「サメは頭がいいの?」という疑問に対してサメ好きがガチで回答してみた【動物の知能】

サメについて質問される際、意外に答えづらいのが「サメは頭がいいの?」というものです。

サメと言えば「血に飢えた殺人マシーン」のような偏見が未だに根強いうえ、外見や大きさが似ているイルカを引き合いに出され「サメは魚でイルカは哺乳類なんだからイルカの方が頭がいいに決まってる!」と勝手に決めつけられることも多いです。

しかし、サメは世間で思われているよりも高度な学習能力を持っているかもしれません。

今回は「サメは頭がいいのか?」という疑問に対する僕なりの回答を提示していきます。

目次

解説動画:「サメは頭がいいの?」という疑問に対してサメ好きがガチで回答してみた【動物の知能】

このブログの内容は以下の動画でも解説しています!

※動画公開日は2020年6月13日です。

サメはどんな脳を持っている?

何をもって「頭がいい」と判断するのかは非常に難しいですが、一般の方に分かりやすい指標として脳の構造や大きさが挙げられると思います。

サメの脳がどのような構造なのか大雑把に図解しました。

サメの脳図解

詳細な部位の解説は割愛しますが、、サメの脳は様々な感覚器官の中枢になっています。

サメの感覚器官と聞くと多くの人は「血の臭いを嗅ぎつける嗅覚」を思い浮かべますが、実は一番先に感じ取る刺激は音だとされています。水中で音は空気中の4倍の速度で4倍の距離にまで届きます。

魚は僕たちが持つような外耳がないので「耳がいい」というイメージはないかもしれませんが、遠くからでも獲物や敵の存在を感知できる音はサメを含むあらゆる魚に取って重要な刺激です。

この他にも水の流れを感じ取る側線、獲物や天敵の化学物質を感じ取る嗅覚、目で対象を見る視覚、さらに生物が出す微弱な電気を感じ取るロレンチーニ器官など、サメたちは様々な感覚器官を駆使して生活しています。

サメの脳の大きさは?

では、そんなサメたちの脳は一体どれくらいの大きさがあるでしょうか?

単純に脳の重量を比べると体が大きい生物が有利になってしまうので、体重に対する脳重量の比率を見ていきます。

他の生物群と比較したサメの脳重量
他の生物グループと比較したサメ・エイ類の脳重量。『サメ・ウォッチング』掲載の図を基に作成。

このように比較してみると、サメやエイは鳥類や一部の哺乳類と同じくらい大きな脳を持っていることが分かります。

もちろん、「脳が大きければ頭がいい」という単純な話ではないですが、こうした事実を考慮すると「血の臭いを嗅いだら暴れだす殺人マシーン」というサメのイメージはいささか単純すぎる気がしてきます。

ちなみに、今回は「サメ」と一括りにして紹介していますが、当然サメにより脳の大きさも違いますし、感覚器官の能力も差があると思います。

以前、ヨシキリザメとメガマウスザメそれぞれの脳を見比べたことがありますが、ヨシキリザメが全長3mほどでメガマウスザメが全長4・5mほどだったのにもかかわらず、メガマウスザメの脳の方が明らかに小さかったです。

ガマウスザメの脳。
東海大学海洋科学博物館に展示されているメガマウスザメの脳(手はかざしているだけで展示には触ってません)。

これだけで「メガマウスはアホ」と言うつもりはありませんが、鯨類においても、メガマウスザメと同じく濾過食を行うヒゲクジラより魚などの獲物を追いかけて食べるハクジラの方が体重に対して脳が大きいそうです。

もしかすると、海を漂うプランクトンを口に入れて濾しとるだけのサメたちは、外洋やサンゴ礁で魚を追いかけているサメたちよりも単純な脳で十分なのかもしれません・・・。

サメは知能テストに合格するか?

「頭がいい」とされる動物の特徴として、「芸を覚えられる」や「知能テストに合格する」などがよく言われます。

水族館で人間の指示通りにジャンプしたり物をとってくるイルカを観て「イルカは頭がいい」というイメージを持った人は多いはずです。

では、サメは芸やテストができるのでしょうか?

そもそもイルカやチンパンジーに比べると実験数自体が少ないと思いますが、過去にサメの学習能力に関する実験が行われたことはあります。

例えば、ニシレモンザメに「このスイッチを押すとベルが鳴って別の場所でエサがもらえる」ということを繰り返させた結果、ベルを鳴らせば餌がもらえるということを学習しました。これは「条件付け」と呼ばれるもので、コモリザメでも似たような実験が行われて学習に成功しています。

さらに興味深いのが、ニシレモンザメに対して行われた社会学習の実験です。

実験の大まかな流れは以下の通りです。

まず「特定のターゲットに触ると餌がもらえる」というテストを用意して、訓練してこのテスト内容を教え込んだニシレモンザメたちのグループAと、特に訓練しなかったグループBをつくります。

ニシレモンザメ社会学習テスト図解1

このグループAとグループBに別々でテストを受けさせますが、この時にテストに参加しない”観察者グループ”のサメをそれぞれの水槽に追加します(Aと一緒の水槽に入るサメたちをグループC、Bと一緒になったサメたちをグループDとします)。

ニシレモンザメ社会学習テスト図解2

グループAとグループBに対してテストを実施した後、グループCだけ、グループDだけという状態でそれぞれに同じテストを受けさせます。

ニシレモンザメ社会学習テスト図解3

これらの実験の結果はどうなったのか?

グループAとグループBでは、Aの方がテストの結果が良いが容易に予想できると思います。

しかし、訓練を受けたグループAと一緒になっただけのグループCも、グループDに比べて圧倒的に高い成功率で、しかも速いペースで餌を獲得しました。

これらの事実から、ニシレモンザメは他のサメから何らかの方法で新しいことを学ぶことができる(社会学習能力がある)ということが示唆されました。

また、科学的な実験ではありませんが、水族館のサメが餌の時間の前にソワソワするような動きをすることがあります(同じ水族館に通い詰めていると分かるようになります)。

さらに、サメを飼育している方によれば、水に入れた手に頭をのせてくるなど、まるで飼い主に懐いているかのような仕草を見せることもあるそうです。

こうして考えてみると、世間一般で思われているよりはサメも色々と考えているのかもしれません。

知能を議論するうえで大切なこと

ここまで「サメは頭がいいのか?」という素朴な疑問に対し、できるだけやさしく答えてきました。

しかし、これで終えてしまうのも勿体ないので、嫌われることを覚悟で複雑でややこしい問題を最後に取り上げておきます。

それは、「知能とはそもそも何か?」という問題です。

「サメは頭がいい」や「カラスとイルカではどちらが賢いか?」などの話題で僕たちは知能という言葉を気軽に使っていますが、そもそも知能とは何でしょうか?

まず、「どんな特徴をもつ動物は知能が高いと言えるか?」をイメージしてみてください。恐らく以下のような特徴が頭に浮かぶと思います。

  • 自分以外の相手の顔を識別できる
  • 記憶力が高い
  • 遊びを行う
  • 音を使ったコミュニケーションができる
  • 道具を使ったり作ることができる
  • 社会性を持っている

こうして並べてみると分かりますが、「知能が高い」を示す特徴は人間が当てはまる項目ばかりです。

一方で、以下のような特徴は「知能が高い」を示すでしょうか?

  • 臭いを使って個体識別ができる
  • 他の個体と光でコミュニケーションする
  • 自分が出した音の反響から障害物の位置や距離を把握する

これらも記憶・学習・空間把握などが関わる高度な情報処理のはずですが、世間的には「知能が高い」ではなく「特殊能力」、例えるならX-menや悪魔の実の能力者に近いイメージを持たれていると思います。

つまり、知能とは「ある生物の行動が成熟した人間(それも恐らく先進国の健常者)の行動にどのくらい似ているか?」を表す尺度でしかないんです。

そう考えると、サメの知能がどうであれ「知能の高い低い」で動物の優劣を決めるのは、「人間が生物の最上位」という勝手な思い込みに基づいた歪んだ考えと言わざるを得ません。

各生物は進化の過程で生き残りと自己複製に最適な特性を獲得していきました。人間にとって「知能が高い」と思える能力を持たない生物は、彼らが劣っているのではなく、そういた能力が彼らの生存・繁殖には不要だった(あるいは不利になった)だけのことです。

ナマコやヒトデなどの棘皮動物は知能はおろか脳自体がありません。しかし、彼らは僕たちとは全く異なる体の構造で過酷な環境を生き抜いています。今日まで生き残っている以上、彼らも進化における最適解の一つなんです。

ナマコに対して「お前は知能が劣っているから人間より下等だ!」と言うのは、スティーブ・ジョブズに対して「お前はベイ・ブルースよりバッティングが劣っているから下等だ!」と言うのと同じです。「ジョブズにバッティングは不要だったし、iPhone作ったんだから十分凄いだろ。何言ってんだお前?」で終わりになります。

世の中では当たり前のように「あの動物は頭がいい/悪い」と議論され、挙句に「知能が高い動物を閉じ込めたり殺すのは野蛮だ!」と抗議する人たちもいますが、以上の内容を覚えておくと、動物の「知能」について、もう少し冷静に議論できるのかなと思います。

参考文献

  • Tristan L. Guttridge, Sander van Dijk, Eize J. Stamhuis, Jens Krause, Samuel H. Gruber & Culum Brown 『Social Learning in Juvenile Lemon Sharks, Negaprion brevirostris』2012年
  • ジャスティン・グレッグ 『「イルカは特別な動物である」はどこまで本当か 動物の知能という難題』2018年
  • ビクター・G. スプリンガー, ジョイ・P. ゴールド 『サメ・ウォッチング』1992年

※本記事は2022年3月までにWebサイト『The World of Sharks』に掲載された記事を加筆修正したものです。

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