標準和名 | ツマグロ |
学名 | Carcharhinus melanopterus (Quoy & Gaimard, 1824) |
英名 | Blacktip reef shark |
分類 | メジロザメ目 メジロザメ科 メジロザメ属 |
生息域 | インド洋・太平洋の沿岸域、日本では西表島で記録あり |
飼育難易度 | ★★☆☆☆(頑張れば一般家庭でも飼育可能) |
サメ好き偏差値 | ★★☆☆☆(サメ好きなら常識レベル) |
ツマグロの特徴
各ヒレ先の黒い模様が特徴的な中型のサメです。シルエットは典型的なサメ型ですが、顔つきが丸みを帯びていて体色も淡い色なので、どこか柔らかい印象があります。
サイズ
オスは91~100cmほど、メスは96~112cmほど。大きくても全長160cm程度のサメです。
ただし、地域によって成熟サイズや最大全長に差はあるようです。
体型や顔つき
ツマグロは典型的なサメ型体型ですが、吻が短く丸みを帯びていて、どこか柔らかい印象があります。
また、ツマグロは目の上の部分がやや角ばっており、この角張が強いと少し怒ったような表情に見えることがあります。
ヒレの特徴や位置関係
ツマグロの第一背ビレは胸ビレの後端付近から始まります。胸ビレは小さめで、そのせいか泳いでいる姿がややあどけなく見えます(そこがまた可愛い)。
第二背ビレは第一背ビレに比べると小さく、そのほぼ真下に臀ビレが位置しています。
また、各ヒレの先端はやや丸みを帯びています。
なお、背鰭間の隆起線はありません。
体色や模様
ツマグロの最も特筆すべき特徴はヒレ先の色です。全てのヒレの先または縁が黒くなっており、その黒い部分の手前は白っぽくなっています。
背中側の体色はくすんだ茶色、ほんのり茶色味がかったグレーとでも表現すべき色をしており、どこかカフェオレを彷彿とさせます。腹側は他の多くのメジロザメ類同様に白色です。
また、臀ビレあたりから胸ビレの上部にかけて薄い帯のような模様が入っているのも特徴です。
ツマグロのこうした体色は、彼らの生息環境で全体の輪郭をぼかして見せ、敵や獲物から自分の存在を見えにくくする効果があるとされています。
なお、以前に幼魚のツマグロを観察した時は黄色っぽい色をしているという印象を受けました。ただし、この時は息絶えた後に冷凍された幼魚だったので、年齢や保存状態が退職に影響した可能性もあります。
歯の形状
ツマグロの歯について、上顎歯は主尖頭部が幅の狭い三角形で鋸歯になっており、基底部もギザギザしています。主尖頭部が斜めになっているため、ちょうどサメの背ビレみたいに見えるかもしれません。
一方の下顎歯は非常に細長く、鋸歯のギザギザが細かくなっています。
似ている種との見分け方
ツマグロのように第一背ビレの先がはっきりと黒い模様になっているサメは珍しいため、この特徴でほとんどのサメと区別することができます。
逆に言えば、胸ビレの先や尾ビレの縁など一部のヒレが黒いメジロザメ類はツマグロの他にも多いため(クロヘリメジロザメ、オグロメジロザメ、ホウライザメなど)、「ヒレ先が黒いサメはツマグロ」という覚え方は間違えの元です。
なお、ツマグロと英名が似ているカマストガリザメ(英名:Blacktip shark)は第一背ビレの先が黒いことがあり、恐らくツマグロに最も似ている種と言えるでしょう。
ただし、吻の長さが明らかにツマグロよりも長い、ツマグロと違って黒い模様の手前が白くなっていないなどの特徴で見分けることができます。
また、ツマグロは幼魚と成魚で模様はほとんど変わらないのに対し、カマストガリザメは成長するにつれて黒い模様は薄れていき、ほとんど見られないことも多いです。
ツマグロの分布
ツマグロはインド洋・太平洋の熱帯海域に分布し、東南アジア諸国、オーストラリア北部、中国、日本南部など幅広い地域で確認されています。
以前は日本にツマグロがいるという確実な記録はなく、報告されている事例もカマストガリザメとの混同の可能性があ指摘されてきましたが、2017年に西表島近海で標本に基づく記録が発表され(標本採集自体は2011年)、日本国内にも野生のツマグロが生息していると確認されました。
他にも、南アフリカ、モーリシャス、セーシェルなどのアフリカ沿岸や、紅海、アラビア海、スリランカ近海などでツマグロの報告があります。
地中海での記録もありますが、これはスエズ運河を通って紅海などから分布を広げたものと思われます。
ツマグロの生息環境
ツマグロは透明度の高い浅い水深を好み、サンゴ礁や砂地、岩礁やそこからのドロップオフなどで見ることができます。
非常に浅い水深に進出することが知られており、人間の膝くらいまでしか水深のないような浅瀬にも現れることがあります。ただし、汽水域に来ることは非常に稀です。
同じ島に沿って移動したり近くの島同士を行き来することはあるようですが、基本的にはサンゴ礁周辺の狭い範囲の中にとどまって暮らしています。
ツマグロの食性
硬骨魚、甲殻類、頭足類などの他、ウミヘビなどを食べています。
北オーストラリアで74個体の胃内容物を調べた研究によれば、魚類を最も頻繁に食べており、次に頭足類とウミヘビを同程度に食べ、甲殻類の割合は最も少ないという結果でした。
ウミヘビの毒はサメに効かないのか。気になります。
ツマグロの繁殖方法
ツマグロの繁殖方法は母胎依存型胎生の胎盤タイプで、栄養が吸収された後の外卵黄嚢が臍の緒・胎盤を形成し、母親から直接栄養を受け取ります。
なお、多くのサメは毎年出産するか1年おきなのかある程度パターンが決まっていることが多いのですが、ツマグロは地域によって毎年なのか1年おきなのか変わるようです。
妊娠期間は短くて8か月、長くて16ヶ月にもおよび、33~59cmほどの赤ちゃんを2~4尾ほど出産します。
ツマグロの人間のかかわり
シャークアタックの危険性
International Shark Attack Fileによれば、これまで発生したツマグロによる非誘発性の事故(Unprovoked attack)は14件、そのうち死亡事故は0件です(2023年10月12日現在)。
非常に浅い場所にも現れるサメなので、ビーチ近くを泳いでいたりウェーディングしている際に噛まれるリスクはあります。
とはいえ、積極的に人間を襲ってくるサメではなくサイズも小さいため、致命的な怪我に繋がる危険性は低いでしょう。
消費利用や観光業
生息地域の沿岸漁業で捕獲され、フカヒレや肝油などの原料として利用されることはあるようですが、体が小さいこともあり、商業的な重要性は低いです。
どちらかと言えば、ダイビングや飼育など、鑑賞対象としての価値が高いサメです。
水族館飼育
ツマグロは常に泳ぎ続けるタイプのサメの中では恐らく最も飼育しやすいサメで、全国各地の水族館で見ることができます。
水深が浅いサンゴ礁を住処とするためか、閉鎖的な環境への適応能力が高いようです。
また、体が小さいこともあり一般向け観賞魚としての流通も存在し、一部の飲食店やホテル、一般家庭などの水槽でツマグロが飼育されていることがあります。
ただし、常に泳ぎ回る中型のサメを90cm水槽や120cm水槽で長期飼育するのは難しいようで、狭い水槽で飼われているツマグロは傷が多かったり泳ぎ方がぎこちないことが多い印象です。
余談ですが、『自由なサメと人間たちの夢』という短編集に、サメ好きのキャバ嬢がツマグロを飼おうとする物語が収められています。
保全状況
IUCN Redlistはツマグロを近危急種(Near Threatened)と評価しています(2023年10月12日現在)。
過去44年間の間に全体の個体数が30~49%減少したと推測されるものの、豊富に生息している地域もあり、極端に危機的な状況ではないようです。
ただし、人間の生活圏に近い浅瀬に暮らすサメなので、汚染や開発の悪影響を受けやすいという懸念はあります。
参考文献
- Florida Museum of Natural History『Carcharhinus melanopterus』(2023年11月16日閲覧)
- IUCN Redlist『Blacktip Reef Shark』(2023年11月16日閲覧)
- 日本板鰓類研究会『板鰓類研究会報 第53号』2017年
- Jeremy M. Lyle, Gregory J. Timms『Predation on Aquatic Snakes by Sharks from Northern Australia』(1987年)
- Jeremy M. Lyle『Observations on the biology of Carcharhinus cautus (Whitley), C. melanopterus (Quoy & Gaimard) and C. fitzroyensis (Whitley) from Northern Australia』1987年
- 仲谷一宏 『サメ ー海の王者たちー 改訂版』2016年
- 渡辺優『自由なサメと人間たちの夢』2017年
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