水族館やダイビングなどで人気のサメは、その注目度ゆえか、なにかと誤解されやすい動物でもあります。
「サメは凶暴な人喰いモンスターである」という偏見は言わずもがな、「メガマウス地震前兆説」や「メガロドン生存説」など、サメにまつわる怪しい噂は数多く存在し、当サイトでもたびたび解説してきました。
今回は「巷に転がるサメにまつわる噂は本当なのか嘘なのか?」というテーマで、サメにまつわる都市伝説めいた噂をピックアップして紹介していきます。
※シリーズ記事として、4記事に分けて1つずつ噂を解説していきます。
解説動画:生理中はサメに襲われやすい?サメは癌にならない?サメにまつわる怪しい噂の真相を解説!
このブログの内容は以下の動画でも解説しています!
※動画公開日は2024年9月11日です。
生理中はサメに襲われやすい?
まず最初にご紹介するのは、「生理中の女性はサメに襲われやすい」という噂です。
「生理中に海に入ると、その血の臭いでサメが寄ってきてしまう。だから生理中の女性は海で泳がない方が良い」という噂が存在します。
実際、一般向けに書かれたサメ関連の本の中には、サメに襲われないための対策として「生理中は海に入らない」という項目を紹介しているものもあります。
また、僕が以前にYouTubeで「天草女子中学生サメ襲撃事故」と呼ばれる事故を解説した動画にも「襲われた女性は生理中だったから血の臭いでサメがやってきた」という真偽不明の謎情報が書き込まれたことがあります。
天草の件については真偽不明ですが、生理中はサメに襲われやすいと一定数の人が信じているようです。
生理とサメの襲撃を安易に結びつけるのは困難
では実際のところ、生理中だとサメに襲われやすいのでしょうか?
この噂については、「そこまで気にしなくていい」というのが僕なりの回答です。
この「生理中の女性はサメに襲われやすい」という噂は、「サメは血の臭いに非常に敏感である」というイメージに由来していると思われるので、そこから紐解いていきます。
サメに影響するのは臭いだけではない
サメの嗅覚は「プールに垂らした1滴の血の臭いも感知できる」とよく紹介され、サメは嗅覚が抜群に優れているという印象があります。
確かにサメの嗅覚が優れていることは事実ですが、サメは臭い以外の様々な刺激をもとに獲物を探しており、血の臭いが全てを決定するわけではありません。
基本的に音の方が臭いよりも速くサメに伝わるはずなので、別の場所から獲物の音が聞こえればそちらに興味を持つと思います。臭いで近づいてきたとしても人間の姿を見て逃げてしまうかもしれません。
海流の向きによっては臭いがサメに届かない可能性もありますし、サメが空腹かどうかも行動に影響します。
このように、サメが獲物を探す過程には複数の要因が影響するため、「生理だからサメに襲われやすい」と安易に言い切ることが難しいのです。
生理による出血では少なすぎる
もちろん、経血の臭いが有る状態と無い状態で他の条件が全く同じの場合、有る状態の方がサメを引き付ける可能性はあります。
しかし、そもそも経血の量が微量なので、海の中で遠くからサメを誘き寄せるほど重要な要素になるとは考えづらいです。
日本産科婦人科学会では、1回の生理における正常な経血の量を20〜140mL程度としています。
水量の限られたプールならまだしも、広い海ではこの程度の血はすぐに薄まってしまい、サメを遠くから誘き寄せる程臭いが広がっていくのか疑問です。
もしサメが経血の臭いを嗅ぎつけられるとしても、それは別の要因か全くの偶然で、サメがかなり近づいてからになるでしょう。
そもそもサメに襲われる確率は低い
もちろん経血がサメを刺激する可能性はゼロではありません。
仮に生理中とそうではない状態で他の条件が全く同じの場合、生理中の方が方がサメを引き付ける可能性はあります。
しかし、大前提としてサメに襲われる確率自体がとてつもなく低いので、過度に心配する必要はないでしょう。
世界中のシャークアタックをまとめているInternational Shark Attack File(ISAF)によれば、2023年に発生したサメによる事故は91件でした(人間側が誘発したもの22件と誘発していないもの69件の合計。詳しくはコチラ)。
海難事故や他の危険生物による犠牲者数と比べると、サメによる事故は非常に少ないのです。
ちなみに、ISAFもこの噂は感知しており「生理中の女性の方がサメに襲われやすいという傾向は存在しない」と公式に発表しています。
また、複数のダイビングショップやスクールが「生理中にダイビングする女性もいるが、サメに襲われやすくなることはない」という見解を述べています。
サメよりも怖いのは体調不良やパニック
ここまでの論点をまとめると以下の通りになります。
- サメは嗅覚以外にも様々な感覚で獲物を探し出して狩りをするため「生理だから襲われやすい」と単純に結びつけることができない。
- 生理による出血量が非常に少ないため、遠くからサメを誘き寄せるほど臭いが広がっていかない可能性がある。
- そもそもサメによる事故自体が少なく、シャークアタックの専門機関のデータやダイビングショップの経験則も、「生理中はサメに襲われやすい」という噂に否定的である。
したがって、「生理中の女性はサメに襲われやすい」という情報は、デマとまで言い切れませんが、ほとんど気にしなくていいと思います。
しかし、生理に伴う心身の不調や「生理中だからサメに襲われやすいかも」という不安が海難事故につながるリスクは気にするべきでしょう。
陸上では平気な体調不良やささいなパニックも海では命に関わります。
サメや生理に関係なく、心配なことがある時は無理して海に入らない方が賢明です。
参考文献
- International Shark Attack File『Menstruation and Sharks』
- 医療法人清風会 岡村産科婦人科『生理の出血量が多いと過多月経の可能性も。起こり得る病気や対処法を紹介』
- 東京ダイビングスクールBeyond『生理中は海に入ってもいい?ダイビング時の注意点について解説』2023年
- 仲谷一宏 『サメ ー海の王者たちー 改訂版』2016年
- 矢野和成 『サメ 軟骨魚類の不思議な生態』1998年
- ラピス マリンスポーツ『生理中の体験ダイビングについて。サメ問題は大丈夫?』2018年
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