僕が普段から紹介するサメは「人を襲う危険生物」というイメージが世間で根強いですが、実はサメよりも恐ろしい危険な動物が僕らの身近にいます。
それが、犬です。
何かの比喩ではなく、本当にワンちゃんのことを話しています。
もちろん全ての犬が危険というわけではないですが、犬がサメよりも遥かに多くの人命を毎年奪っていることは確かです。
そして、犬をそんな危険生物にしている大きな要因の一つが狂犬病ウイルスです。
2020年にも愛知県で狂犬病の発症が確認され、つい最近もウクライナから避難してきた方の犬が狂犬病予防法に基づき隔離されたというニュースが物議を醸しました。
- 狂犬病はどれほど恐ろしいのか?
- どのように対策すればいいのか?
- 日本は安全なのか?
コロナパンデミックの影響で「ウイルス」や「ワクチン」というテーマの議論が絶えない今、こうしたことを学びなおす意味は大きいと思いますので、僕なりに解説させていただきます!
解説動画:致死率100%?狂犬病ウイルスはサメよりも恐ろしいのか?日本の現状や予防接種についても解説!
このブログの内容は以下の動画でも解説しています!
※動画公開日は2020年5月27日です。
狂犬病とは何か?
狂犬病とは文字通り、狂犬病ウイルスという病原体によっておこる感染症を指します。
狂「犬」病とついているので、ワンちゃんだけが感染源だと誤解している人も未だにいますが、狂犬病はヒトを含むすべての哺乳類が感染します。
感染の主な原因として挙げられるのは、どこかで狂犬病に感染した動物に噛まれることです。
唾液に含まれるウイルスが傷を通して体内に侵入してしまいます(噛まれなくても感染の危険はあります)。
体内に侵入したウイルスは、神経を伝わり唾液腺を含む全身に広がります。
動物により潜伏期間は異なりますが、人間であれば1~3か月程度で症状が現れることが多いです。ただし、1年以上経過してから発症した事例もあり、発症前に感染の有無を確認する手段はありません。
発症すると発熱・食欲不振・不安感などに始まり、異常行動・幻覚・痙攣・麻痺などの症状に苦しみます。やがて昏睡状態に陥り、最終的には死に至ります。
この病気が「狂犬病」と呼ばれる理由は、感染した動物が非常に攻撃的になることから来ています。
犬などの動物が狂犬病に感染すると、口周りの筋肉が麻痺してヨダレを垂らしっぱなしになり、徘徊した先で出会った他の動物(人含む)に噛みつこうとします。
狂犬病ウイルスは唾液を通して広がりますから、こうした症状を起こすのは彼らなりの拡大戦略と言えるでしょう。
また、「水を飲もうとすると体が痛み水分摂取を拒否する」や「水の音などを過剰に怖がる」などの症状が現れることもあります。恐らくこれも、唾液を分泌させることに関係していると思われます。
こうした症状が現れることから、英語では狂犬病のことを“hydrophobia(水恐怖症)“と呼ぶことがあります。
日本語で「恐水症」と言った場合は狂犬病に感染した際の症状の一つを指しますが、”hydrophobia”は”rabies”と同様に狂犬病そのものを指すこともあるようです。
狂犬病は中枢神経で増殖することにより、今回挙げたもの以外にも様々な症状を引き起こします(風などに過敏に反応する「強風症」など)。また、こうした行動を起こさずに最初から麻痺状態になってしまう事例も存在します。
致死率ほぼ100%の恐怖
狂犬病の非常に恐ろしい点は、治療法が存在せず、発症したらほぼ100%死に至るということです。
「ほぼ」と聞くと、「じゃあ一応助かる事例もあるんだ」と楽観視しそうですが、そんな甘いものではありません。
ここで言う「ほぼ」は、毎年5万人以上が狂犬病で亡くなっている中、発症してから生き残った人が歴史上6人しか確認されていないというレベルの「ほぼ」です。
つまり、生き残った人が一応いるから「絶対」と言えないだけで、発症後の死亡率は実質100%です。
これは脅しでも誇張でもなく、厚生労働省の公式HPにも「効果的な治療法はない」・「ほぼ100%の方が亡くなります」と明記されています。
つい最近確認された新型コロナウイルスも治療法がまだ確立されていませんが、狂犬病は大昔から存在が知られていました。
諸説ありますが、紀元前の文書記録に狂犬病の存在を匂わせる記述があり、日本最古の医学書『医心方』にも狂犬病に関する記述がみられます(当時の日本で蔓延状況はは不明)。
狂犬病は、古代の知恵から最新医療まで、あらゆる人間の力をもってしても未だ克服できていない恐ろしい病なんです。
しかし、死亡率が100%になるのは発症後の話であり、発症する前にワクチンを接種することで発症を抑えることは可能です。
狂犬病のワクチンには暴露前に接種するものと、暴露に発症を抑えるものの両方があります。ただし、暴露前にワクチンを接種していても、万が一野犬に噛まれる等して感染の疑いがある際は暴露後のワクチン接種も必要です。
狂犬病はサメより怖い?
ここまで狂犬病の解説をしてきた僕ですが、普段はサメについて発信しています。
サメと言えば未だに『ジョーズ』をはじめとする”人食いザメ”のイメージが強いですが、実は世間で思われているよりもサメによる死者数は少ないです。
かの有名なビル・ゲイツ氏の財団がまとめた”The deadliest animal in the world“(通称「世界で最も多く人を殺している生物ランキング」”には、サメとイヌの両方がランクインしています。
それぞれの年間死者数は以下の通りです。
- サメ:年間約6人
- イヌ:年間2万5000人
死亡者数だけで言えば、ワンちゃんの方が圧倒的に恐ろしい危険生物ですね。
ここまでイヌの死亡者数を跳ね上げている大きな要因が狂犬病です。
先述の通り狂犬病は犬以外にもネコ、アライグマ、コウモリなどあらゆる哺乳動物から感染しますが、主な感染源はイヌであり、特にアジアではイヌによる感染が多いです。
僕の発信を見てくださっている方には海外にダイビングに行くという人も多いと思いますが、サメに食われるよりも現地の野犬に命を奪われる危険性の方がずっと高いです。
くれぐれもご注意を・・・。
数少ない清浄国である日本
狂犬病がいかに恐ろしいかは分かりましたが、日本でその驚異を身近に感じることはないでしょう。
実は、日本では1956年に一人の死亡が確認されて以降、国内で狂犬病が確認されていません(2022年4月現在)。
厳密に言えば、狂犬病による死亡者自体はその後も日本で出ていますが、全て海外で感染したことが判明しています。
こうしたことから日本は狂犬病清浄国と呼ばれますが、これは世界的に見ればかなり珍しい快挙です。
先ほど毎年5万人以上が死亡していると言いましたが、世界のほとんどの国は未だに狂犬病に苦しんでいます。
日本、イギリス、オーストラリアなど一部の国々以外は清浄国ではありません。
日本にもかつては狂犬病が存在し、野犬に噛まれただけで命を落とす人たちが沢山いました。
しかし、狂犬病予防法などの対策ができたこともあり、清浄国になることができたんです。
予防接種は絶対です
狂犬病についてどうしてもお願いしたいことがあります。
飼っているワンちゃんには絶対に狂犬病ワクチンの予防接種を受けさせてください。
これは個人的なお願いではありません。予防接種は狂犬病予防法で定められた飼い主の義務です。
犬を飼う場合は市町村に犬を登録し、狂犬病の予防接種を必ず受ける必要があります(一回だけでなく毎年の接種が義務です)。
ペットの安全と健康はもちろん、公衆衛生のことを考えれば至極当たり前の話なのですが、この予防接種を受けさせない恐ろしい人たちが一定数存在します。
受けさせない人たちの理由としては、以下のようなものが挙げられます。
- 室内犬だから必要ないと思っている。
- お金がかかるから。
- 何で犬だけなのか納得できない。
- 高年齢や病気などで受けさせていいか心配。
- 反ワクチンという自分の思想をペットにも押し付けている。
これについて僕なりに回答を提示します。
- 室内犬だから必要ないのでは?
-
散歩する時外出ますよね?災害などで脱走する可能性もゼロじゃないですよね?いいから黙って接種してください。
- 毎年ワクチン打つ度にお金がかかるじゃん・・・
-
年間3,000円程度なのでいいから払ってください。この程度をケチるマインドや家計状況ならそもそもペットを飼うべきではないです。
- 何で犬だけが接種しないといけないの?
-
狂犬病の主な感染源が犬であることが理由です。他のペットに対象を拡大することはあっても、犬の接種をなくす選択肢はあり得ないでしょう(個人的にはネコも義務付けるべきだと思います)。
- うちの子は高齢だし持病もあるから副作用とか心配。
-
健康上の理由であれば、獣医師の判断により接種を猶予することが可能です。ただし、その場合も証明書を役所に提出する必要がありますし、猶予の起源は1年間です。
- ワクチンは毒だし利権だから打たない。自然のものを食べていれば平気。
-
反ワクチンという思想自体が頭悪すぎるし、集団免疫の観点からもマジ迷惑なのでペット以前に自分の脳味噌をどうにかしてください。あなた自身も自分が打つべきワクチンを打ってください。
清浄国の地位は絶対ではない
日本では狂犬病の脅威が一時的に過ぎ去ったのが裏目に出たのか、狂犬病を軽視するような意見を聞くことがあります。
先日、ウクライナ侵攻から犬を連れて避難してきた女性がニュースで取り上げられた際も、そのように感じる声が意見が見受けられました。
戦争という最悪の惨禍から逃げてきたのに、検閲として愛犬と180日も離れ離れになり、さらに期間中の世話を委託する費用を請求される女性の悲痛な声には、確かに辛いものがあります。
しかし、「法律の壁」や「殺処分の危機」など、検閲自体に問題があるかのような見出しには強い違和感を覚えます。また、「戦争という非常時だから例外を!」という声にも僕は断固反対です。
そもそも悪いのは戦争ですし、僕自身も実家にポメラニアンがいる身として心苦しいですが、狂犬病はそうまでしてでも絶対に侵入を許してはいけない危険な病気なんです。
日本は清浄国としての地位を確立しましたが、近隣諸国では依然として狂犬病が蔓延しています。グローバル化した現代において、いつ日本に入ってきてもおかしくはありません。
現に、それまでの約50年間発生を防いできた台湾で2013年に国内感染が確認されています。
そもそも絶対に入ってこないよう対策をする必要がありますし、万が一狂犬病が日本に入ってきてしまった時の拡大を防ぐため、狂犬病ワクチンの接種が今でも必要です。
「日本では狂犬病の事例がもうないから予防接種しなくていい」というのは、「ダイエットに成功したから朝マック・昼ミスド・夜は次郎ラーメンにしても平気」と言ってるようなもので、気を緩めれば最悪のリバウンドが待っています。
ハッキリ言いますが、正当な理由なく狂犬病の予防接種を飼い犬にしないことはバイオテロ級の迷惑行為であり、飼い主として完全に終わっています(もちろん反ワクチン思想は正当にはなり得ません)。
公衆衛生や順法意識以前の問題として、もし愛するワンちゃんが感染すれば、苦しんだ末に最期を迎えるか無条件で殺処分になるという最悪の結末を想定すべきです。
愛するペットと僕たちの安全のため、予防接種は絶対に受けましょう。
参考文献
- Bill Gates『Why I’d rather cuddle with a shark than a kissing bug』2016年(2022年4月18日閲覧)
- 北九州市役所『狂犬病について』2019年(2022年4月18日閲覧)
- 厚生労働省『2013年07月24日更新 台湾で狂犬病の野生動物が確認されました (更新1)』(2022年4月18日閲覧)
- 厚生労働省『狂犬病に関するQ&Aについて』(2022年4月18日閲覧)
- テレビ朝日『「愛犬を助けて」ウクライナ避難者の負担…1日3000円 ペットに「法律の壁」』2022年(2022年4月18日閲覧 現在はリンク切れ)
- 東京都福祉保健局『日本における狂犬病の発生状況』(2022年4月18日閲覧)
- 西園晃『狂犬病、狂犬病ワクチンについて』(2022年4月18日閲覧)
- 老犬ケア『老犬の狂犬病予防接種やワクチン接種は必要?』2018年(2022年4月18日閲覧)
※本記事は2022年3月までにWebサイト『The World of Sharks』に掲載された記事を加筆修正したものです。
※狂犬病の対策、予防接種、野生哺乳動物に噛まれた際の対処については、必ず担当省庁や獣医師など専門機関の情報も確認するようお願いいたします。
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