イタチザメは子供をスープで育てる?人食いザメと恐れられるタイガーシャークの繁殖様式や絶滅リスクについて解説!

この記事は以下の記事の続きになります。

ここからは、イタチザメの繁殖について解説していきます。

「凶暴な人食いザメ」という固定観念に囚われていると「繁殖なんかせずに絶滅してしまえ」というレベルの低い意見で止まってしまいそうですが、前回記事でしっかり学んだ人は問題ないでしょう。

危険性やカッコよさに注目することも大事ですが、イタチザメは繁殖様式もなかなかに興味深いので、これを機に少しでも関心をもっていただければ幸いです。

目次

胎盤を形成しないメジロザメ

イタチザメはメジロザメ科というグループに分類されるサメです。

このメジロザメ科のサメたちのほとんどは、子宮内で胎盤が形成され、臍の緒を通して赤ちゃんに栄養が送られます。母ザメから卵黄以外の栄養も沢山吸収するので、赤ちゃんは元々の卵の状態よりはるかに大きく成長します。

しかし、イタチザメはこのメジロザメ科のサメで唯一、胎盤を形成しないサメです。

胎盤で母体と繋がっていない場合、赤ちゃんは最初についている卵黄の栄養だけで成長するはずですから、受精して間もない卵と生まれてくる赤ちゃんの重量は変わらないはずです。 

しかし、イタチザメの赤ちゃんは全長約50〜70cm、明らかに卵黄の栄養だけで成長するには大きすぎます。卵黄以外の栄養を受け取っていないと、この差を説明できません。

胎盤を形成しないサメでも、他の卵を食べるなど別の方法で卵黄以外の栄養を得ているサメもいますが、イタチザメがどうしているのかは近年まで分からないままでした。

スープを飲む赤ちゃんイタチザメ

この謎の解明に尽力したのが沖縄美ら海財団です。

イタチザメの妊娠個体を調べた研究により、羊水自体が豊富な栄養を含むスープのような液体になっていることが明らかになりました。

このことから、イタチザメは卵黄の栄養だけでなく、この栄養スープを吸収することで大きく成長する繁殖様式だとされています。

サメ社会学者Ricky

この繁殖様式は論文内で「Embryotrophy(胚栄養型)」と呼ばれています。

イタチザメ以外にもミルクのような栄養液で赤ちゃんを育てる板鰓類は複数確認されていますが、サンプル数が少ないためにはっきりと分からないことも多く、イタチザメのように卵食も胎盤も使わずに体重が10倍以上になる事例は他にありません。

このような方法でイタチザメの赤ちゃんたちは成長し、30~70尾ほどの子供が産まれてきます。

サメの出産数は種によって異なりますが、大型で人を襲う危険があるとされるサメの中では、イタチザメはかなり多産な方です。

幼いイタチザメ ©pikayadon

イタチザメは絶滅の危機にある?

このイタチザメの繁殖に関連し、彼らの保全について気になることがあります。

イタチザメは一度に生む子供の数もがサメの中では多く生息域が広いため、絶滅危惧種であるという印象はありません。実際、IUCNの評価でもNT(近危急種)となっています。

むしろ、イタチザメは人間に危害を加えて漁業被害もあるサメとして、石垣島などで定期的に駆除が行われることすらあります。

しかし、そんなイタチザメの遺伝子多様性が低い可能性を示唆する研究があります。

前提として、サメは1匹のメスの子宮内に、複数の父親の子供が同時にいることが多いです。交尾自体は1回につき1匹のオスが相手ですが、胎内の複数の卵が複数のオスの精子で受精し、同じ子宮内で異父兄弟が育ちます。

クロトガリザメの胎仔。同じ子宮内で見つかった子たちですが、必ずしも父親が同じとは限りません。

クイーンズランド大学が行った調査によれば、2008〜2012年までにオーストラリア近海で捕獲された4匹の妊娠個体から得られた子ザメ(合計112匹)のDNAを調べたところ、父親が異なっていたのはたったの1匹だけだったそうです。

112匹も調べれば、先述した理由からもっと多くの父親がいてもおかしくないのですが、ほとんど1匹のオスの子供たちでした。

オーストリアでもイタチザメの駆除は行われているので、駆除によりオスの数が減ってしまったのか?それともイタチザメは元々一夫一妻に近い繁殖スタイルなのか・・・?

結論を急ぐことはできませんが、イタチザメを獲りすぎてしまうと、彼らの遺伝子多様性が失われ、絶滅につながってしまう恐れはありそうです。

前回の記事で紹介した通り、イタチザメは非常に多様な獲物を捕食していて、その中には他のサメやウミガメなど、イタチザメ以外があまり襲わなそうな大型動物も混じっています。

もしイタチザメが絶滅してしまえば、海の生態系が大きく変わり、結果的に僕たちの生活に悪影響が出るかもしれません。

日本で行われている駆除も含め、イタチザメ獲り過ぎてしまっていないのか?そもそも駆除に意味があるのか?

彼らの生態を研究しつつ、注意深く見ていく必要があると思います。

参考文献



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