今回は、「サメウンチ問題」とでも呼ぶべき、サメの繁殖についての重要な謎を解説していきます。
サメの中には母胎内で赤ちゃんが成長する仲間がいるのですが、赤ちゃんが成長する間、彼らの排泄物をどう処理しているのでしょうか。
素朴な疑問に思えますが、この「サメウンチ問題」はまだ解明され切っていない重要なテーマなんです。
ややマニアックではありますが、テレビなどでは恐らく紹介してくれないと思うので、今回僕なりに解説していきます。
解説動画:超貴重なオナガザメの赤ちゃん&サメウンチ問題!子宮内でサメはウンチをどう処理しているのか?【ハチワレ】【Bigeye thresher】
このブログの内容は以下の動画でも解説しています!
※動画公開日は2021年6月29日です。
何もしないとウンチまみれになる?
「サメウンチ問題」という名称は僕が勝手に使っているだけですが、テーマ自体は学術的に研究されている重要な問題です。
サメは母胎内で羊水に浸かっています。もし、ここに赤ちゃんがそのまま糞尿を排泄してしまうと、排泄物で羊水が汚染されてしまい、赤ちゃんもウンチまみれになります。
赤ちゃんは羊水を通して物質のやりとりをしているので、これは汚いだけでなく命に関わる重要な問題です。
では、胎生のサメやエイの仲間はどうやってこの問題を解決しているのでしょうか。この謎がサメウンチ問題です。
卵食型のサメでは特に重要な糞問題
この「サメウンチ問題」は、卵食型のサメで特に重要になります。
卵食型(食卵型とも呼ばれる)についておさらいをすると、母胎内で胎仔が他の卵を食べて成長する繁殖様式です。
『ジョーズ』のモデルで有名なホホジロザメや、世界最速とされるアオザメなど、ネズミザメ目のサメを含む一部がこの様式を採用しています。
また、シロワニとアオザメでは、母胎内で他の胎仔を食べた事例が記録されています。
卵食型のサメは子宮内で飲み食いをするため、胎盤などで栄養を送り込まれるサメよりも、排泄すべきものが体内に溜まるはずです。
これをそのまま出してしまったら、子宮内が文字通りウンチ地獄になります。
処理せずに溜め込んでいる
では、どうやってこの問題を解決しているのでしょうか?
最近になって発売されたマニア御用達のサメ本『寝てもサメても深層サメ学』の中で、解明の手掛かりが紹介されています。
それが、アカエイの繁殖に関する研究です。
エイとサメは共に軟骨魚綱・板鰓亜綱の仲間であり、アカエイも赤ちゃんを産む胎生です。
アカエイは卵食はしないものの、子宮内で分泌されるミルクのような栄養液を飲んで育つため、子宮内で飲み食いすることは共通しています。
アカエイの胎児の成長過程を調べたところ、胎児の腸の後ろに大量の糞便が詰まっていて、しかも腸の出口が閉じていることが確認されました。
つまり、羊水を汚染しないようにどうにか出しているのではなく、絶対に出さないように全部溜め込んでいるようです。
実際、サメやエイの仲間は腸が短いのですが、アカエイの胎仔の腸は成魚の4〜6倍あり、子宮内にいる期間のウンチ貯蔵タンクと化しています。
アカエイの妊娠期間は短い方ですが、母胎内にいる間ずっと溜まったものを出すとなると、産まれて初めての排便の衝撃が凄そうですよね・・・。
オナガザメの胎仔の腸を観察
では、アカエイで確認されたこのウンチ貯蔵方式、卵食型のサメではどうなっているのでしょうか?
以前にハチワレというオナガザメの仲間の胎仔を観察する機会に恵まれたので、その時の写真をお見せしながら紹介していきます(ハチワレを含むオナガザメの仲間も卵食をするネズミザメ目です)。
ハチワレの胎仔自体もかなり珍しいのですが、今回はこの子の腸を開き、『寝てもサメても深層サメ学』で紹介されていたアカエイのように便を溜めているのか確認してみました。
腹を開いた状態の胎児を見てみると、サメにしては腸がだいぶ大きいです。
種によって比率は異なりますが、サメの臓器で一番大きいのは肝臓であり、浮き袋がないサメたちは肝臓の脂で浮力を維持しているのですが、今回観察したハチワレの胎仔は、明らかに肝臓よりも腸が大きく見えます。
そして、注目していただきたいのがその中身です。結構な量の糞便と思しきものが詰まっています。ちょっと黄色がかった緑色のものが腸内にあるのが確認出来ます。
さらに、腸の出口付近を見てみると、総排出孔の少し手前で色が明らかに変わっています。
この中身を開いてはいませんが、恐らく先ほど話したアカエイのように、ここで行き止まりになっていて、産まれた後に排泄するのだと思われます。
現時点で、僕が話しているのはあくまで推測でしかないので、本職の研究者の方に調べていただく必要があります。
しかし、ホホジロザメの胎児の腸にも緑色の糞が詰まっていたという記録があるため、ネズミザメ目の卵食型のサメも、ウンチ貯蔵方式を採用している可能性は十分にあると思います。
子宮内でサメたちはどうやって排泄物を処理しているのか?
このサメウンチ問題の謎については、進展があればまた紹介していこうと思います。
参考文献
- Taketeru Tomita, Masaru Nakamura, Yasuhisa Kobayashi, Atsushi Yoshinaka & Kiyomi Murakumo『Viviparous stingrays avoid contamination of the embryonic environment through faecal accumulation mechanisms』2020年(2022年6月21日閲覧)
- 佐藤 圭一, 冨田 武照『寝てもサメても 深層サメ学』2021年
※本記事は2022年3月までにWebサイト『The World of Sharks』に掲載された記事を加筆修正したものです。
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