巨大深海ザメ!オンデンザメの寿命も400歳を超えるのか?世界一泳ぎが遅い?ニシオンデンザメの違いをはじめその生態を徹底解説!

一般にサメと言えば、なんとなく夏の温かい海のイメージがあると思いますが、多種多様なサメの中には水温が低い海域や暗い深海に生息する仲間も多いです。

その中でも今回紹介するのは、全長7mになることもあるとされる巨大ザメ、オンデンザメです。

「ニシオンデンザメというサメが400歳以上生きる」という話は割と有名になりましたが、果たして「ニシ」のつかないオンデンザメはどんなサメなのか?

今回は謎に満ちたオンデンザメの特徴、生態、寿命や遊泳速度について盛り沢山で解説していきます!

目次

解説動画:【巨大深海ザメ】世界一泳ぎが遅い魚のオンデンザメは400歳生きるのか?ニシオンデンザメとの違いも徹底解説!【深海生物】

このブログの内容は以下の動画でも解説しています!

※動画公開日は2022年2月5日です。

オンデンザメはどんなサメなのか?

オンデンザメは、ツノザメ目オンデンザメ科に分類されるサメです。

北太平洋の海に生息し、日本でも駿河湾や富山県沖などで確認されています。

一般にオンデンザメは「深海ザメ」として紹介されることが多いですが、彼らにとって大事なのは深さよりも水温のようで、冷たい海域であれば水深が浅い場所にも現れます。

全長は大きいものだと4mを超え、最大では7mにもなるとされています。ただ、どれくらいの大きさで生まれるのか、どれくらいで成熟するかなど、分かっていないことも多いです。

そんなオンデンザメの全体像は以下の通りです。

  • 吻先が丸みを帯びているどこかとぼけたような顔
  • 背鰭が大きな三角形ではなく、胸鰭もちょこんとした印象
  • ツノザメ目の仲間ではあるが、背鰭には棘はない。
  • 団扇のような形をした尾ビレ

世間的なイメージからすれば「変わったサメ」ということになると思います。どこかとぼけたよう顔は”凶悪な人食いザメ”というより、間の抜けたアザラシみたいに見えます。

オンデンザメは何を食べているのか?

オンデンザメは幅広い種類の動物を食べています。

オンデンザメの歯を見てみると、上顎歯がナイフ状の歯、下顎歯が幅広のカミソリのような歯になっており、大きな肉でもスパッと切り裂けそうな形をしています。

オンデンザメの歯

実際に食べているものを挙げると、オヒョウなどカレイの仲間、サケ、イカやタコ、甲殻類などなど・・・。アザラシやオットセイの肉が胃の中から見つかったこともあります。

流石にヒトを食べた事例は聞いたことありませんが、意図的に与えたら普通に食べると思います。

彼らが生きている低水温環境は大型の獲物が沢山いるような場所ではないので、「とにかく何でも食べる」というスタイルではないと生き残れないのでしょう。

このように、口に入るものであればえり好みせずに食べる動物はOpportunistic predator(日和見的な捕食者)と呼ばれます。

オンデンザメの肉は不味い?

オンデンザメが何を食べるかを紹介しましたが、逆にオンデンザメの肉は美味しいのか?恐らく食べる機会はほぼ無いと思いますが、気になると人もいると思います。

結論から言うと、無理して食べるものではないです。

料理次第かもしれませんが、あまり良い食材とは言えないと思います。

以前、最高に美味しい寿司や和食を作ってくださるサメ仲間の方にオンデンザメ料理を振舞っていただいたのですが、肉を味見した際に「素材の味を活かしてはいけない」と感じたそうで、オンデンザメのお肉入りあんかけ焼きそばになって出てきました。

どうも水っぽすぎるためなのか、そのままだと使い物にならなかったらしいです。

もちろん、作った方の調理が素晴らしかったので美味しく頂きましたが、オンデンザメ感はありませんでした。

自分で調理して食べた人という方のブログでも「油on脂」とのことで、あまり良い評価ではなかったです。

もしオンデンザメが手に入っても、味は期待しない方が良いと思います。

ニシオンデンザメとの違い

オンデンザメに名前が似ていて、恐らくオンデンザメよりも有名なのがニシオンデンザメです。

以前の記事で詳しく取り上げましたが、「400歳以上生きる、世界一のろまな巨大ザメ」として、数多くのメディアで紹介されています。

ニシオンデンザメが有名すぎて、オンデンザメの紹介文なのにニシオンデンザメのことが書いてある、なんてこともしばしばです。

では、両者は何が同じで、何が違うのでしょうか?

生息域

まず違うのは生息域です。

ニシオンデンザメの「ニシ」は大西洋の「ニシ」を指していて、実際彼らは北大西洋の冷たい海に分布しています。

一方のオンデンザメは、太平洋に棲んでいます。

もちろんこれは太平洋側にいる日本都合の呼び分けなので、英語でニシオンデンザメは「Greenland shark」と呼ばれます。

ただし、北極海においてオンデンザメとニシオンデンザメの生息域は一部重なっており、雑種がいるという報告すらあります。

見た目

次に見た目についてですが、見た目はほとんど変わりません。

複数の図鑑で専門家の見解を確認すると、以下の見分け方が紹介されています。

  • オンデンザメは両背鰭間の距離が、吻端から第一鰓孔までの距離の約7割で、ニシオンデンザメはこれら二つの距離がほぼ等しい。
  • オンデンザメは吻端から第一背鰭始まりまでの距離が全長の44%以上であり、ニシオンデンザメは44%以下である。

もうお分かりかと思いますが、肉眼だけで見分けるのは無理です。

しかも、この見分け方も”諸説あり”などと言われ、「実際種を分けるべきなのか?」と疑問視する専門家すらいます。

なお、ニシオンデンザメの多くは片方あるいは両方の目に、コペポーダと呼ばれる甲殻類の寄生虫がついていることが有名ですが、実はオンデンザメもよく目玉に寄生虫をぶら下げています。

正直なところ、生息域を伏せられた状態で両種を見分けるのはかなり難しいと思います。

オンデンザメも400歳生きるのか?

ニシオンデンザメとの関連で気になるのが、オンデンザメも長生きかどうかです。

ニシオンデンザメの眼球を調べ、炭素の放射性同位体を使った年代測定を行った研究によれば、全長2mの未成熟個体ですでに年齢が50歳以上、全長約5mのメスの年齢が392歳でした。

この計算方法には120年ほど誤差が生じることもあるそうですが、短く見積もった平均寿命でも272歳。

それまで脊椎動物最長とされていたホッキョククジラの211歳を超えており、ニシオンデンザメは脊椎動物で最も長寿な生き物とされています。

オンデンザメでも同じように水晶体の炭素を調べれば寿命が分かりそうですが、そうした研究が公開されたというニュースは聞きません(2022年9月現在)。

オンデンザメとニシオンデンザメを混同して長寿説を安易に唱える人もいますが、科学的にはまだ証明されていないというのが現状です。

ただし、今回の記事でも写真を載せている、ふじのくに地球環境史ミュージアムに展示されているオスの標本を見てみると、全長2.8mという大きさにもかかわらずクラスパーがかなり小さく見えます。

ふじのくに地球環境史ミュージアムに展示されているオンデンザメのクラスパー。

サメによりクラスパーの太さや長さは異なるのでハッキリとは言えませんが、3m近いサイズで未成熟であり、最大で7m近くにまでなるとすれば、成長までかなり時間がかかると思われます。

そして、オンデンザメも低水温環境に生息するため、代謝速度が遅いはずです。

以上を踏まえると、オンデンザメも100年単位の長生きをする可能性は十分にありそうですね。

オンデンザメは世界一遅い魚?

オンデンザメの遊泳速度について、近年面白い研究成果が発表されました。

2016年にJAMSTECが、駿河湾にてベイトカメラを使った調査を実施しまし(餌を設置してそれに集まってくる深海生物を撮影して調べる手法です)。

駿河湾の水深約600mにベイトカメラを設置したところ、全長約3mのオンデンザメが確認されました。

このオンデンザメがカメラの周りでエサかごをつついたり別のカメラの前に現れたりする様子から、彼らの遊泳速度が計算されました。

JAMSTECが行った実験のイメージ図。

BC1で姿が見えなくなってから436m離れたBC2に現れるまでの時間、およびカメラ内に映っていた幅30cmのエサかごを通り過ぎるまでの時間。これらを潮の流れなどを考慮に入れて計算したところ、その遊泳速度は約秒速25cm。餌を前にした巨大捕食者としては、あまりにも遅いことが分かりました。

ちなみに、オンデンザメと同じくらい大きいが体温が高いホホジロザメは時速約7㎞、秒速に直すと約2mほどです。さらに言えば、人間の歩行速度が秒速約83cm。

こうした数値と比較すると、オンデンザメがいかに遅いかが分かると思います。

今回の研究はオンデンザメの遊泳速度を計測した世界初の取り組みですが、以前別の研究で計測されたニシオンデンザメの遊泳速度も秒速21〜34cmほどでした。

これにより、両者ともに世界で最も遅い魚類ということが判明しました。

一応補足をしておくと、体が小さいものを含めて絶対値で見れば、オンデンザメやニシオンデンザメよりも遅く泳ぐ魚は存在します。

しかし、基本的に体重が大きい(つまりデカい魚)であればあるほど速く泳ぎます。

オンデンやニシオンデンが世界一遅いというのは「全長3~4m以上という巨体であるにもかかわらず遅すぎる」という体重比率での話です。

暗い中から動きが遅いのか?

遊泳速度だけでも興味深いですが、これらの事実をもとにJAMSTECは「オンデンザメの遊泳速度が遅いのは「視覚的相互作用」によるものではないか?」という仮説を提唱しています。

視覚的相互作用仮説とは「光があまり届かない深海の場合、捕食者と獲物の距離が近くなり、素早く泳ごうという選択圧が低下する」というものです。

もう少し噛み砕いて説明します。

光が十分に届く環境なら、お互いの姿がかなり遠くから認識できます。

距離が十分に空いた状態でお互いを認識するので、獲物を追いかけたり、自分を狙う捕食者から逃げるために、より速く活発に動くことができる生物が自然淘汰で生き残りやすくなります。

しかし、光がほとんど、あるいは全く届かない環境であれば、遠くからの認識が難しく、自然とお互いの距離が近くなります。

その場合、追跡や回避のために活発に遊泳することの重要性が下がり、運動能力が低い生物が淘汰されにくい、あるいはむしろエネルギー消費をおさえられるから生き残りやすいという状況が生まれます。

このような理由から「光の少ない環境にいる生物の代謝速度が低下し、それが彼らの遊泳速度が遅い理由である」と主張するのが視覚的相互作用仮説です。

実際に魚類、頭足類、甲殻類など視覚に依存している生物たちは、水深が下がる(届く光量が少なくなる)ごとに代謝速度が落ちていくのに対し、クラゲやゴカイなど視覚に依存しない生物たちにはその傾向はありません。

ニシオンデンザメの遊泳速度が遅いのは、外水温が0℃という超低水温により代謝速度が著しく低下することが原因とされていましたが、今回オンデンザメが観察された駿河湾の深海は水温が5℃以上ありました(人間からしたらどちらも極寒の海ですが、水温5℃の差は大きいです)。

にもかかわらず、ニシオンデンザメとオンデンザメで遊泳速度に差がなかったことから、遊泳速度が遅い理由は視覚的相互作用仮説で説明できるかもしれないとJAMSTECは考えているようです。

この視覚的相互作用仮説についてはまだ研究が必要だと思いますが、このようにオンデンザメのような高次捕食者の生態を解明することは、海の環境を知るうえで重要です。

オンデンザメは美味しくないという話をしましたが、そのほかの美味しい深海魚、そして深海以外に住む水産資源は、オンデンザメのようなハンターたちとどこかでつながっています。

また、地球規模の環境変動の影響は、まず大型捕食者に現れることも多いです。

豊かな海を守るためにも、オンデンザメの謎がもっと解明されていけば良いなと思っています。

参考文献&関連書籍

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