魚がタコに進化?水ポケモンの進化が意味不明過ぎたので生物学的に解説してみた!

今や国民的な人気を獲得し、海外でも愛されるキャラクターとしての地位を獲得した創作上の生命体「ポケットモンスター」。縮めて「ポケモン」

1996年に最初の赤緑バージョン(第一世代)が発売されてから今も勢いが止まらず、今年も11月に最新作スカーレット・バイオレットが発売されます。

しかし、そんな大人気のポケモンですが、

そもそもポケモンの進化って生物学的に考えるとおかしいよね

なんでこのポケモンがこんな姿に進化するの?

というツッコミどころが多く存在します。

そこで今回はポケモンの進化、特に水ポケモンのヤバい進化について紹介し、「生物学的に解釈するとどうなるのか?」という解説していきます。

目次

解説動画:水ポケモンの進化が意味不明過ぎたので生物学的に真面目な考察をしてみた【ポケモン】【進化論】【スカーレット&バイオレット発売記念】

このブログの内容は以下の動画でも解説しています!

※動画公開日は2022年9月6日です。

ポケモンの”しんか”は進化ではない?

まず、大前提として確認したいのが、ポケモンにおける”しんか”と実際の生物の進化は全く異なるものだということです。

ポケモンの”しんか”は、同じ個体がよりパワフルになったり、新しい能力を獲得する現象を指します。

日常生活でも「あのボクサーはさらなる進化を遂げた」とか「陰キャがパリピに進化した」とかよく言いますよね。

しかし、生物学における進化とは、世代を超えて起こる変化を指します。また、必ずしもパワフルになることを意味するわけではありません。

進化は世代を経て起こる変化

せっかくなのでポケモンに例えて説明してみましょう。

メノクラゲの個体群が繁殖を繰り返す環境に、ギャラドスという強力な捕食者が現れたと想定してみます。

STEP
自然淘汰

ギャラドスはメノクラゲを沢山食べてしまいますが、素早く、より強い毒をもつメノクラゲはギャラドスに食べられにくく、そうしたメノクラゲが生き残って子孫を多く残していきます。

STEP
遺伝的変異による適応度の差

すると、動きが早く猛毒をもつ個体の遺伝子が個体群の中で拡大していき、ギャラドスに食べられやすいメノクラゲは次第に淘汰されていきます。

STEP
適応度の高い変異が世代を超えて蓄積される

そうして何世代も変化が積み重なっていくうちに、いつしか最初のメノクラゲとは似ても似つかない、別種と呼べる生物(ドククラゲ)の個体群が出来上がります。

これが自然淘汰による進化のイメージです。こうした現象が起きた時、「メノクラゲからドククラゲが進化した」という表現を使います。

サメ社会学者Ricky

実際にはこんな単純ではないですし、自然淘汰以外にも遺伝的浮動というメカニズムがあったりするのですが、今回は割愛します・・・。

ここで覚えていただきたい要点としては、進化とは世代を経て起きる変化であり、一個体に起きる変化を進化とは呼ばないということです。

進化と進歩はイコールではない

生物学の進化はポケモンのしんかとは違い、常に進歩、拡大、獲得などをもたらすわけではありません。

身体が小さくなったり、今までもっていた能力や特性を失う進化もあります(人間の祖先も尻尾を持っていましたが、今は失っています)。

こうした現象は「退化」と呼ばれ、進化の対義語のように使われることもありますが、退化も進化の一つです。

進化という現象の中で、発達することもあれば退化することもあるというのが適切です。

ポケモンの”しんか”は成長または変態

では、ポケモンに起きるような個体レベルの変化を何と呼ぶかと言えば、「成長」または「変態」と呼ぶのが正しいでしょう。

例えば、サンドがサンドパンに、ワニノコがアリゲイツになるのは、形態が劇的に変わっていないので「成長」と呼べると思います。

一方、キャタピー→トランセル→バタフリーという変化は、その形態が大きく変化しているため生物学的な変態(より厳密に言えば完全変態)と言えそうそうです。

これ以降はポケモンの話なので、僕は「進化」と「成長・変態」をほとんど同じ意味の言葉として使いますが、本来は全く異なる現象だということは頭の片隅に入れておいてください。

テッポウオからオクタンへの進化

テッポウオ及びオクタンは、ポケットモンスター金・銀・クリスタル(第二世代)で登場したポケモンです。

このテッポウオからオクタンへの進化は、ポケモンの世界でも最も意味不明な事例の一つとされています。

ポケモンの多くは動物をモデルにしていますから、「ヘビがコブラに」や「ワニが大きなワニに」など、ある程度納得できる進化が多いです。

しかし、このテッポウオの進化は「魚からタコ」というとんでもない飛躍をします。

この話をするとポケモンガチ勢から「テッポウオからオクタンへの進化は鉄砲がタンク、つまり戦車へと発達するという意味が込められている」という解説を頂く事があるのですが、そんな話は問題ではありません。

重要なのは、これが脊索動物から軟体動物への変化だということです。

これが分類学的にどれくらい凄い事か確認しておきましょう。

門レベルで離れた存在

分類学において各生物は、界・門・綱・目・科・属・種という、住所でいう都道府県市区町村のような細かいグループに分けられています。

種が最小単位で、大きな分類になるほど、骨格、内臓、細胞など身体の根本的な部分が基準になっていきます。

分類階級のイメージ図。実際はそれぞれの階級にもっとたくさんのグループがいます。

テッポウオを魚類とした場合、僕たち人間と同じ脊索動物門に分類されます。

一方、オクタンをタコとした場合、軟体動物門の仲間です。

「門」というのはかなり大きなグループ分けであり、消化器官や血管の構造、骨格の有無など、かなり根本的な体のつくりが異なります。

つまり、もしテッポウオからオクタンへの進化を許容できるなら、人間からオオグソクムシ(脊索動物門→節足動物門)、クジラからサンゴ(脊索動物門→刺胞動物門)という進化もあり得るというぐらい、とんでもない飛躍なんです。

生物学的な解釈:テッポウオは魚に見えるタコ?

ここからは、テッポウオからオクタンという進化を無理やりにでも生物学的に解釈していきます。

現実的な解釈をするなら、テッポウオは魚に見えるが頭足類(タコやイカの仲間)であり、オクタンが生息域を広げるために編み出した幼生時代の姿という仮説が考えられます。

テッポウオがオクタンに進化すると全体的にパラメーターが上昇しますが、素早さだけは下がります。つまり、オクタンはあまり動き回るのが得意ではありません。

そのため、「生まれて間もない頃は魚に近い形で理想的な生育環境まで泳ぎ、住む場所を決めたらオクタンの姿になるという生き残り戦略をとっている」という仮説が成立すると思います。

実際海に暮らす多くの生物が、生まれて間もないころはプランクトンの状態で海を漂い、成長すると自分の縄張りを作ったり定着したりします。

現実の世界にも、エイに見えるけどサメの仲間のカスザメや、鹿に見えるけど実は牛に近いトムソンガゼルなどの事例はあるので、テッポウオも限りなく魚っぽい姿をしたタコなのかもしれません・・・。

キバニアからサメハダーへの進化

キバニアおよびサメハダーは、ポケットモンスタールビー・サファイア・エメラルド、いわゆる第三世代で登場したポケモンです。

名前と見た目で分かると思いますが、それぞれピラニアとサメがモデルになっています。

確かに違う動物ですが、「水に棲む危険な魚」というイメージは共通しているので、先のテッポウオ&オクタンの組み合わせよりは違和感なく世間で受け入れられている気がします。

しかし、分類の垣根を超えるという意味では、この進化もかなり飛躍しています。

ピラニアはサメより人間に近い

僕たちはピラニアやサメ等の生物を「魚」とひとまとめにし、人間とはまるで違う生き物としていますが(中には動物であると認めない人もいる!)、実はこれはやや乱暴な、科学よりもイメージに基づいた分け方なんです。

現在分かっている動物の形態、進化の歴史に基づいた分類はこのようになっています。

脊椎動物の系統学的なグループ分けを簡易的に示したイラスト

無顎類というグループにはヤツメウナギやヌタウナギなどが分類されています。文字通り顎を持たない動物たちで、初期に登場した魚に近い原始的なグループです(さらに言えば、ウナギとは全く別物です)。

やがて、顎を持つ魚のグループが誕生するのですが、ここから様々な方向に枝分かれをしていきます。

骨格のほとんどが軟骨で出来ているグループが現在のサメやエイに、ハイギョやシーラカンスなどに近いグループが僕たちを含む陸上動物になり、そしてそうではないグループがピラニアを含む、いわゆる”普通の魚”と呼ばれるようなグループ(真骨類)に進化していきました。

つまり、軟骨魚類であるサメ・エイたちは、僕たちの祖先が陸に上がろうとする前に他の魚と枝分かれして、完全に独自の進化を遂げてきたグループということになります。

実際にサメの体は

  • ウキブクロがない
  • 骨格のほとんどが軟骨でできている
  • 肋骨が非常に短い
  • 尾鰭の上葉にまで骨が入っている

など、ピラニアを含む硬骨魚のグループとは体の内部構造が全然違っています。

さらに、系統の分岐や色分けを見ればわかりますが、実は人間の方がサメよりもピラニアに近いです。

「ピラニアはサメと人間どちらに近い仲間か?」という質問があった場合、分類学的に則して答えるなら正解は人間になります。

一般には「魚類」というカテゴリーにまとめられがちなサメとピラニアですが、実は僕たちとカラス、あるいはそれ以上に離れた存在なんです。

サメハダーは軟骨魚か?硬骨魚か?

サメとピラニアが根本的に異なる存在であるなら、このキバニアおよびサメハダーは果たしてピラニアのような硬骨魚類なのか、それともサメのような軟骨魚なのかが気になります。

成魚がサメの姿に似ているうえ、彼らはとくせい「さめはだ」を持っているため、一見すると軟骨魚(サメやエイの仲間)のように思えます。

しかし、ここで問題になってくるのがキバニアとサメハダーの姿形です。

実はサメやエイの仲間は、幼少のころと成熟した時の姿がそこまで大きく変わりません。

模様や顔つきなどが違うことはよくありますが、全体としてはみんな大人のミニチュア版と言える姿で生まれます。

イヌザメの幼魚。成長すると縞模様が消えていきますが、基本的な形態はそのままです。

キバニアとサメハダーでは身体の特徴が大きく変わっていますから、サメハダーは「サメに近いフォルムをしているが、サメではない硬骨魚」だと推測することができます。

パールルからハンテールまたはサクラビスへの進化

パールル、ハンテール、サクラビスは先のサメハダーたち同様、第三世代で登場した水ポケモンです。

このポケモンは、パールルという1種類のポケモンから進化するのですが、通信交換時に持たせるアイテムによってハンテールになるか、サクラビスになるかが異なるという面白い特徴を持っています。

ここで注目したいのは、2枚貝ポケモンと言われるパールルから、どう見ても魚にしか見えないポケモンが、しかも2種類も進化するということです。

貝の仲間もタコと同様に軟体動物門であり、魚は先述の通り脊索動物門のグループなので、この進化もテッポウオやオクタンに並ぶミステリーです。

パールルは魚の卵?

では、貝から2種類の魚に変化するという生物を現実的な視点から解釈していきます。

先ほどのオクタンの事例ではテッポウオを幼生の姿としましたが、今回はシンプルに「パールルの正体は二枚貝に産み付けられた魚の卵」という解釈を採用します。

貝が自分の生息域を広げるために魚の姿になるという説でもよかったのですが、残念ながらそれに類似するような生態を持つ軟体動物を僕は知りません。

一方で、貝や貝殻に卵を産み付ける魚は実在します。有名な例がタナゴの仲間です。タナゴ類のメスは細長い産卵管を二枚貝の中に差し込んで卵を産み付けます。

ニッポンバラタナゴ。二枚貝に卵を産み付けます。

パールルの場合は二枚貝の中にパールル以外の中身が見当たりませんから、恐らくすでに中身のない貝殻を使っているか、生きた貝に卵を寄生させ、パールルが中身を食料にしていると思われます。

パールルはレプトセファルス的な存在?

次に、パールルがハンテールとサクラビスという2種類のポケモンに進化する点ですが、これについては、「パールルはレプトセファルス的な存在ではないか?」というのが僕の考えです。

レプトセファルスは、細長い葉のような形状をした魚の幼生です。

ウナギの幼生を指してよく使われる名称ですが、実はレプトセファルスは総称で、ウナギ以外にもウツボ、アナゴ、フウセンウナギ、ソコギスなど、様々な魚がレプトセファルスの状態で幼少を過ごします。

ウナギの幼生として有名ですが、他の魚もレプトセファルスになります。

そして、これらの見分けは非常に難しく、レプトケファルスだけで種を見分けるのは専門家でも容易ではありません。

話をパールルに戻しますが、このパールルから2種類の魚が進化する現象も、パールルには実はハンテールになるものとサクラビスになるもの2種類が存在していて、オーキドやオダマキがきちんと同定できていないだけとすれば筋は通ります。

つまり、ポケモン図鑑で同種のように扱われているだけで、ハンテールになるパールルとサクラビスになるパールルは別種ということです。

現実の図鑑も誤植があったり後の研究で違うと判明することがあるので、図鑑が全てではないということをポケモンは暗に教えてくれているのかもしれません・・・・(多分違う)。

あとがき

以上が、水ポケモンの進化の生物学的解説でした。

半分ネタみたいなテーマでしたが、作っている僕側からすると知識の応用問題に取り組んでいるみたいで結構面白かったです。

好評でしたらまた似たようなテーマで解説していこうと思っていますので、引き続きよろしくお願いいたします!

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