前回の記事では、ノコギリエイとノコギリザメの見分け方や、ノコギリエイが絶滅危惧種であることを紹介しました。
今回は、そんな珍しいノコギリエイが3種も展示されている水族館と、それぞれの特徴や見分け方を紹介していきます!
ノコギリザメとノコギリエイは容易に見分けられる人でも、ノコギリエイ同士の違いは分からないという方も多いので、これを機に3種だけでも学んでいただければ幸いです。
解説動画:世界でここだけ?マクセルアクアパーク品川にいるノコギリエイを徹底解説!水族館デートで自慢できる3種の見分け方も紹介!
このブログの内容は以下の動画でも解説しています!
※動画公開日は2022年5月18日です。
取引を規制された絶滅危惧種
見分け方紹介する前に、ノコギリエイが3種も見られるというのが如何に凄いことか確認しておきます。
結論から言えば、ノコギリエイは国際取引が禁止されており、日本国内にも生息していないので、超激レア生物なんです。
前回記事のおさらいですが、現在ノコギリエイは2属5種全てがIUCN Redlistにおいて絶滅の危機にあるという評価を受けており、ワシントン条約の付属書Ⅰに掲載されています。
ワシントン条約は、絶滅の危機にある野生生物の国際取引を規制する条約です。規制の対象になる生物が附属書と呼ばれる三つに分かれたリストに掲載されています。
附属書Ⅰはその中で一番規制が厳しいリストであり、掲載されている生物は商業目的の国際取引が原則禁止されています。
つまり、ノコギリエイの仲間を新たに輸入することは実質不可能なんです。
ちなみに、附属書Ⅰにはシーラカンスやジャイアントパンダなど有名な生物が数多く掲載されていますが、板鰓類(サメ・エイの仲間)で附属書Ⅰなのはノコギリエイの仲間だけです(2022年5月現在)。
ホホジロザメやジンベエザメも絶滅が心配されていますが、ノコギリエイはそれ以上に規制を強めるべき存在とされているんです・・・。
日本に野生のノコギリエイはいない
「国外から輸入することが無理なら日本国内はどうなのか?」という考えも浮かぶかもしれません。
しかし、ノコギリエイが現在日本に生息している可能性は限りなくゼロに近いです。
前回の記事で見分け方を紹介したノコギリザメの仲間であれば、日本近海に生息しており、ものすごく珍しいというわけではありません。
しかし、ノコギリエイは日本で野生個体が目撃や捕獲された事例はほぼありません。
一件だけ、1975年に八重山諸島でラージトゥースソーフィッシュ(Pristis pristis)と思しき記録がありますが、何らかの理由で遠くから流れ着いた例外的なものだと思います。
もちろん、外洋や深海に生息する生物なら見つかっていないだけの可能性もありますが、ノコギリエイは熱帯・亜熱帯の沿岸や河川に暮らすエイです。
日本でいるとすれば沖縄ですが、もし沢山いるなら、オオメジロザメのように頻繁に見つかっているはずです。
参考文献内ではPristis microdonの可能性が高いと記されていますが、現在Pristis microdonはPristis pristisのシノニムとされているため、本記事内ではラージトゥースソーフィッシュ(Pristis pristis)として紹介しています。
ノコギリエイはラッコ以上に貴重な存在
ここまでの話をまとめると、ノコギリエイは日本近海に生息していないうえ、個体数激減によって国際取引も禁止されている生物ということになります。
そのため、現在水族館で飼育されている個体が全て死亡した場合、生きたノコギリエイを日本で見る機会は恐らく二度とありません。
同じような境遇の動物として有名なのはラッコですが、ラッコは野生個体郡が北海道に定着しつつあるので、水族館で見られなくなっても一応日本国内で会いに行ける可能性があります。
ノコギリエイは日本の野生個体に会いに行くことすら不可能なので、ラッコ以上に貴重と言えるでしょう(ラッコほど人気かは別の問題です)。
だからこそ、ノコギリエイを水族館で今見られるのは奇跡的であり、ノコギリザメと勘違いしたまま終わってしまうのは、非常にもったいないことなんです。
ノコギリエイに会える水族館
ノコギリエイの展示が貴重なのは分かりましたが、一体どこで会えるのでしょうか?
2022年5月現在、生きたノコギリエイに会えるのはマクセルアクアパーク品川だけです。
※登別マリンパークニクスと伊勢シーパラダイスでもまだ飼育はしているはずですが、現在は企画展などの都合で一般客が観ることはできません。
そして、マクセルアクアパーク品川では、5種いるノコギリエイのうち3種も見ることが出来ます!
しかも、そのうち1種は日本はおろか世界でここだけの展示です!
ノコギリエイが展示されているのが、マクセルアクアパーク品川内のワンダーチューブと呼ばれるトンネル型の水槽です。館内を進んでイルカショーのスタジアムを通り過ぎ、その奥のゾーンにあります。
この水槽は太陽光が直接降り注ぐような構造になっていて、ノコギリエイと同じくサメと間違われやすいサカタザメの仲間やナンヨウマンタなど、温かい海に暮らす生物が展示されています。
前回記事で、「ノコギリエイは温かくて浅い場所に生息し、ノコギリザメはその逆」という話をしましたが、この展示にそれが表れていますね。
アクアパーク品川にいるノコギリエイ3種を解説
では、トンネル水槽に展示されているノコギリエイたちを紹介していきます。
ノコギリエイ科の仲間は、ノコギリエイ属に4種、スベスベノコギリエイ属に1種、合計5種に分類されています。
アクアパーク品川では、このうち以下の3種が展示されています。
- Green sawfish (ノコギリエイ科ノコギリエイ属)
- Largetooth sawfish (ノコギリエイ科ノコギリエイ属)
- Dwarf sawfish (ノコギリエイ科ノコギリエイ属)
ざっくり言えば、デカい2種が一匹ずつ、小さい1種が2匹という展示です。
グリーンソーフィッシュ
- 和名:グリーンソーフィッシュ(和名なし)
- 英名:Green sawfish
- 学名:Pristis zijsron
まずご紹介するのはグリーンソーフィッシュです。
一番の特徴はこの圧倒的なデカさです。
グリーンソーフィッシュはノコギリエイの中でも大型種で、最大で7mに達するとされています。
アクアパーク品川にいるのは4m前後ですが、それでも十分すぎる大きさです。
グリーンソーフィッシュの見分けポイントは以下の通りです。
- ノコギリ状の吻にあるトゲの数が左右23~37本ずつ(展示個体は24本)。
- 顔の近くにあるトゲの感覚が広く、先端付近のトゲは間隔が狭くなる。
- 第一背ビレが腹ビレより後ろから始まる。
ラージトゥースソーフィッシュ
- 和名:ノコギリエイ
- 英名:Largetooth sawfish
- 学名:Pristis pristis
トンネル水槽にはもう一種の大型ノコギリエイがいます。それがラージトゥースソーフィッシュです。
ノコギリエイは日本に生息していないので和名がついていなかったり曖昧なこともあるのですが、一般に「ノコギリエイ」とだけ日本語で言う場合、このラージトゥースを指すことが多いです。
元々この子はアクアパーク品川にはいなかったのですが、京急油壺マリンパークが去年閉館したことに伴い、新たに仲間入りしました。
ラージトゥースソーフィッシュの方も最大で7m近くになるとされる大型種で、かなり迫力があります。
ラージトゥースソーフィッシュの見分けポイントは以下の通りです。
- ノコギリ状の吻にあるトゲの数が左右14-24本ずつ(展示個体は20本)。
- ノコギリ状の吻にあるトゲ同士の間隔はほぼ均等。
- 第一背ビレが腹ビレよりかなり前から始まる。
ドワーフソーフィッシュ
- 和名:ヒメノコギリエイ(諸説あり)
- 英名:Dwarf sawfish
- 学名:Pristis clavata
ここまでの2種と比べると小型なのがドワーフソーフィッシュです。
ノコギリエイの中でも特に小さく、ヒメノコギリエイと呼ばれることもあります。
グリーンやラージトゥースも貴重な生物ですが、このドワーフソーフィッシュは世界でここだけでしか展示されていない、ウルトラ級の激レア種です。
そんなドワーフソーフィッシュの見分けポイントは以下の通りです。
- ノコギリエイの中でも小型(グリーンやラージトゥースより明らかに小さい)。
- ノコギリ状の吻にあるトゲの数が左右18-24本ずつ(展示個体2尾とも21本)。
- ノコギリ状の吻にあるトゲ同士の間隔はほぼ均等。
- 第一背ビレが腹ビレの真上か少し後ろから始まる。
3種の見分け方まとめ
以上3種の見分け方を一覧にするとこのようになります。
マクセルアクアパーク品川に行く機会がある方は、ぜひこれを参考にノコギリエイの見分けにチャレンジしてみて下さい!
ちなみに、お土産コーナーではノコギリエイのぬいぐるみも売っているので、お家でノコギリエイと過ごしたいという方はぜひ買って帰りましょう!
参考文献
- Florida Museum of Natural History『Dwarf Sawfish』(2022年5月19日閲覧)
- Florida Museum of Natural History『Green Sawfish』(2022年5月19日閲覧)
- Florida Museum of Natural History『Largetooth Sawfish』(2022年5月19日閲覧)
- 日本板鰓類研究会会報第33号『日本板鰓類研究会会報第33号』(2022年5月19日閲覧)
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