした研究結果やデータからも、サメの事故は見間違いで起こるケースが多いと言えそうです。

ここからサメ事故を防ぐ手法についての話をしていきますが、サメが人間をわざわざ狙って襲っているわけではないことは大前提として覚えておいて欲しいです。

カウンターイルミネーション

そんなサメによる攻撃のリスクを、LEDライトによって減らせるのでしょうか?

サーファーが自分のボードを光らせたら逆に目立ちそうですし、ボードをピカピカさせるサーファーなんてサメ映画で真っ先に喰われるパリピキャラみたいに思えます。

しかし、このライトで照らすという方法は、実際に多くの深海魚が採用している捕食者対策でもあるのです。

ハダカイワシ類などの魚のお腹を見ると、銀色の点が並んでいるのが見えます。これは彼らの発光器で、ここから光を発することで自分の影を消して捕食者から身を守っています。

ハダカイワシ類の発光器

一般に深海の定義とされることが多い水深200m以深は「光が届かない世界」と表現されますが、実は人間がほぼ光を感じられないだけで太陽光は届いています。

たとえ深海にいたとしても太陽光によって影ができるため、自分よりも深い場所に捕食者がいた場合、自分の影によって見つかってしまう恐れがあります。

そこで一部の深海生物は、腹側にある発光器から光を発することで自分の影を消し、捕食者から見つかりにくくしているのです。

このような発光をカウンターイルミネーションと呼びます。

今回取り上げているLEDライトでのサメ対策実験は、このカウンターイルミネーションからインスピレーションを受けて始まったそうです。

LEDライト対策をホホジロザメで実験

実際にカウンターイルミネーションの応用を危険ザメに試した結果はどうだったのでしょうか?

実験が行われたのはホホジロザメが数多く生息する南アフリカのモーセル湾(モーセル・ベイ)です。

明るさ三段階でホホジロザメの反応を観察

研究チームはアシカを模した囮を用意し、何も取り付けない場合、LEDライトを取り付けた場合それぞれで、ホホジロザメが接触するのかどうかをテストしました。

さらにライトの強さは、

  • 薄暗い(dim)
  • 普通(moderate)
  • 明るい(bright)

の三段階それぞれで実験が行われました。

ちなみに僕なりに「接触」という訳を当てていますが、論文では「interaction」と表記されており、以下二つの行動をホホジロザメがした場合にカウントされました。

  • Breach:ホホジロザメが囮に向かって飛び上がり噛みつくorぶつかる。
  • Follow:ホホジロザメが水面から背鰭を出して囮を一定の秒数追いかける。
水面から勢いよく飛び上がるホホジロザメ

実験の結果

実験の結果、LEDなしの囮とLED有りの囮それぞれを船で引っ張ってサメの行動を比較したところ、どの明るさでもLED有りの方がサメの接触が少ないことが分かりました。

また、LEDライトが明るい方がサメの接触が少ないという傾向も判明しました。

ホホジロザメによる囮への接触回数を示すグラフ。『Counterillumination reduces bites by Great White sharks』Figure 1-Cをもとに作成。

さらに研究チームは、

  • 横に複数帯状にLEDライトを設置した囮
  • 帯状に設置してストロボ式で明滅させる囮
  • 横線上にライトを設置した囮
  • 縦線上にライトを設置した囮

など、複数のパターンを用意し、サメの接触がどう変化するかをテストしました。

すると、比較対象のライトなしの囮には変わらずサメが何度も接触しており、次いでストロボ型と縦線型が少しだけ接触あり、その他は接触ゼロという結果でした。

ライトの設置方法を変えて実験した結果を示すグラフ。『Counterillumination reduces bites by Great White sharks』Figure 2をもとに作成。

つまり、囮のお腹側全体を照らさなくても、サメの攻撃が減ったということになります。

研究チームはこれらの結果から、LEDライトによるカウンターイルミネーションにはホホジロザメの攻撃を防ぐ効果があるとしたうえで、それは背景に色を合わせて見えなくすることによる効果ではなく、光によって影の形を変えて混乱させることによる効果ではないかと推測しています。

LEDライトによるサメ対策を実用化できるか?

LEDライトによるカウンターイルミネーションにサメ避け効果があると示されましたが、この手法を実用化できるのかは別問題です。

今回の実験は

  • アシカを模した囮を使い、
  • 南アフリカ近海の、
  • ホホジロザメを対象に、

行われた実験でした。

そのため、これをサーフボードに取り付けても効果があるのか、他の海域に生息するホホジロザメや残り2種の危険ザメにも有効なのかは、まだ分かりません。

今回の実験をするにあたり、研究チームが南アフリカ当局にもちろん許可は得ていましたが、サーフボードや人間を使った実験の許可は下りなかったそうです。

また、先に触れたISAFにも携わっているギャビン・ネイラー博士はインデペンデントの取材に対し「ホホジロザメ用の対策をイタチザメに使った場合、結果は全く予測できない」という考えを示しています。

ホホジロザメもアシカ類ばかり襲うわけではありませんが、より食性の幅が広いと思われるイタチザメでどの程度効果を発揮するのか、この点は確かに検証が必要かと思います。

海鳥に向かって大口を開けるイタチザメ。通称「海のゴミ箱」と呼ばれるほど様々なものが胃から見つかる。

さらに、仮に実用化したとして、こうした対策を過信した結果が事故につながると危惧する意見もあります。

カリフォルニア州立大学ロングビーチ校でサメの研究をしているクリス・ロー氏はLA Timesの取材に対し、「こうしたものを手に入れた人の一部は、まるでスーパーマンのマントを着ているかの如く自分が無敵だと思い込む。その結果、サメが普段からエサを食べる場所でサーフィンをして、かえって事故のリスクを高めてしまう」と、このような対策を過信することへの懸念を示しています。

さらにロー氏は同取材の中で、

“How important is it that a shark can’t see you if it can still smell you and feel you,”

(サメに見られないことが、嗅覚を使って感じ取ることができる状況でどこまで重要なことなのか?)

Surfboard lights might deter shark attacks — but don’t bet your life on it』より引用。訳は筆者。

と投げかけており、サメの視覚に重きを置いた対策の有効性を疑問視しているようです。

確かに今回は船に引っ張られるだけの模型を使った実験なので、実際の人間が手足で水をかく動作をして水音をたて、汗などの生化学的な刺激も発している場合どうなるのかは未知数であり、さらなる検証が必要でしょう。

サメを傷付けないサメ対策の希望

この研究が今後どう生かされるのかまだ分かりませんが、サメを傷つけないサメ対策に繋がるかもしれないという点で僕は評価したいです。

南アフリカと同じくホホジロザメが数多く生息するオーストラリアでは、サメ対策(Shark Control)によって多くのサメ類および他の海洋生物が犠牲になっています。

特に問題視されているのがシャークネット(shark net)とドラムライン(drumline)です。

シャークネットはそのままサメ対策の網で、ドラムラインは釣り針に餌をかけた仕掛けを浮と錨などにつなげた放置式の罠です。

ドラムラインのイメージ

これらの対策は先程も紹介したホホジロザメ、イタチザメ、オオメジロザメ3種の他、危険とされるメジロザメ類の一部を対象としていますが、ターゲットではない海洋動物の混獲が多いという問題を抱えています。

オーストラリアのクイーンズランド州のサンシャイン・コースト市に設置されたシャークネットおよびドラムラインによって2023年に捕獲された動物の内訳を見てみると、捕獲された161匹の動物のうち、ターゲットのサメは48匹。残り113匹は他のサメ類、イルカ類、ウミガメ類、エイ類など、ターゲットではない動物でした。

なお、シャークネットやドラムラインにかかった動物は定期的な見回りやIT技術によってチェックされてリリースされることもありますが、先のデータではターゲット種のサメ48匹のうち32匹が死亡、非ターゲット動物については95匹が死亡しています。

このように、ターゲットではない動物たちが犠牲になることも問題ですが、仮にターゲットである危険ザメだったとしても、絶滅させるべきではない生物多様性の一部だということを忘れてはいけません。

オーストラリアの保全団体Humane Society International Australiaの一員である海洋学者ローレンス・クレベック氏もこれらの問題について以下のように述べています。

Non-lethal measures such as drone surveillance, personal shark deterrents, education and catch-alert drumlines are all far more effective at reducing the risk.

(ドローンによる監視、個々人での防御策、教育、捕まえたらすぐにアラートが鳴るドラムラインなど、サメの命を奪わない対策の方がはるかに有効である)

Animal welfare group speaks out about ‘cruel’ shark control program』より引用。訳は筆者。

今回のLEDライトを使った研究は、クレベック氏が言うところの「個々人での防御策」という部分に繋がるかもしれません。

人間だけでなくサメの命を守るためにも、こうしたサメ研究や対策の開発がもっと盛り上がれば良いなと思います。

参考文献

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