ここ最近、サメというトピックが盛り上がっていると感じることが多くなりました。
水族館や博物館では度々サメに特化した企画展が行われ、現地に足を運ぶと知識や熱量がずば抜けた子供たちによく遭遇します。
また、不思議なくらいバズったIKEAのサメを代表格とするサメグッズも増えてきたように思えます。大手のアパレルや100円ショップなどで、サメがデザインされた洋服や小物、雑貨を多く見かけるようになりました。
実際にSNSでアンケートを取ってみたのですが、ほとんどの人がサメグッズが増えていると感じているようです。
さらに、サブカル分野でのサメ進出も目覚ましいです。
- コスプレイヤーさんがサメデザインの服を宣伝する
- Vtuberさんのキャラクターデザインにサメが用いられる
- 『Baby Shark』という曲が世界的に人気になる
- 食べたものに変身する可愛いサメ「れおなるど」の書籍化
- ふろしきがトレードマークの「おでかけ子ザメ」がアニメ化する
ちなみに、『おでかけ子ザメ』のアニメはYouTubeで観られます。あまりにも可愛いのでぜひ観て欲しいです。
あとは言わずもがなサメ映画です。
これまでに製作されたサメ映画の数は約150本以上とされており、今年2023年には『妖獣奇譚 ニンジャVSシャーク』、『ブラック・デーモン 絶対絶命』が既に劇場公開され、さらに『MEG ザ・モンスター』の続編とフランス発のサメ映画『シャーク ド フランス』も公開予定です。
加えて、温泉でサメが襲ってくるという意味不明なコンセプトの映画『温泉シャーク』のクラウドファンディングが1140%達成というお祭り状態と化しています。
では、何故サメはここまで盛り上がり、人を惹きつけるのでしょうか?
サメ好きとして「サメのココが素晴らしいから!カッコいいから!」と魅力を語るだけでもいいのですが、人気の理由を一歩引いた視点で深堀することで、啓発活動に活かせたり、他の生き物を盛り上げるヒントになる可能性もあります。
そこで今回は、「サメが推される理由というテーマ」で僕なりの考えをまとめてきました。
サメは嫌われるほど身近ではない
そもそも「危険生物」や「人喰いザメ」というマイナスイメージが強いはずのサメが、何故サブカル分野で人気になったりファッションのモチーフになるのでしょうか?
これは、「危険」というイメージだけ先行し過ぎているだけで、実際には被害は少ないし身近でもないという実態が関係していると思います。
『ジョーズ』に始まった数々のサメ映画や、時々流れるサメの事故を報じるニュースにより「サメ=人を食うもの」というイメージが大多数の人の脳内に刷り込まれていますが、サメによる死者数は年間10人を超えるかどうかで、世間の認識よりも圧倒的に少ないです。
そもそも、大多数の一般人は野生のサメと出会うことがまずありません。
むしろ、大きなサメに会うために高い旅費と機材代を支払ってダイビングに行き「どうか会えますように」と神に祈るのが普通です。
そのため、「怖い」というイメージと共に認知度は広まっている割に、サメによって被害を受けたり不快な思いをすることがほぼないので、本気で恐れていたり嫌っている人が少なく、受け入れられやすいのだと思われます。
極端な例えですが、毎週のようにサメが人を襲っていたり、台所のゴミ箱近くで小さなサメがカサカサしてたら、多分もっと嫌われていたでしょう。
ヤンキー子犬理論的な現象
サブカル分野でサメが使われる理由として、ヤンキー子犬理論的な理由があると思われます。
ヤンキー子犬理論とは「普通の人が子犬を助けるよりも、ヤンキーが子犬を助けた方が良いことしている感が増す」という現象です(ヤンキーにいじめられている人間からすると救いがありませんが)。
ヤンキーの例えはともかく、普段は無口で落ち着いたキャラクターが感情表現で見せることで観客を惹きつける現象には枚挙にいとまがありません(『新世紀エヴァンゲリオン』の綾波レイ、『涼宮ハルヒ』シリーズの長門有希、『魔法少女まどかマギカ』の暁美ほむらetc…)。
要は、プラスな状態そのものよりも、マイナスがプラスになる上昇幅が人間の感じ方には大事になるわけです。
接客業でもこの理屈は応用され、あえてサービスの中にほんの少しの不便さ(トイレの場所が分かりにくい、ホテルの部屋に〇〇がない)を作って、客が問い合わせたところで神対応をするという企業もあります。
最初から何でもそろった完璧な状態で出されるより、「困っていたところを助けてもらった」という思い出がある方が満足感が高くなるわけです。
話をサメに戻すと、先述の通りほとんどのサメは人間をエサとして襲わず、シャークアタックの件数も世間で思われているより非常に少ないのですが、やはりいまだに「サメ=人喰いモンスター」という偏見があります。
そんな人喰いモンスターであるはずのサメが『さめーず』や『おでかけ子ザメ』のように可愛くゆるく描かれることで、イヌやネコのキャラクターでは出すことのできない感情の上昇を起こし、人々の心をつかんでいるのだと思われます。
サメはアイコンとして使いやすい
サメは何かをデザインする上で非常に使い勝手のいい素材です。
サメの代名詞になった映画『ジョーズ』の影響もあり、鋭い歯の生えた尖った顔や三角形の背ビレはサメの象徴として世間に受け入れられています。
三角形の背ビレだけでは、それがサメなのかイルカなのかマンボウなのか曖昧なはずですが、「水面から背びれが出ている⇒サメ」というイメージが定着しているはずです。
ちなみに、ダイビング中に頭の上で背びれを作る動作はサメポーズとしてほとんど世界共通で通じます。
さらに、サメは体の側面に切れ込みのようなエラ孔が5~7対ありますが、これもサメとエイだけに見られる特徴です。普通の魚はエラ孔がエラ蓋に覆われて一対に見えますし、イルカやクジラにはエラ孔自体がありません。
つまり、鋭い歯、三角形の背鰭、複数のエラ孔という3つの基準を満たせば、どれだけデフォルメされていていたり荒唐無稽なデザインでも「サメ」がモデルだと伝わります。
こうした分かりやすいアイコンがあるからこそ、デフォルメした可愛いサメキャラ、サメがデザインされた日用品、よく分からないサメ要素の入ったモンスターなど、幅広いデザインのグッズやコンテンツが作られたのでしょう。
深海生物ブームがサメの人気に貢献
サメのブームとはまた別のところで発生した、深海生物ブームもサメの人気に貢献していると思います。
海水浴場に現れて人を襲うジョーズがまさにそうですが、世間一般のサメのイメージは温かい海域の浅瀬や表層に現れる動物だと思います。
しかし、実は500種を超えるサメ類の半分以上は深海に生息しており、流線形の巨体で水面近くを泳ぎ回るホホジロザメはむしろマイナーな存在です(ホホジロザメも深海に潜ることはあります)。
つまり、深海生物が盛り上がると、ミツクリザメ、ラブカ、オンデンザメ、フトツノザメ、エドアブラザメなど、いわゆる深海ザメにもスポットライトが当たるようになります。
そのため、深海生物の展示やグッズが増えて食用利用などが議論される中で、自然とサメの露出度も増え、サメに興味を持つ人が増えるきっかけになったと思われます。
多様性があるので推しを見つけやすい
サメという一つのグループの中に、かなり多様性があるというのも人気の理由かと思います。
- 世界最大の魚類にして小さな生き物を主に食べるジンベエザメ
- 全長30cmにも満たないツラナガコビトザメ
- ブタみたいな鼻と丸い頭を持つネコザメ
- エイのように平べったく全然動かないカスザメ
「サメ」という言葉でまとめられる動物の中には、大きさ・形状・生態など、本当に多種多様な仲間がいます。
このような多様性により、シャープで大きなカッコいいものにあこがれる人、マスコット的な可愛い生物に癒される人、不思議な姿や生態に知的好奇心を覚える人など、色んな人の感性にどれかのサメが刺さりやすくなります。
理屈としてはAKBと同じですね。
正統派、お姉さん系、ロリ系、ボーイッシュ、ダンスが得意な子からお笑い担当まで色々なメンバーがいるので、誰かしら応援したい子が見つかってハマったり、「AKB全体はそこまで興味ないけど〇〇は好き」のように、関心を持つ人が増えていきました。
実際に「サメ好き」でくくられる中にも、深海ザメが好き、危険ザメが好き、底生性のサメが好きなど好みが分かれているので、AKB的な現象がサメでも起きているのだと思います。
多様性によるスーパーシャーク現象
多様性があることのもう一つの効果として、様々なサメの魅力が一つにまとまったイメージが作られやすいというのがあります。
例を挙げてご説明します。
- 世界最大の魚類
- 海のトッププレデター
- 人間も襲う超危険生物
- 何億年も前から姿の変わっていない生きた化石
- 淡水でも生きていける高い適応能力
- 400歳以上生きる驚異の生物
- 人間と同じように胎盤で子供を育てる
これらは、ごく一部のサメにしか当てはまらない情報か、それを誇張した表現です。実際にはこれを全て満たしたサメなんて存在しません。
しかし、これらの情報がまとまって発信されることで、「何億年も前から姿が変わっていない巨大な海の捕食者で適応能力も高い神秘的な動物」のようなイメージが出来上がります。
そうした実際には存在しない「サメ」という一つのイメージによって、良くも悪くも「サメ全体がなんだか凄い」という雰囲気を醸し出して、人気を後押ししている可能性があります。
心理学において、イケメンというだけで発言に説得力があるように思えてしまったり、東大卒というだけで仕事ができるように思えてしまうハロー効果が知られていますが、この現象はハロー効果に近いかもしれません。
様々なサメの仲間がいることで、とあるサメが何かの理由で注目されたり人気を得たりするチャンスが一定数あり、そのたびに「サメ」というカテゴリー全体の注目度や人気も上がるというわけです。
突飛な話に聞こえるかもしれませんが、この現象はある動物でも起きており、それを意図的に利用していると思しき団体も存在します。
それが、鯨類(イルカ・クジラの仲間)です。
- 個体数が激減した絶滅危惧種(シロナガスクジラ、コガシラネズミイルカなど)
- 世界最大の動物(シロナガスクジラ)
- サメをも襲う海の王者(シャチの中の一部のグループ)
- 知能の高い人間の友達(水族館のバンドウイルカ)
こうした一部の種やグループにしか当てはまっていないイメージが混合した存在しないクジラ像「スーパーホエール」が人々の頭の中にできてしまい、反捕鯨団体はそれを利用して「こんなに素晴らしくて危機的状況のクジラやイルカを殺すなんて野蛮である!」というプロパガンダを展開してきます。
仮に意図的に認識を歪めるつもりがなくても、「サメ」や「クジラ」という広い分類群の話をする以上、こうしたイメージの混同は避けられないため、スーパーホエールならぬスーパーシャーク的な現象が起きている可能性は十分に考えられます。
あとがき
今回紹介したサメが人気な理由をまとめると以下の通りになります。
- 怖いイメージの割にほぼ被害を受けないという実情
- 怖いイメージを可愛く描くことで起こる感情の上昇幅
- 再現や伝達がしやすいアイコニックな特徴
- 他のブームの中に巻き込まれる形で人気を獲得
- 色々な人の感性に刺さる多様性
- 多様性により生み出される全体的イメージ
今回取り上げた内容は大いに僕の推測を含んでいます。
ただ、サメが人気になった理由をこうして深堀することで、自分が何かサメに関する商品やサービスを作ったり、あるいは他の生き物を盛り上げたいときに、何かしら生かせるかもしれません。
ぜひ参考にしてみてください。
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