カワウソを飼うな!何故カワウソのペット飼育は問題なのか?「可愛い」の声に隠れた絶滅の危険と密輸の闇を徹底解説!【カワウソペット問題(前編)】

あなたはカワウソが好きでしょうか?

水族館・動物園で大人気なカワウソたち。その可愛すぎる姿、仕草に多くの人が魅了され、「カワウソを飼いたい」という声もよく耳にします。

しかし、当記事ではこのカワウソペットブームが完全にクソだということを徹底的に解説します。

この前半記事では「カワウソペット問題とは何か?」という概要と、カワウソ類の絶滅リスクや飼育の難しさ、密輸の問題などを解説していきます。

後半記事では、以前にカワウソペット問題を取り上げた際に寄せられた批判に、僕なりに回答を提示したうえで、動物園や水族館の取組みを紹介します。

この記事を読めば、カワウソYouTuberやカワウソカフェの影に隠れた闇についてご理解いただけると思いますので、ぜひ前後半合わせて読んでいただけると幸いです。

目次

解説動画:カワウソを飼うな!何故カワウソのペット飼育は問題なのか?「可愛い」の声に隠れた絶滅の危険と密輸の闇を徹底解説!【カワウソペット問題(前編)】【絶滅危惧種】

このブログの内容は以下の動画でも解説しています!

※動画公開日は2022年6月15日です。

カワウソペット問題の概要

カワウソペット問題を簡潔にまとめると、以下のような事態を指します。

  • マスメディアなどの影響で、絶滅危惧種であり飼育が難しい野生動物であるカワウソ類をペットにしようという需要が発生する。
  • 日本でのペット需要のために、野生のカワウソが乱獲・密輸などの被害に遭う。
  • そうして入手された非合法なカワウソが、国内の規制やトレーサビリティが不十分なために平然と売買される。
  • カワウソを購入した飼育者やマスメディアがさらに需要を煽り、さらにカワウソの闇取引が加速、不適切飼育の犠牲になるカワウソも増える。

もっとも、現在は国内の取引も規制されているので「平然と売買される」は過去形にすべきかもしれませんが(これについては後述)、一旦上記の流れに沿って深掘りしていきます。

カワウソの多くは絶滅危惧種

まず知っていただきたいのが、カワウソ類の多くがIUCNレッドリストから絶滅危惧種、またはこのままでは絶滅危惧種になってしまうという評価を受けていることです。

IUCNレッドリストにについておさらいすると、データ不足から絶滅の懸念が低いものも含め、あらゆる生物の絶滅リスクを各分野の専門家が評価した結果をまとめているデータベースを指します。

このIUCNレッドリストにおいて、カワウソ亜科というグループに分類される動物は、日本でペットとして人気なコツメカワウソを含め、ほとんどが絶滅の危機にあるという評価を受けています。

彼らを危機的状況に追いやっている主な原因は生息地の破壊と乱獲です。

河川や海岸などの水辺環境が開発や汚染で破壊されてしまうことで、カワウソが暮らせる場所が減ってしまっています。また、高次捕食者であるカワウソが生きていくには魚や甲殻類など様々な生物が豊富にいる環境が必要なので、こうした生物の減少も彼らに悪影響をもたらしています。

さらに、保温効果に優れた体毛をもつ大食漢のカワウソ類は、毛皮の原料や漁業を邪魔する害獣として、狩猟の標的にされてきました。また、カワウソの胆嚢が病気に効くという迷信にもとづいたインチキ医薬品の原料に使われたこともあります。

こうした原因により、世界的にカワウソたちは危機に陥っており、日本国内にいたニホンカワウソにいたっては絶滅してしまいました。

また、小さくて人気なコツメカワウソも、過去30年で野生の個体数が30%も減少したと推定されています。

ニホンカワウソの剥製。生存説も囁かれていますが、生息域の破壊や乱獲によって絶滅したとされています。

カワウソは飼育困難な野生動物

ここまで聞いただけでも「カワウソをペットとして売買すべきではない」とご理解いただける気がしますが、そもそもカワウソがペット向きではないことにも触れておきます。

カワウソがペットに向かない主な理由は以下の通りです。

鳴き声が大きい

カワウソは鳴き声が甲高くてデカいです。個体差もあるようですが、「フィー!!」というすごい大声を出し、住宅地で飼うなら騒音対策が必要になります。

噛む力が強く歯が鋭い

野生のカワウソは魚だけでなく貝類や甲殻類も噛み砕いて食べており、歯が鋭く噛む力も強いです。

小さくて可愛らしく見えるコツメカワウソも、大型犬用のオモチャを1日で破壊するほどのパワーを持っています。

そして、気に入らないことや危険を感じると、この牙で容赦なく噛みついてくるため、大怪我を負う恐れもあります。

エサを食べるユーラシアカワウソ。表面的な見た目が可愛くても、鋭い牙を持つ肉食獣です。

厳重な脱走対策が必要

手先が器用で好奇心旺盛なカワウソにとって、ドアノブを開けるなど朝飯前です。

ケージに鍵をかけても、簡単な仕組みのものであれば自分で開けてしまいます。

餌の用意が大変

カワウソ専用の餌も開発されていないため、淡水魚など、彼らが野生で食べているエサを用意する必要があります。

「基本はキャットフードを与えておけば問題ない」などと無責任なことを書いているサイトもありますが、こうした不適切飼育による健康被害が複数報告されています(詳細は後半記事にて解説)。

また、カワウソ類は体重に対して食べる量が多いため、同じ体重の他の哺乳動物よりもエサ代やストックする場所などが多く必要になります。

糞がベチョベチョで臭い

カワウソの糞は全体的に水っぽくて悪臭がヒドイです。

トイレを覚えるという人もいますが、縄張りを主張するために至るところで排泄するケースもあります。

大きな水辺の維持管理が必要

カワウソは水辺に暮らす動物で、半水棲と言ってもいいほど水中生活に特化しています。そして、本来の行動範囲は広く、活発な動物です。

カワウソを健康な状態で飼育するには、彼らがストレスなく動き回れるような大きなプールを用意する必要があり、それらを維持するためには莫大な水道代もかかります。

カワウソは半水棲の動物であり、飼育するなら大きな水辺は必須です。

適切な温度管理も必要

カワウソは世界中に仲間がいますが、ペットとして話題によく上がるコツメカワウソは東南アジアなど熱帯や亜熱帯が原産です。

日本の冬は彼らにとって寒すぎるため、飼育スペースの温度・湿度を本来の環境に近づけるなどの工夫が必要です。

扱える獣医が少ない

これはコツメカワウソ以外のエキゾチックアニマルにも同じことが言えますが、カワウソを専門で見られる獣医さんは非常に限られています。そのため、病気やケガをしても犬猫のように治療できない可能性が高いです。

また、家畜化されていない野生動物なので、体調不良があっても基本は隠そうとします。

そのため、適切な体調管理をするために日々のチェックやそれを行うためのトレーニングなど、プロの飼育者並みのスキルが求められます。

ユーラシアカワウソ。芸をしているように見えますが、こうしたトレーニングを通して健康チェックを行います。

以上が、カワウソがペットに向かない理由です。

一つ一つは他の動物に当てはまったとしても、ここまで悪条件が揃っている動物はなかなかいないと思います。

実際の飼育員さんのお話を聞いたこともありますが、カワウソはとてもペットとして飼えるような動物ではありません。

マスメディアによるカワウソペットブームへの影響

カワウソは絶滅危惧種であり飼育が難しい野生動物ですが、何故ペットブームが日本で起きてしまったのでしょうか?

一番最初の根本要因は分かりませんが、マスメディアの影響は大きかったと思います。

2007年~2014年の間、日本テレビの『天才!志村どうぶつ園』という番組が、芸能人がカワウソと一緒に過ごす様子を放送し続けました。

この企画放送当初はコツメカワウソは絶滅危惧種という扱いではなかったはずですが、放送中の2008年、IUCN Redlistの評価がNT⇒VU、つまり、より危機的な状況だという評価に引き上げられました。

しかし、番組ではカワウソの可愛さだけを全面に押し出し続け、保全や適正飼育の問題にはほとんど触れてきませんでした。

もちろん、この番組が唯一の原因で諸悪の根源とは言いませんし、「テレビで見て可愛いと思ったから飼いたい」と思う安直な視聴者にも問題があると思います。

しかし、この番組放送後から、カワウソを検索する時の関連ワードとして「価格」や「飼い方」などの単語が多く上がるようになり、実際にカワウソを飼育しているYouTuberなどを対象にした調査でも、複数人がこの番組を観たと証言しています。

さらに、この後紹介するカワウソの輸入や違法取引も、カワウソ企画放送開始の2007年頃から増え始めています。

カワウソ類の商業取引や密輸が番組企画の放送後に急増している。

こうしたことを踏まえると、『天才!志村どうぶつ園』によるカワウソペットブームへの影響は否定できないと思います。

そして、マスメディアなどの影響を受けてカワウソを飼い始めた飼育者自身が、YouTubeや TwitterなどのSNSを通してカワウソペット需要をさらに煽っていくことになりました。

カワウソの闇取引と規制不足

マスメディアやSNSの影響でペット需要が高まったカワウソたちで儲けようと、浅ましい人々がカワウソの闇取引に手を染めはじめました。

2019年まで、コツメカワウソを含む一部のカワウソ類は、ワシントン条約の附属書IIに掲載されていました。

ワシントン条約(正式名称:the Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora)についておさらいすると、絶滅の危機にある野生生物が国際取引で過度に利用されないよう規制する取り決めです。

サメ社会学者Ricky

頭文字をとって「CITES(サイテスorサイティーズ)」とも呼ばれます。

ワシントン条約では、さまざまな生物が附属書と呼ばれる規制内容の異なる3つのリストに分けられて掲載されています。

附属書IIに載っている生物は許可証や手数料の支払いが必要ですが、商業取引自体は可能です。そのため、コツメカワウソを販売用に輸入すること自体は当初違法ではありませんでした。

しかし、日本でのペット需要に伴い、コツメカワウソの輸入数が増加。特に先に述べた番組放送後の2009年あたりから商業取引が急増しています。

そして一番の問題が、ワシントン条約の取り決めに違反する取引が多発したことです。

カワウソの密輸

まず、許可を得ていない個人や業者がカワウソを密輸する事例が数多く摘発されました。

2000~2017年にかけて日本が関与した国際的な違法取引において、52頭のカワウソが密輸未遂で保護・押収されています。

これらは押収・発覚した事例なので、これ以上に密輸された個体がいたと思われます。

虚偽申請により輸入されるカワウソ

また、ワシントン条約に基づき許可を得ている場合も、密猟された個体を施設内で繁殖したものだと偽って輸入したり、動物園や水族館での飼育目的として申請された個体がペットショップで販売されていた事例もありました。

実際、出所を「飼育繁殖施設」や「輸入」としながらも、具体的な施設名や輸入個体の出自などを明らかにしない業者も多く、不透明な取引が常態化していた可能性は非常に高いです。

国内に入れば全て合法

もちろんこれらは条約に違反していますが、日本国内でのカワウソ取引は極めて不透明であり、いわゆるトレーサビリティが確立していませんでした。

また、日本ではワシントン条約附属書Ⅱに掲載された生物というだけでは国内取引を規制できません。

こうした状況のため、密輸だろうと虚偽申請だろうと、一度国内に入ってしまえばすべて合法的に取引し放題になったんです。

カワウソの密輸・虚偽申請の図解イメージ

コツメカワウソは現地で数千円で手に入るのに対し、日本での販売価格は100万円を超えることもあるので、「金さえ手に入れば保全も規制も関係ない」という下劣な業者にとって、絶好のビジネスチャンスだったと思われます。

そして、そうしたカワウソたちを飼育するインフルエンサーやカワウソカフェがカワウソの可愛い側面ばかりを強調する発信を行い、ブロガーたちもカワウソの飼い方などを紹介することでそれに便乗し、さらに需要を煽っていくという悪循環になってしまいました。

附属書Ⅰ掲載によるカワウソ取引の規制強化

このカワウソペット問題は2019年に大きく進展しました。

ワシントン条約の締結国会議にて、それまで附属書Ⅱに掲載されていたコツメカワウソとビロードカワウソを附属書Ⅰに掲載する案が8月に採択、同年11月に発効されました。

附属書Ⅰに掲載された生物は、商業目的の国際取引は原則禁止されます。

さらに、日本では種の保存法に基づき、附属書Ⅰに掲載された生物は国内取引も規制対象になります。

すでに国内にいる個体や国内で繁殖した個体は申請をすれば販売・譲渡などが可能なものの、この附属書Ⅰ掲載により、国内のカワウソ取引が厳しく管理されることになりました。

しかし、これでカワウソペット問題が全て解決したとは思いません。

カワウソペット問題を起こした要因の一部を以下に並べてみます。

  • 野生動物と品種改良された動物の違いも分からず、生物多様性保全の重要性も理解していない大多数の一般人
  • そうした大衆へのウケだけ考えて不適切な情報やイメージを垂れ流すマスメディア
  • 同じような思考回路でペット動画や紹介記事の量産を続け需要を煽る飼育者やブロガー
  • 売れればいいと考えている強欲かつ無責任な販売業者

カワウソペット問題を引き起こした根本原因は、どれも改善されてはいません。

コツメカワウソの飼い方を紹介するサイトも今はワシントン条約で規制されている事実に触れていますが、そうした動物をペットとして求める是非について論じることはありません。

規制についても、「許可証の提示を求めて正規のカワウソを購入するようにしましょう」などと述べており、あくまで「買うために気を付けるべきこと」という扱いです。

また、カワウソをペットにしているYouTuberの中には密輸問題に触れている人もいましたが、そのコメント欄を見ていると、カワウソの保全やエキゾチックペットの問題について関心があると思えるものはほぼありませんでした。

あくまで「自分がアイドル視しているカワウソちゃんが合法かどうか」ということしか眼中にないようです(違法だったとしても「飼い主さんは悪くない!」とか言うんでしょうが・・・)。

繰り返しますが、カワウソペット問題は何も終わっていません。

むしろ、他のエキゾチックアニマルで同じ過ちを繰り返さないよう、啓発を続ける必要があると僕は考えています。

参考文献

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