良くも悪くも多様性と勢いを増し続けるサメ映画には、レジェンド的な名作から引き継がれている(パクられている)お決まりの展開が存在します。
例えば、「サメがいると主人公が警告しているのに、街の偉い人が耳を貸さずイベントが開かれ、そこにサメが襲ってくる」という流れは、サメ映画の伝統行事と言っても過言ではありません。
では、そうしたサメ映画の”あるあるイベント”は現実の世界でも起こるのでしょうか?
今回は「サメ映画のお決まり展開は実際に起こるのか?」というテーマで、3つの”あるある”を深堀り解説していきます。
解説動画:サメ映画”あるある展開”は現実に起こるのか?人喰いザメに懸賞金をかけた実話とは?
このブログの内容は以下の動画でも解説しています!
※動画公開日は2024年5月29日です。
サメの存在を否定してイベントを強行
“あるある”の一つ目は冒頭でもお伝えした、「サメの被害が出ているのにイベントが開催される」です。
- 誰かがサメに襲われる。
- 主人公が「サメがいるかもしれない」と警告する。
- 町の市長や権力者が、経済的損失などを理由に耳を貸さない。
- 海開きやサーフィン大会などのイベントでサメが人を襲う。
- 何も悪くない主人公が命懸けでサメ退治に向かう。
上記はサメ映画の原点にして頂点『ジョーズ』から始まり、あらゆるサメ映画で踏襲されてきた(パクられてきた)、ある種のお約束です。
では、実際にこんなことはあるのでしょうか?
基本的には人命優先で閉鎖される
僕が知る限り、「サメの被害が出ているのに海開き」という事態は考えづらいです。
サメによる犠牲者が出れば、どれだけ経済的な損失が大きかったとしても人命優先でビーチが閉鎖されるのが普通です。
例えば、2023年6月8日にエジプトでロシア人男性がイタチザメに襲われて亡くなった際、襲ったサメが当日に駆除されているにも関わらず、事故が発生したフルガダを含むエル・グアナからアブソマ湾南端までの広範囲で、海水浴やマリンスポーツが少なくとも2日間ほど禁止されました。
さらに、危険ではないサメが目撃されただけで、海岸が閉鎖されるケースすらあります。
2017年7月19日、茨城県の久慈浜海水浴場に30尾ほどのサメが現れて、日立市が翌日を遊泳禁止にする事態が発生しました。
「サメが30尾」とだけ聞くと恐ろしく思えますが、この時に現れたサメはドチザメという非常に大人しく危険度の低いサメでした。
また2015年8月10日にも、鹿児島市の沖合で1.5mほどのシュモクザメが目撃されただけで海水浴場が閉鎖されたこともありました(シュモクザメは危険ザメとして紹介されることも多いですが、人を襲うことは滅多にありません。詳しくはコチラ)。
一応サメ映画では「まだサメが襲ったという証拠がない」という反論のもとにイベントが開催されますが、原因がサメではないにしても人が失踪したり死体で見つかったら、海岸閉鎖したり徹底的に調査するのが正常な判断だと思います。
『ジョーズ』のモデルは別々の場所で起きた事故
ここまで聞いて,
あれ、でも『ジョーズ』の話は実話を元にしているから実際にそういうことがあったんじゃないの?
と思う方もいるかもしれません。
『ジョーズ』のストーリー(厳密には原作小説のストーリー)は1916年にアメリカのニュージャージー州で実際に起こったシャークアタックをモデルにしているとされていますが、実はそれぞれの事故は離れた場所で起こっています。
1件目のビーチ・ヘヴンという場所で発生した後、2件目の事故はそこから北に72kmほど離れたスプリングレイクという場所で起こり、3件目・4件目の事故が発生したマタワン川はさらにそこから北に42kmほどの距離に位置しています。
約12日間という短期間に同じ州内でサメによるものと思しき事故が連続したので一つの事例として有名になりましたが、『ジョーズ』のアミティ島のような狭い範囲で立て続けに人が襲われたわけではありません。
したがって、「サメの被害があったのに対策を怠ったための事故」とは言えないと思います。
『ジョーズ』の市長が海開きを強行した本当の理由
以上のようなことを考えると、『ジョーズ』に登場した市長が何故ブロディ署長やマット・フーパ―の助言を聞き入れずに海開きを強行したのか、むしろ疑問に思えてきます。
これについて深掘りすると、実はこれには映画で描かれなかった裏があります。
映画『ジョーズ』の元になったピーター・ベンチュリ―の同名小説は「サメVS人間」という単純な図式ではなく、サメ騒動の中で巻き起こる人間模様に割とフォーカスが当たっており、内容も映画とかなり異なっています。
その原作の中で、市長ラリー・ヴォーンが実はマフィアと繋がっており、そのマフィアはアミティの不動産に多額の投資をしていたことが明かされています。
つまり、海開きをしないと観光地としてのアミティの不動産価値が下がってしまうため、マフィアが市長に海岸を閉鎖しないよう圧力をかけていたのです。
「サメの事故が連続して観光収益が下がったらそれこそマフィアも大損なのでは?」というツッコミどころはあるものの、少なくともこれくらいの設定を用意しないと、「サメがいるのにイベント開催」という展開はだいぶ無理があると言えそうです。
人喰いザメの首に懸賞金
人間を襲ったサメに懸賞金がかけられることもサメ映画ではよくあります。
『ジョーズ』でも、息子を殺された女性がサメに$3,000の懸賞金をかけて街が大騒ぎになり、サメ漁師クイントが「あの化け物を仕留めるなら1万ドルが妥当だ」と言ってカッコよく立ち去る場面がありました。
ちなみに『ジョーズ』公開当時の為替レートで換算すると、$3,000は日本円で約90万円、$10,000は300万円です。
サメが賞金首になることはある
「懸賞金が提示されたことで賞金稼ぎ気取りの素人が集まり、そこに一味違うプロが混じっている」なんていかにも映画らしい展開ですが、現実にサメに懸賞金がかけられたことが何度かあります。
最近の事例では2024年4月、トリニダード・トバゴで64歳のイギリス人男性がサメに噛まれるという事故が発生した際、現地の議会が襲ったサメに10,000TTD(約23万円)の懸賞金をかけました(現在この懸賞金は取り下げられています)。
他にも、2022年にタイで12歳の少年がサメに脚を噛まれる事故が起きた際、市長が「少年を襲ったサメを、そのサメが犯人だという証拠と共に持ってきた者には1,000バース(約4,310円)の賞金を払う」と宣言しました。
さらに、特定のサメというわけではありませんが、2012年にフランス領レユニオン島でサメの被害が連続した際に、フランス政府が「オオメジロザメを殺した漁師に報酬を払う」と発表したことがあります。
以上の事例を見れば分かる通り、「人喰いザメに懸賞金がかけられる」という設定自体には一定のリアリティがあります。
映画と違う点を挙げるとすれば、サメ映画では犠牲者の遺族が賞金を出すことが多いのに対し、現実には行政がこうした施策を実行することです。
人を襲ったサメを特定して駆除するのは困難
ここで気になるのは、「そもそも人を襲ったサメを特定して駆除し、そのサメが犯人だと証明できるのか?」という問題です。
サメの種類だけなら、被害者の傷跡などの物証をもとに、ある程度絞れる場合があります。
例えば、1992年3月に日本の愛媛県松山で発生したシャークアタックでは、
- 潜水服に残された噛み跡から推定できる口の幅が約40cmほどであること
- 残されていた歯の欠片が鋸歯状であったこと
- 当時の海底水温が12℃ほどだったこと
などの情報を複合的に判断し、被害者を襲ったのは全長5m級のホホジロザメだったと結論付けられました。
また、2023年2月にオーストラリアのスワン川河口付近で16歳の少女がサメに襲われて亡くなったケースでは、残されたDNAを調べることでオオメジロザメによる事故だと判明しました。
上記のように襲ったサメの種を調べることは可能ですが、どのサメが襲ったのか個体ベースで特定するのは恐らく不可能です。
サメ映画では「主人公の前に登場したサメ=犯人」という暗黙の前提のもとでストーリーが進みますが、普通に考えれば海にサメは沢山いるので、現れたそのサメが襲ったのか事前には分かりません。
特に、サメ映画の常連でもあるホホジロザメの分布はかなり広く、『ジョーズ』の撮影地である米国マサチューセッツ州のマーサズ・ヴィニヤード島を含め、どこに彼らが現れてもそこまで不思議ではありません(北極海などは除く)。
したがって、人を襲ったサメを駆除する場合、事故とは全く関係ないサメも含めた事故現場近くのサメを沢山捕まえる必要があります。
この時点で絶滅危惧種の乱獲になるため慎んでいただきたいのですが、仮に沢山のサメを捕まえたとして、その中に犯人のサメがいると証明できるか疑問です。
事故の直後であれば胃や腸に被害者の一部が残っている可能性があります。しかし、時間が経って消化・排泄されていればそれまでです。
また、サメは奥の歯がエスカレーターのようにせり上がってくるという方法で頻繁に歯が生え変わるので、噛み跡と歯型の照合も困難だと思われます。
もしかしたらDNAや同位体を調べて人を食べたことがあるサメかどうか確認する方法があるのかもしれませんが、その確認をするまでに無関係なサメが何匹も犠牲になると考えると、やはり悪手だと言わざるを得ません。
実際僕が知る限り、捕まえたサメが犯人だと証明して懸賞金まで受け取った事例は存在しないのではないかと思います。
はっきり言って、「人を喰ったサメを狙って駆除する」という行為は不毛です。フィクションの設定としては盛り上がりますが、現実世界で懸賞金を出したところで何の解決にもならないでしょう。
凶暴なサメを使った実験
サメ映画では、何らかの実験のために飼われていたサメが人を襲う作品も多く存在します。
代表格が1999年公開の『ディープ・ブルー』です。
一応あらすじをお伝えすると、アルツハイマー病という脳の病気の特効薬を開発するためにアオザメの遺伝子を操作した結果、サメが高度な知能を獲得して研究所内で大暴れするという内容です。
他にも、極秘実験中に生み出されたサメが周囲の人やサメをゾンビ化させていく『ゾンビシャーク 感染鮫』や、ミミズなどの遺伝子を組み込まれて完全に怪獣と化したサメが暴れ回る『シン・ジョーズ 最強生物の誕生』など、実験ザメが襲ってくる設定の作品は多く存在します。
サメが治療薬の研究に使われることはある
では、実験ザメが逃げ出して人を襲う可能性はあるのでしょうか?
実は、治療薬の開発などでサメが実験に使われることはあります。
例えば2021年には、新型コロナウイルスの治療薬開発のために、コモリザメの免疫システムが調べられたことが過去にありました。
また、愛媛大学のプロテオ創薬科学部門がサメを使って様々な抗体を作り出す方法を模索しており、2023年にはエイラクブカを使った実験結果を発表しています。
生物が持つ化学物質などが人間の薬に応用された事例は多いので、今後サメの研究が医薬品開発に繋がる可能性自体は十分にあると思います。
危険ザメは飼育の難易度が高い
しかし、上記のようなサメの実験は、基本的に飼育しやすいサメで行われるはずです。
もっとも最適な候補だと思われるのがトラザメやイヌザメなどです。
サメの中では小さく、常に泳ぎ回るタイプではないため、巨大な水槽ではなくても複数の個体を飼うことが可能です。
上記2種は人工環境下での繁殖も容易なので、サンプル数も確保しやすいというメリットもあります。
先程紹介したコモリザメやエイラブカも、トラザメなどに比べると大きくなりますが、どちらも水族館などで長期飼育されており、危険とは言えないような大人しいサメです。
一方『ディープ・ブルー』に登場したアオザメをはじめ、サメ映画で人を襲うサメたちは体が大きく常に泳ぎ回るので広大な飼育スペースが必要です。
特にアオザメやホホジロザメは繁殖はおろか長期飼育の実績すらほとんどなく、飼育の難易度はトップクラスです。
全体的なクオリティが高いので『ディープ・ブルー』はA級作品とされていますが、「アオザメを使って治療薬の開発」という設定は、「竜巻でサメが飛んでくる」と同じくらい荒唐無稽かもしれません。
まとめると、「サメを使って治療薬などの研究をする」という設定は現実にありますが、用いられるサメが危険な種ではないので、「実験ザメが襲ってくる」という部分が破綻してしまうでしょう。
どうしても実験ザメが人を襲う作品を作るなら
もし僕が「実験ザメが襲ってくる」という設定でサメ映画を作れと言われれば、僕はニシレモンザメを採用します。
ニシレモンザメは大西洋やカリブ海などに生息するサメで、名前の通りやや黄色みがかった体色が特徴です。
大きいもので全長3m以上になりますが、泳ぎ続けなくても呼吸することができます。人口環境にも慣れやすく、水族館で長期飼育することも可能です。
さらに言えば、医薬品開発では不明ですが、サメの学習能力や社会性を調べる実験で使われた実績もあります。
食べる目的で人を襲うことはほぼないものの、鋭い歯を持っていて比較的好奇心が旺盛なサメなので、「実験ザメが暴走して人を襲う」という設定なら、一番現実的な選択肢だと思います。
参考文献
- ABC News(Angela Ho)『Bull shark blamed for fatal Swan River attack on Stella Berry, as tagging program to be widened』2023年
- Bangkok Post『Shark bounty in Satun angers environment minister』2020年
- CNN(Catherine Nicholls)『British man seriously injured in Tobago shark attack』2024年
- Hiroyuki Takeda, Tatsuhiko Ozawa, Hiroki Zenke, Yoh Ohnuki, Yuri Umeda, Wei Zhou, Honoka Tomoda, Akihiko Takechi, Kimiyoshi Narita, Takaaki Shimizu, Takuya Miyakawa, Yuji Ito, Tatsuya Sawasaki『VNAR development through antigen immunization of Japanese topeshark (Hemitriakis japanica)』2023年
- National World(Steven Ross)『Shark attack Egypt: beach ban in Hurghada after a man was killed by a tiger shark at Egyptian Red Sea resort』2023年
- Science Daily『Shark antibody-like proteins neutralize COVID-19 virus, help prepare for future coronaviruses』2021年
- 愛媛大学プロテオサイエンスセンター プロテオ創薬科学部門『サメを使って特殊抗体をつくる』2024
- 産経新聞『久慈浜海水浴場にサメ30匹 20日遊泳禁止 人に無害、被害なし 茨城』2017年
- 仲谷一宏 『サメ ー海の王者たちー 改訂版』2016年
- 西日本新聞『鹿児島、海水浴場にサメ 沖合50メートル、遊泳禁止に』2015年
- ビクター スプリンガー, ジョイ ゴールド, 仲谷 一宏 (訳)『サメ・ウォッチング』1992年
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